お兄ちゃんに任せなさい_2

リヒテンの贈り物は綺麗な刺繍の施された服を着た愛らしいティディベアだった。
そしてそのベアがかけている懐中時計はスイス製、スイスからの贈り物だと言う事である。
実にリヒテンらしい贈り物だ。
その子は寝室の棚の上に時計を開いた状態で座らせて、時計番にする事にした。



全ては穏やかに…。
しかし、そんな和やかな友人との時間をもった翌々日、恐ろしい事に手紙が来た。

この時代、イギリスにメールではなく手紙を送ってくるのなんて日本かカナダくらいで……そしてその2人からならとても好ましくも嬉しいモノだったのだが、あいにくその手紙はどちらからのものでもなかった。

過去何度か受け取ったアザミの蝋封。

それはプライベートでしか使われない…もっと言うなら、プライベートでというのはたいてい嫌がらせだったので、イギリスの脳内では呪いの手紙とインプットされている長兄からの手紙…。

呪いは嫌だ…
でも開けないでスルーなんて事をすればもっと怖い…
長兄からである以上、開けないという選択肢はない。

だがどういうものなのかわからないので、妖精を呼んで、呪いが発動したら能力を無効化もしくは弱めてもらうようにお願いしておき、覚悟を決めておそるおそる開けると、ぽわんと立ちこめる煙。

そしてその中から現れるのはドヤ顔の長兄の顔。

『愚弟、ヒゲの馬鹿から聞いたぞ。
貴様は“可愛い妹になって兄に甘えたい”という願望があるそうだな。
今日は3月3日。東の島国がお前の誕生日の代わりと想定した日だそうじゃないか。
喜べ!誕生日の祝いとやらに願いを叶えてやろう!
お前を女性体にしてやる。
それで思い切り甘えるといいぞ』

そう言って消える兄。
え??と思って思わず手を見ると、いつもの自分よりも小さい手。
おそるおそるそれを胸元に持っていくと、ささやかながらふくらみがある。
やられた!!と、動揺するも、即イギリスを包む光。

そうだ!妖精さんっ!!
と、半分涙目になった目でキラキラと愛らしい友人達を見あげるが、普段より若干低くなった視線は変わらない。

おそらく即解除は無理だったのだろうと言う事は察しがついた。
でもさきほどの光から考えて何かはしてくれたのだろう。
そんな期待の目で見るイギリスに、妖精は少し困った顔を向けた。

「ごめんなさい。呪いを完全に防ぐ事も解除する事もできなかったの」
「ああ、そうみたいだな」
「でも絶望的……ではないわ」

うん、その間は何かな?
嫌な予感に駆られながらも、イギリスはなんとか顔に笑みを貼りつけて優しい小さい友人の次の言葉を待った。

「あのね、最初の呪いはあなたがずっとその姿でいることだったんだけど……」
うんうん?
「スコットランド自身の言葉からなんとか方向性を変える事はできたんだけど……ね」
うんうん?

あまり顔色が良いとは言えない妖精。
イギリスの笑顔が不安に引きつる。

スコットランド自身の言葉?
なんだっけ?

「“可愛い妹になって兄に甘えたい”という願望を叶える?」
と、思い出して口にしてみると、うんうんと妖精が頷いた。

「ようは…願望が叶えられたら元に戻るようにって方向に…」
「つまり?」
「つまりね、あなたが誰か国体に1週間ほどお兄ちゃんって言って可愛い妹として甘えれば呪いが解けて元の姿に戻るように……」
「わあああああーーーーー!!!!!」

妖精の言葉が終わらないうちに、イギリスは頭を抱えてその場に突っ伏した。
お兄ちゃん?お兄ちゃんて??
それでなくても嫌われている自分がそんな事をやらかしたら、生涯笑いものだ。
人間ならまだしも、相手も国体ならそれこそ永遠に近い間語り継がれる黒歴史になるじゃないかっ!!!

しかし…それが出来なければ一生このまま?
それはそれで嫌だ。
でも…一体誰に……


「お隣さんは?」
「絶対にやだっ!」

普通に考えればフランスのせいだし他の事ならフランスに責任を取らせるところだが、今回はあいつだけは嫌だ。
そのくらいなら、ずっとこのままでいい……わけではないが……

ふぅ~っとそこでイギリスはため息をついた。


そもそも一体どこからそんな話が出たんだ?と考えてみれば、おそらく先日のリヒテンとの会話なんだろうと思う。
が、リヒテンシュタインもスイスも面白がってそんな事を言いふらすタイプではない。

そして2人ともそれほどフランスと交流がある方ではないだろう。
とすると……どこだ?
どこから漏れた?

スイスはリヒテン以外とそれほど交流はないし雑談すらしないだろうから、リヒテンシュタインの交友関係か。
オーストリア…からゲルマン……

――あいつかっ!!!

色々な国をふらふらとしているあの男!
たいていの国とは交流がある。
そして…特にフランスとは悪友トリオなどと言われて仲が良い。

「プロイセンの野郎~!!!!」

思いついた瞬間にメールを送っていた。
ただ一言
『可及的速やかに俺の家に来い!』

たまたまフランスの家にいたから…という返答で、イギリスの脳内では犯人確定、責任を取らせる相手に決定する。
それからプロイセンがイギリス邸のチャイムを鳴らしたのは数時間後だった。


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