「あ~、雨降ってきてもうたか~。」
主催国で後片付けに追われて、他より遅れる事1時間。
ようやく帰れる事になって外に出たら土砂降りとは運がない…と、スペインはため息をついた。
散歩がてら歩いて帰るつもりだったのだが、傘もない。
某エセ紳士のように、傘をささずに濡れて帰る趣味はないので、これはタクシーを拾うしかないだろうか…いや、でも金もったいないなぁ…と、自分が出ると同時に守衛さんが鍵を閉めてしまったビルの入り口近くでしばし考え込んでいるスペインの耳に、――ミィィ……というか細い声が飛び込んできた。
……?
不思議に思って目を向けてみれば、どこから来たのか本当に小さな、掌に乗るくらいの子猫。
「自分、どこから来たん?おかんはどないしてん?」
普通なら当たり前だが母猫といるはずの子猫だが、周りを見回しても親猫らしき影も、飼い主らしき人間も見当たらない。
本来はふわふわであろう毛がびったりと雨に濡れて体にはりついてしまっているせいか、今にも死にそうなくらいか弱く見える。
いや、見えるではない。
このまま放置すれば確実に翌日には死んでしまっているだろう。
「しゃあないなぁ…親分と一緒に来るか?」
子猫の前にしゃがみ込んでスペインは手を差し伸べたが、その手が目の前に来るや否や、それまではか細い様子で鳴いていた子猫は途端に、低く唸って小さな小さな手でペシリとスペインの手を叩いた。
まるく大きな目はペリドットのようにキラキラと光っていて、濡れた毛並みは黄金色。
とても可愛らしい子猫だが、残念な事に目の上のあたりの毛並みが少し濃い茶色で、それがまるで極太眉毛に見えて、あまり関わりたくはない誰かを思わせる。
「可愛ないなぁ…。じゃ、勝手にしっ。」
と、その可愛げのない態度もあいまって、まるで本当に某まゆげ国家のような気がしてきて、スペインはいったんクルリと背を向け、また贅沢で勿体ないがタクシーに乗るか、雨に濡れて1時間歩くかの検討に戻った。
ああ、でもやはり勿体ない。雨に濡れて帰ってもシャワー浴びて温かいチョコレートでも飲んだらそれでしまいや。
やっぱり歩いて帰ろか。
結局そういう結論に落ち着いて、さあ行こかっ!と、雨の中を一歩踏み出そうとして、ふと後ろを振り向くと、小さくともプルプルと震えながらも立ち上がって大きな目で、負けないぞと言わんばかりに自分をにらみつけていた小さな子猫が、ヘタリと地面に突っ伏している。
「ちょ、自分大丈夫かっ?!」
パシャパシャと水たまりも気にする事なく駆け寄って慌ててその小さな塊を抱き上げたが、パシリ!とその手を振り払ったさきほどと違って、反応がない。
プルプルと小さく震えている事で生きている事はわかるが、かなり弱ってしまっている気がする。
あかん…このままじゃ死んでまうわ。
スペインはためらう事なく背広を脱ぐと、それで子猫を包み込んだ。
「タクシー!!止まったってっ!!!」
そのまま大通りに出てタクシーを拾うと動物病院まで一直線。
結局タクシー代どころか子猫の治療費までしっかり払って、帰宅することになったのだった。
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