――ミィィ
朝…気持ちよく眠っているところをぺしぺしと顔を柔らかい肉球で叩かれる。
ここで起きれば良し、起きなければ今度は顔の上で足踏みをされる。
「…自分…思い切り恩を仇で返しとるやんな……」
と、そこで諦めてスペインが起きつつ恨み言を言うと、子猫は、起きれば良しっ!とでも言うように
――ミゥッ
と一声短く鳴くと、スペインの顔から退くのが最近の日課である。
初日、結局治療を受けて薬をもらって飲ませたら、翌日にはピンピンしていて、獣医に分けてもらった子猫用のミルクを子猫用の哺乳瓶から飲ませると、この小さな体のどこに入るのかと思うくらいの量を飲んだ。
タクシー代に獣医代、ミルクに哺乳瓶、その他もろもろの諸経費を含めば、かなり痛い出費だったにも関わらず、一向に感謝する様子もなく、愛想もない。
撫でようと手を伸ばせば、初対面の時と同様、パシっと小さな手ではたいてくる。
所詮猫なわけなだから恩をきっちり返せとは言わないが、撫でさせて和ませるくらいしても良いではないか…と主張をすると、興味なさそうに、これも子猫用に用意したクッションの上に丸くなって、大あくびだ。
まあ、そんな動作は子猫だけに可愛らしくなくはないのだが、実際に可愛らしい子猫なのだが、あの目の上の毛並みがガンだ。
本当にあのまゆげのような毛並みですべてが台無しだ。
あのまゆげで高飛車に舐めた態度を取られると、めちゃくちゃ腹が立つ。
あまりに似すぎているので、子猫はあのまゆげ国家の人名、アーサーと呼ぶことにしたくらいだ。
でも実際多くの部分に関しては、アーサーはかなり手のかからない子猫だった。
家に連れて帰って洗って乾かしてブラッシングをしてやれば、ふわふわの金色の毛並みのかなり綺麗な子猫になったので、飼い猫だったのだと思う。
壁や柱で爪をといだりもしないし、こんなに小さいのに何故かトイレもちゃんと猫用トイレでするくらいである。
もしかしたら身体が小さいだけで、見かけよりも月齢は高いのかもしれない。
まあ子猫なのでお腹は頻繁にすかせて、その催促だけはうるさかったが、ミルクをやる時だけはスペインの膝に乗って大人しく猫用哺乳瓶で美味しそうに飲んでいて、その時だけは素直で可愛らしいので、朝の乱暴な起こし方を別にすれば良しとする。
拾ってから早10日。
愛猫と言うにはあまりにも可愛げがないアーサーだったが、それでもなんとなくいて当たり前の存在になりつつあった。
そんな当たり前の中で、出来事は起こったのである。
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