――可及的速やかに俺の家に来い!
いきなりイギリスからメールが来て、プロイセンは目をぱちくりさせた。
フランスにて悪友3人で飲み会の最中である。
「なんや?プーちゃん。アホ面して…」
とスペインは勝手にプロイセンの携帯を覗き込んで、画面に映るメールを見るなりみるみる機嫌を急降下させていった。
「うあ~、何偉そうに命令しとんねんっ!プーちゃんスルーしときっ!」
と、言いつつ、勝手に――ふざけんなやっ!…と、返信をする。
一方で同じくメールを見たフランスは、うあ~と言う顔をした。
「これ…坊ちゃんかなりご機嫌斜めだね。
あとでお兄さんが聞きだしといてあげるから、いったん時間を置いて…」
と、これだけでそんな事がわかるのは、さすがに長すぎる付き合い、腐れ縁と言うだけはある。
しかしながらプロイセンはそんな言葉を
「ああ、じゃ、俺様ちょっと行って来るわ」
と、遮ったかと思えば、スペインの手から携帯を取りかえして、
『今フランスん家だから、これからすぐ行く。
わりいな今悪友3人で飲み会で、さっきのはスペインが勝手に送った』
と、メールを打ちながら立ち上がった。
そして
「え?ちょっとお兄さんの言った事…」
と、慌てるフランスに、
「ああ、聞いてた。
なんか俺様イギリスにすげえ怒られてるって事だろ?
なら、余計に直接話聞かないとな。
俺様には身に覚えがねえし、何かしたんなら謝罪。
そうじゃねえなら誤解とかねえと。
そういう時に他人を介するのは下策だ。絶対に互いの言葉が正確に伝わんねえ」
と、すでに上着を着ながら応対する。
「あら、プーちゃん男前」
と、それにフランスがにやにやと言えば、プロイセンは
「惚れんなよ?」
と、小さく後ろ手に手を振って部屋を出て行った。
パタン…と閉まるドア。
それを見送る悪友2人。
「あれ…行かせてええん?」
とスペインが問えば、
「ああまで言うって事は止めたって行っちゃうと思うし?」
と肩をすくめるフランス。
「そうやけど……」
と、それでもモノ言いたげなスペインに、
「まあまあ、何か手に負えなかったら戻ってくるでしょ。
スペインはまだ飲むでしょ?
お兄さん美味しいつまみ追加しちゃう」
と、フランスはキッチンへと足を向けた。
一方で大急ぎでユーロスターに飛び乗ってイギリスに向かうプロイセン。
窓の外の景色に目をやりながらも、このところの自分の行動を振り返る。
イギリスと最後に会ったのはいつだったか……
…たしか一カ月くらい前の二国間会議でヴェストのサポートに付いていった時だったか?
と、少し考えなければ出てこない程度には時間が開いている。
ということは、その時のことではないだろう。
怒るならもっと早くに怒っている。
だとしたら…イギリスに近い国に何かしたか?
いや、該当するとしたらカナダか日本くらいだが、その2人にもイギリス以上に会っていない。
プロイセン自身はあちこちの国と関わりを持ちつつも、フリーダムなようでいて、その場にいない国の噂その他はあまりしないようには心がけているため、イギリスに対しての失言というのもしていないつもりだ。
まあ記憶力は良い方なのは自負しているので、思い返しても心当たりがない以上、何かの誤解なのだろう。
そう見当づけつつも、それを解くためにとプロイセンはイギリス邸へと急いだのだった。
そうして大急ぎで向かったイギリス邸についたのは、もう夜中近く。
すぐ行く…と打ったものの、礼儀を重視するイギリスの家のベルをこの時間に鳴らして良いものだろうか…。
ドアの前で少し迷って、しかしこの時間ではホテルも取れないし交通手段もないということで、結局すぐドアの前だと言うのに電話をかけた。
2コールで繋がる電話。
「あ?イギリス?俺様。
今家の前に着いたんだけど…こんな時間になっちまって悪いな」
と言えば、プツっと無言で切られる通話。
あぁ~これかなり怒ってるのか?
と、最悪野宿を覚悟してプロイセンがため息をつけば、目の前でドアが開く。
…が、
「入れ」
と、涙いっぱいの上目遣いで見あげて来た少女に、プロイセンはぽか~んとその場で呆けた。
サラサラの金色のツインテールにクルンと綺麗にカーブを描いた睫毛に彩られた大きく丸いグリーンアイズ。
肌は透き通るように真っ白で、手足も細くて全体的にとても華奢で愛らしい。
全世界妹コンテストでもあればぶっちぎりで優勝しそうなそのアンティークドールのような美少女が、しかし自分を呼びだしたイギリスその人である…と言う事を、プロイセンは何故か一瞬で悟った。
何故?何があった?と脳内グルグルしているプロイセンの腕をその小さな手で掴んで、
「他人に見られたらまずいんだから、さっさと入れっ!」
と、随分と可愛らしい姿になったイギリスは、ドアの中に引きずりいれたのである。
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