ある馬鹿な適応者の話
「魔がどこから来てどう生まれるか…。
どこから…の方はどうやら普段は別空間にいて、特定の条件を満たした地面に2つの空間をつなぐ扉を作ってこっちの世界に来るらしい。
んでもってどうやって生まれるかだか…
昔な、某元宝玉の適応者が魔を狩っていて、油断して深追いしすぎた。
で、重傷を追ったその馬鹿を逃がそうなんて、そいつの対は自分に魔を引きつけた結果、魔に取り込まれたんだ……。
学生のうちはまだその話はしねえで補佐役がその任を担うんだけどな…本来はパートナーが万が一魔に取り込まれたら楽に殺してやるのが相方の仕事の一つでもある。
だから皆二人以上で行動すんだけどな。
でもその馬鹿は相方に惚れ込みすぎてて殺せなかったんだよ。
その時に殺してやればまだマシだったんだろうがよ。
で、なんにも出来ねえくせに、相方取り込んだ竜にしがみついて、穴ン中までおっかけてった。
だが、別空間の人間までくっついていたせいで、竜は自分の空間に戻れなくなった。
そこでその馬鹿を殺そうとしたんだが、なんと強力すぎる魔力を持った対を取り込んだせいで半分対に意識を取られて殺せなかった。
そこでその馬鹿は対を取り込んだ竜とどのくらいの時間そこで一緒にいたんだろうな…。
頭よくて人間の言葉を理解する竜だったから、まあ時間だけはあったし色々聞いた。
魔は別に人間を殺しにくるわけでも取って食うわけでもねえ。
ただこっちの世界の魔力のある人間を取り込んで子孫を残すんだそうだ。
そのために子孫を残せる年齢に達するとこっちの世界に魔力のある人間を取り込みに来る。
それ聞いてその馬鹿は今にもその魔と対のガキができちまうのかって焦ったんだが、単に取り込めば良いってもんじゃねえらしい。
取り込まれた方が相手を受け入れる意志がねえとダメらしくてな、まあ魔の方も媚薬使ったり、脅したり、騙したりと色々やるらしいんだがな。
竜に取り込まれた対がたまに、辛そうな顔でこっちを見るなとか、呻いたりとかしてたのは、単純に竜に取り込まれている状態を見られたくないのかと思ってたんだが、まあ…そういう方向から攻められてたんだな。
それでも対が堕ちなかったのはその馬鹿なパートナーが何にも知らねえ間抜け面でそこにいたからで……でも堕ちたのもそいつのせいだった。
このままその穴で長く過ごせば、その馬鹿なパートナーが地上に戻れなくなる…対が自分を受け入れれば地上に戻る穴を開けてやる…そんな条件を提示されてな…。
その馬鹿はそれでも全然構わねえって言ったんだけどな、対は言ったんだ。
お前はまだ生きてやるべきことをやれって。
その馬鹿は言葉以外に止める手段なんてもってなくて、対が魔を受け入れるのを…対の魔力が魔のそれと交じり合っていくのを…見ないでくれという対のせめてもの望みを受け入れて後ろを向いて耳を塞いでやりすごしていた。
いつも自分が触れるたび赤く染まった真っ白な肌が…何度触れて汚しても誰よりも綺麗なままだった白い身体が他のやつに染められていく……気が狂いそうだった。
そして魔と交じり合ってそこに小さな卵が出現した時に、ようやくその馬鹿は気づいたんだ。
こんな事になる前に一緒に死ねばよかったんだって。
そしてその馬鹿は遅まきながらも最後の力を振り絞って大剣を具現化して、対ごと竜を刺し貫いた。
卵のために魔力が根こそぎなくなっていた竜は抵抗もできずに息絶えた。
こうしてその馬鹿も地上に戻る手段がなくなって自分も死ぬかと大剣を構えたんだが、その時まだかすかに息のあった対に名前を呼ばれて駆け寄ると、対が言ったんだ。
その卵からは不完全に聖と魔が交じり合った存在が生まれる。
育てる人間によっては魔の力を備えた聖にも聖の力を備えた魔にもなる。
だからその卵を持って地上に帰り、託すべき人間に託せってな。
その卵はどういう経過であれその馬鹿にとっては対の忘れ形見で、もしかしてその場で壊すべきだったのかもしれねえが、その馬鹿には手をかけることができなかった。
そうこうしている内に対の意識を感じ取ったのか、対が息を引き取った直後、その卵がゲートを開いて、その馬鹿は地上に戻ったんだ。
ま、そういうわけで…だ、連れ帰った卵は能力を封印した状態で置いといたはずだったんだが、どこぞで魔法の実験やって失敗した余波が丁度窓開けてた理事長室にも来てな、卵を吹き飛ばしちまって、大慌てしてたんだが……」
ローマはそこで言葉を切ってチラリとギルベルトの頭に視線をやった。
え?まさか?
「こいつが…その?」
「そそ、それがその卵の成れの果てだ。」
魔の属性を有するモノを頭に乗せて歩いていたのだ。
普通ならここでもっと焦ってもいいところだと思うのだが、頭上からは邪な気配は全く感じない。
そのギルベルトの疑問に答えるように、ローマは穏やかに微笑んだ。
「そいつは何でか鳥の巣に落っこちて、卵を孵そうとする親鳥の温かさに触れてこの世に生まれ落ちた。
そのあとにすぐ兄弟に巣から追い出されたが、その後優しいお姫さんに何度も拾われたしな。
安らぎを司る月と癒しを司る緑…生まれてすぐその2つの属性を多く持つ魔力に触れ続けて、今んとこそいつは聖の属性に大きく傾いている。
元々魔の属性の方も知能が高く理性も強い竜だったしな。
いわゆる魔の力をも併せ持つ聖の生き物だ。
対面式の日に封印を解いてみたがそれは変わらねえし、お前さんに懐いてもいる。
だからお前さんが魔に傾かねえ限りは大丈夫だ。
ただし…育成者が魔に傾けば魔に傾く。
だから強い理性と良識を持つお前さんに託したんだ。
育て方次第では竜の力を持つ聖属性の最強の人型生物にする事も可能なんだぞ。
ただし…この話はぜってえに他言無用だ。
おかしな目的で同じ物を造りたがる奴がいてもやべえ。」
確かに…目的は魔の撲滅ではあるのだが、そのために手段を選ばず、わざと魔力の強い人間を魔と掛けあわせようとする輩がでないとも限らない。
魔は飽くまで魔であって、人間をさらうのは捕食のため…そう思わせる方が確かに良い。
こうしてギルベルトは理事長と唯一秘密を共有するモノとなったのだ。
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