──無惨様…書かせる話はこれで良いのですか?義勇の相手役を無惨様にすることもできますが…
なかには物語を書くことに優れた…もっと言うなら現役の小説家なども居て、そのプロ達に無惨の指示の通りに書かせた小説の数々を恭しく掲げる童磨。
それとともにそう添えられる言葉に無惨は一瞬苛立たしそうな表情を見せたが、そこで頭を吹き飛ばさないのは童磨が掲げる小説に血がつくのを避けるためだろう。
それに対して無惨の隣に控えていた鳴女が空気を読んで童磨の持つ冊子を受け取ると、無惨はどこか機嫌よさげに頷いて……また童磨の頭を吹っ飛ばした。
「そんなことをしたら私がこのゲスと同じ行動をとったことになるだろうっ。
私とこの愚かなゲスを一緒にするな。
いずれは私のものになるとしても…だ、それはデマで騙してではなく、義勇の方から私の人柄の素晴らしさに気づいてという形でなくてはならんのだ。
だからその準備ができるまでは、少なくとも私の次くらいには私の義勇に認められても仕方のない諸々を兼ね備えている渡辺に預けてやらんでもない。
そう、義勇を預ける相手として、こんな無冠の能力もない身の程知らずのゲス男を認めるわけにはいかないのだ!
私が手に入れられないでいるモノをそんな奴が卑怯な手を使って手中にするなど、断じて許すわけにはいかん!」
これは元高位の貴族である無惨のプライドの問題だ。
童磨の信者が書き写した、一般人でも読むのを挫折する不死川のあの読みにくい小説を最後の一文までしっかりと目を通した上でビリビリに破り捨てるくらいには、これは無惨にとって大きな問題なのである。
自分が手に出来ないものを手にしているのは優れた人物でなければ許せない。
そもそもが先に出会っていたということで、錆兎は無惨よりも有利な立場だったのだから仕方のない部分もある。
決して自分が劣った人間だから義勇を手に出来ないわけではない。
という無惨の持論からすると、錆兎以外に一瞬でも義勇を取られるなどあってはならないことだ。
そのためなら敢えてライバルである錆兎を擁護してやる。
錆兎とゲス男の所属する団体の頭である耀哉にはすでに苦情は送った。
これは管理者として責任を持つべき由々しき事態だ。
もちろん錆兎自身にもしっかりしろと発破をかける。
単に物理的にゲス男が義勇にちょっかいをかけられないようにすることも出来なくはない。
上弦をけしかけて相手を消せばいい。
だがそれでは不快なデマが悲恋という形で広まりかねない。
なので本人を物理的に消すという方向ではなく、デマを消すために、詰めの甘い人間達の代わりに無惨は錆兎の手の者が手下に書かせているらしい錆兎と義勇が恋人であるということを描いた小説を、童磨に命じてこちら側でも描かせて広めることにしたのだ。
単に義勇の恋愛と言う形だと万が一こちら側の身元がバレた時に義勇に迷惑がかかるので、ゲス男がゲスで退治されるという部分を強調して書かせている。
生き汚いとか自己中とか色々と言われてはいるが、無惨はそんな気を回すくらいには想い人に対しては気遣いのある人間…いや、鬼なのだ。
というか、自分の欲求だけを通そうと強引に出ても無駄なのは過去の転生で思い知っている。
義勇を手に入れるにはまず自分がいかに細やかに誠実に義勇を想っているのかを本人に知らしめる、それが大切なのだと無惨は学習したのだった。
…ということで、無惨が命じたのは万世極楽教の信者たちが神の名のもとに、無法を働き、また広めている不死川実弥を断罪するために書いた小説と言う形で、執筆物を広めるということである。
義勇に迷惑がかからないよう、錆兎と義勇の恋愛というのはこの他にも無法を働いている男が働いている無法の最たるものという形で、飽くまで描く中心は無法の方という風に見せさせた。
そう、なまじ900年も想いをこじらせてはいないのである。
そして…今回のこの無惨の行動に関しては、義勇の耳に入る事があればおそらく900年間で初めてくらいに感謝をしてもらえることは間違いない。
まあ…こちら側は敵対する鬼勢力で隠れて行っていることなので、知ってもらえることはないとは思うが…。
ともあれ、真菰と不死川の人生やり直しバトルでは、真菰側にこうして思いもよらぬ勢力が加わったのである。
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