ローズ・プリンス・オペラ・スクール第五章_6

「なぁフラン、今度の台本ってさ、濡れ場とかねえの?」
「ないに決まってんでしょ~。お前ら何期待してんのよ。」
「いや、あの理事長の事だからさぁ、そのくらいのお茶目ありそうじゃん?」
「いやいや、だって一応女役だし?脱いだらさすがに男の身体だから興ざめじゃない。」
「…お前、そっちかよっ!!」
「え~、俺、姫なら脱いで胸無くても抜けるけどなぁ…」
「よしわかった。それトーニョに言っといてやるわ。」
「うあぁああ~~~!!!!マジそれ洒落になんねえよっ!!勘弁っ!!!」
「うはは~!!ならあとでコーヒーとパンおごれ!」
「ちぇ~」

男子高校生らしいそんな会話が飛び交う中、理事長を伴った教師が戻ってくる。


「おお。死人出てねえな?トーニョどうしたよ?」
ざっと教室を見回してそう言う理事長のローマに、

「姫拉致ってどっか行きました~!」
との答えが返ってくる。

そうか~と、サボりにたいしてはさして気にした風もなく、ローマはボリボリと頭を掻いた。

「毎度毎度俺がいるとは限らねえからな。
今度からはギル、おめえ2段階までは使って構わねえからトーニョ止めろ。」

名指しされてギルベルトは少し眉をひそめた。

「二段階…で、あれ止まると思いますか?」

「ん、成りは小さくともパワーはすげえぞ。
もちろんお前も参戦すること前提だからな?
実戦の訓練にもなるし丁度いいだろ。」

「訓練…ねぇ…。」

「三段階にすると建物壊れっから。
それは本当に死人が出る時以外は使うな。」

「…そうっすけど…まあ了解。」

ギルがそう言うと理事長は、じゃあ頼んだぞと言い置いて戻っていく。



「…何の事?ギルちゃん。」
それを見送ると、フランシスはギルベルトの腕を取ってひとけのない廊下まで引っ張っていくと、声をひそめた。

「そういえばさ、対面式からもう1ヶ月くらいになるけど、俺んとこにもトーニョのとこにも戦闘回ってこない事と関係あり?」

そう、今までは全員対がいなかったのでなんのかんの言って3人全員、もしくは劇の主役の一人を除く二人で回っていた戦闘が、対面式以降全く回ってこなくなったので、フランシスも不思議に思っていた。

それに対してギルは少し肩をすくめて
「まあ、ちょっと俺様も色々新しいモンもらってお試しっつ~のもあってな、慣れないうちは他の奴居ない方が巻き込まねえでいいから…」
と、きまり悪げに言う。

他人に巻き込まれても他人を巻き込みたくない…いつもそんなスタンスのギルベルトがフランシス的には少し水臭い。

そう口にすると、
「お前らはまず対の教育してやんねえと。
そのためにはまず教育されてくれるように信頼関係築くのが先だろ。」
と、もっともな事を言われて黙りこむ。

理論でギルベルトに勝てる気がしない。
かと言ってアントーニョのようにそれを力で蹴散らす勢いもないので、結局フランシスは沈黙するしかないのだ。

「別に…頼りにしてねえとか今後組まねえとかじゃねえぜ?
単に俺様は俺様の新しいやり方に慣れなきゃなんねえし、お前らは対との戦闘に慣れねえと、双方ぐだぐだのままじゃ共闘なんかできやしねえだろ?」

なだめるように言われて、フランシスはため息で答えた。

「まあ…な、俺様はもう対持つ事はねえから…理事長にもらった力を伸ばして対の分を補足してかねえとだしな。」
ケセセッと笑うギルベルトの肩にコツンと額を押し当てて

「なんか…ギルちゃんにばっか大変な思いさせててゴメンね。
お兄さんに出来る事があったらなんでも言ってね?」

と、フランシスが少しやりきれない気分でそう言うと、ギルベルトは

「いや、俺様よりお前の方が大変じゃね?相手あのメタ坊やだし。
良い思いしてんのあのトマトだけだって」
と、苦笑した。

ああ、まあ…ねぇ…と同じく苦笑しながらも、フランシスは
――でもあれもあれで可愛いとこはあんのよ?餌付けしてる最中とか…
と、自分の対を思い浮かべる。

自分の方が対なんておかしいと日々ポコポコ怒ってみせるものの、

――でもフランの作るご飯は美味しいから我慢してあげるんだぞ☆

と、本当に美味しそうに自分の作った料理を頬張る様子は、本当に子どものように無邪気で可愛いと思う。


体格がアレだから皆に色々言われるが、じゃあ自分も対なしで一人きりでいたいかというと否だ。

理想的とは言いがたいが、かと言っていないよりは数段日常が楽しい。
恋人的な何かではなく…そう…例えるなら家族のような?
腹はたつ時もあるし甘い雰囲気などない。
でも居ればどこか暖かく、何かしてやりたくなる。

休みの日に街に食材を買いに行く時など、あれでも進んで荷物持ちをしたりするのだ。
まあ…その代わりアイスをねだられたりするのだが、それもご愛嬌だ。

朝に起こしに行くたび
「フラン、今日の朝ごはんはなんだいっ?」
と、目をキラキラさせて聞かれると、ああ、幸せだなと思う。

「うん…まあ、あれでも可愛いところはいっぱいあるんだよ?」
そんな日常を思い起こしてそう言うフランシスに、
「そうかぁ?」
と疑わしげな目を向けるギルベルト。

「ホントだって!
朝起こした時の第一声が『今日の朝ごはんはなんだい?』だったりとか、買い物行くとちゃんと荷物持って『荷物ちゃんと持ったんだからアイス食べて良いよね?』とか、可愛いでしょ?」

と、そこで自分が可愛いと思うポイントを実例を出して説明してみたが、

「フラン…お前って……いや、いい。うん、お前いいやつだよ。」
と、なんとギルベルトに可哀想なモノを見る目で見られて、ちょっと傷ついたのは内緒だ。



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