諦めが悪い2人の人生やり直しバトル_51_記憶と隠された心のうち

実弥が書いた物を最初に知った時には真菰も激怒した。

自分と義勇の恋愛物語をさも事実のように書いているだけでも腹立たしかったのに、それがだんだんエスカレートして、義勇を無理やり自分のモノにしてそこから義勇がほだされていくなどと言う下劣な内容になってきた時点で、実弥を抹殺してやろうかと本気で考える。

…が、真菰がその実行方法を実際に考えるよりも先に錆兎が動いた。

「とりあえず全て余さず回収しろ。処分はせずに提出。
こちらで検閲後、著しく問題ではないものに関しては元に戻すからどこから回収した物かはわかるようにしておけ」

そう言う錆兎の顔には表情がなかった。

普通ならそこで何故戻すのかとか、戻す必要はないんじゃないかとか、真菰も意見をするところなのだが、こういう時の錆兎は普段はかなり尊重してくれる姉弟子の真菰にすら反論を許さない。
これは決定事項である。

なので真菰は全同志達に一斉に錆兎の言葉を伝え、協力を仰いだ。


そうして集まった全ての冊子には番号を振り、番号で置いてあった場所も整理して一枚の紙にそれを明記する。

それを全て錆兎の部屋に持って行くと、すでに宇髄からも回収した物が届いていたらしく、律儀に全てに目を通していたらしい錆兎は、
「ああ、例のやつだよな?ありがとう、そこに置いておいてくれ」
と少し疲れた顔で言った。

そうしてすでに検閲し終わったのだろう、文机の横に積み上げてある数冊を指さして
「右の山は戻していいやつだから宇髄に持って行ってくれ。
左の冊子は放置」
と言う。

それでなくても柱は忙しい上に、他にも色々抱えている錆兎は明らか疲れすぎている。

そこで、
「ねえ、それは全部有無を言わさず処分じゃダメなの?」
と思わず問いかけると、
「全てを禁じると納得がいかないという気持ちを抱えるだろうし、そうすると繰り返される。
それだけなら本人を潰せばいいだけなんだが、上が私生活に関することを精査せずに禁止すると下の不満が募って、問題が悪化するしな。
今回で言えば、本人の意思に反する行為を増長させるような方向の記述や著しく性的対象として見るようにさせるような記述は隊の規律上、不可とする。
だが普通に良好な友人や同僚の関係からそれ以上に親しくというものまで禁じるのはやりすぎだ」
と、この期に及んでそんな答えが返って来て、真菰はため息をついた。

「ねえ…」
「…なんだ?」
「そこまで模範的な柱で居なきゃダメ?」
「まあ、そうだな」
「気づいてる?錆兎ちょっと限度超えて疲れてるよ?」
「…義勇の安全にかかわることだから仕方がない」
「義勇の安全ってそこまでしないと守られないもの?」

と、そこで錆兎はしおりを挟んでパタンと目を通していた冊子を閉じ、真菰に向き合った。

そして困ったように笑う顔は、身体的以上に精神的な疲れを感じさせる。
それがなんだか痛々しくて
「あのね、私は鱗滝さんのために錆兎に立派な柱になって欲しいとは思っているけど、それ以上に錆兎に健やかに居て欲しいと思ってるよ?
それは立派な柱である以上に私はもちろん、鱗滝さんの望みでもあると思うから…」
と眉尻を下げて言った。

もし自分の言葉が弟弟子を追い詰めているのだとしたら、それを訂正したかった。
だが彼は小さく首を横に振る。

「違う…違うんだ。真菰の言葉のせいじゃない」
そう言って、錆兎はまた困ったように笑う。

そうだ。
錆兎は外に向けては朗らかな笑みを浮かべて見せるが、私生活で見せる笑顔はどこか困ったような表情を乗せたモノが多い男だ。

おおらかで大雑把なのは外向きの顔。
その裏でそれを外向きに崩さない必要性を考えるほどには、彼は細やかで思慮深い人間である。

「俺も今生は色々と想定外の事が多すぎて…正直戸惑っている。
まずこれまでずっとあった実家の後ろ盾がなくなった。
それは同時に俺が筆頭家の嫡男という今まで歩んできた道を失って、これからは一個人の渡辺錆兎という人生を歩んでいかなければならないということだ。
お前が言っていた巻き戻る前の人生で俺があの鬼の言葉で平静を失って死んだのだとしたら、あるいは元々そのあたりのことで動揺して心が弱くなっていたからかもしれない。
今生では…やっぱり実家がなくなったあたりで少しばかり動揺していたし、なんならやさぐれてもいたんだよな…」

疲れているのか動揺しているのか…それともそろそろ話しても良いと思ったのか…
どちらにしても錆兎の口から出て来たその言葉はまさに宇髄が言っていた彼が転生前の記憶を持っているという告白にほかならない。
それを錆兎が話したいというならば、真菰ができることはそれを聞いても不都合は起こらないという姿勢を見せることだ。

「あたしはこれまでと同じく、知ったらそれを物事をよりよく進める判断のための情報として取り入れるけど、他には言わないし知らないふりもするし、悪用はしないしさせないからね?」
と笑顔を見せると、錆兎は少しホッとした顔をした。

「義勇がずっと恋人なら、真菰はずっと極々近い親族だったんだ」
と、錆兎はまず真菰について触れる。
なるほど。だからこれまで最大限の信頼を置いてくれたのか…と、用心深いこの男が自分を一番無防備になる場所に同席させ続けてくれたのかをそれで納得した。

「最初の人生では親が早くに亡くなって俺の家に引き取られて姉弟のように育った従姉だった。
その後は姉だったり従姉だったりの違いはあったが、だいたいは一緒に育っている。
いつも俺よりも年上で俺が突っ走り過ぎると止めてくれるような関係だったな。
だから今生で傍に生まれていなかったのにすごく驚いたんだが、今にして思えば、同じ家に住んでいたら鬼の襲撃の時に俺を逃がすために死んでいたかもしれないから、別の家に生まれて良かったのかもしれない。
実家が亡くなって、それこそ900年くらいは続いていた同じような境遇が一気になくなってすごく動揺して駆け込んだ先にお前が居て本当にホッとした。
お前は毎回記憶はないみたいなんだが、いつでも性格も俺への態度も同じで変わらない。
だから義勇が来るまでの半年の間、全てを失くしたわけじゃなかったんだと正直すごく安堵したんだ」

「そうだったのか~。記憶がなくて残念っ!
錆兎と義勇と平安からの歴史をずっとたどってきたのかと思えば楽しそうなのにねっ」
「ああ…大変なことがない時代はなかったが…楽しいには楽しかったな…」
と、明るく言う真菰にそれは自分も少し楽しそうな顔をする錆兎。

でもわかる気がする。
義勇も錆兎も出会った時から何故か弟みたいに可愛く思っていた。
いつの時代の自分もこんな気持ちだったんだろうというのは容易に想像できる。

「特に…俺は一度取り返しのつかない失敗をしているから…」
「…宇髄さんが言ってた義勇が死んであんたが後追いした回?」
「そう、それだ。
自分は強くて義勇は自分の後ろに置けばそれだけで守れると驕っていた。
でも結局数で攻めてこられて引き離されて…。
あれは二度と繰り返すまいと決めている」
「うん、そうだね」
「だから自分を鍛えるだけじゃなく、いざという時のために敵を上回る数の味方を作らねばならない。
これまでと違って実家の力がない分、余計にな」
「なるほどね。そこでこんな手間暇かけてるわけね」
と、真菰はそれに寄り添うように言って頷いた。

確かに錆兎は人気者ではあるが、それは人並み外れた高い能力だけではなく人柄の良さが知られているからでもある。
能力が高いだけだと妬まれる可能性も多々あるし、実際、過去の転生した人生ではそういう経験もしてきて今生の行動なのだろう。

「とりあえずさ、錆兎としてはどういう方向に持って行く心づもりで動いてるの?
食い違った方向に動いちゃわないように、方向性は教えておいて?」
とさらに言うと、
「あまり感心できた方向ではない…。真菰も引くかもしれない」
と錆兎は珍しく不安げな目を向けた。

「大丈夫。あたし達ずっと姉弟だったんでしょ?
状況によって鱗滝さんと切り離さないといけない状況になったとしても、あたしだけはあんたを完全に見捨てたりはしないよ?」
と、真菰はぎゅっと錆兎を抱き寄せて言う。

「あたしだけじゃない。
元忍がね、言ってた。
自分が大切なのはお嫁さん達を別にしたら大将であるお館様と隊長のあんただけなんだって。だからその他の人間があんた達のためにどれだけひどい状況になっても微塵も心が痛まないんだってさ。
あんたにはあんたのこうであるべきって人間像がすごくあるんだけど、それから外れたって家族や友達は案外気にしないもんだよ?」
「そっか…」
「そうだよ。賢さ担当の真菰ちゃんが言うんだから間違いないっ」

そのあたりでなんだか吹っ切れたらしい。

錆兎は
「まあ…真菰に記憶がなかったとしても俺は真菰がどういう人間か知っているし、今生でも真菰は俺の知る真菰に変わりはないな。
宇髄も相変わらず宇髄だし、耀哉様も居る。
義勇を完璧に守る布陣を敷くには十分すぎるな。
さあ、作戦会議を始めるかっ」
と自分を鼓舞するようにパン!と膝を叩いてそう言うと、真菰の問いに答えるために顔を上げた。







2 件のコメント :

  1. 毎度、重箱の隅をつつくようで大変恐縮ですが^^;A「布陣を引く」→布陣するとか陣を敷くが正しい使い方の言葉な様なのでお暇な時にご確認ください。<(_ _)>

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    1. ご指摘ありがとうございます。修正しました😀

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