kmt 短編

彼女が彼に恋した時_14_1

あれから貞子も不死川も学校に来なくなった…。

それはまあ義勇的には平和で良いのだが、鱗滝君がこのところ沈み込んでいるのは大問題だ。

あの日…そう、あのとある休日のこと。

貞子が普通に日々焼いて持ってきてくれるほっぺが落っこちそうになるくらい美味しい焼き菓子に、自分もこのくらい美味しい菓子を作って甘党の鱗滝君を笑顔にしたい！そう思って不死川家に菓子の作り方を習いに行ったのが事の始まりである。

不死川の家と言うとあまりイメージではないが、貞子の家と言うとなんとなくイメージに合ったオシャレな洋館。

通された応接室もなんだか立派だし、出されたジュースも下がオレンジジュースで上が紅茶、そしてグラスの端にオレンジが刺してあるというオシャレなもので、なんだか感心した。

長女だから所帯じみているとよく貞子自身は言っていたが、こうしてみると色々がオシャレで、全くそんなことはない。

そんな貞子は飲み物を出してくれたあとで、すぐハッと気づいたように買い忘れがあるからすぐそこのコンビニに買いに行くとエプロンを外しながら言う時にも、家を出る直前に添えた言葉は

「すぐ戻ってくるので、寛いでいてくださいね」

で、なんだか良いお家の気が利くお嬢さんという感じがした。

ところがこの飲み物が実は曲者で、使っているアイスティを作った不死川がそれに無臭の酒を混ぜていたらしい。

ほんの数的だったのでオレンジや紅茶の味に紛れて気づかなかったのだが、飲み干すとなんだか頭がボ～っとして来た。

そこに何故か現れた不死川。

力が入らない所に片手で両手を押さえつけられて、そのままもう片方の手が伸びてくる。

首を絞められるのか腹でも殴られるのかと、すごく怖くてどうしようかと思ったが、そこでさらに現れたなんだか綺麗な女の子が彼をバットで殴り倒してくれた。

そうして何故か彼女と一緒だった村田君と宇髄君。

宇髄君がアルコールを飲まされているからと救急車を呼んでくれて、その後、病院だったので、一体何が起きているのかよくわからない。

ただ、駆け付けた母と姉が号泣して、父と鱗滝君が青ざめていたのはぼんやりと覚えている。

結局その諸々のことについての詳細は教えてもらえなかった。

でも状況から察するに、義勇のことが嫌いな不死川が自分の妹と義勇が仲良くするのが気に入らないで義勇に嫌がらせをしようとしていたということなんじゃないかと義勇は思っている。

幸いにして義勇自身は全くアルコールを飲んだ事がなかったので酔ってぼ～っとしただけで、なんならその日の夜には元通りだった。

なので、実害と言う意味では貞子に焼き菓子の焼き方を教われなかったくらいだが、翌平日の月曜から不死川は学校に来なかったのである。

あるいはアルコールを混ぜたことが学校にバレて、嫌がらせにしても度を過ぎているということで、停学か退学にでもなったのかと思っていた。

が、宇髄君に言わせると不死川家は両親が離婚するしないで揉めているとのことだったので、そちらの関係かもしれない。

いや、不死川だけじゃなく貞子まで学校に来ていないという事は、そういうことなのだろう。

ということで、義勇的には静かな日常が戻った感じだが、冒頭のように鱗滝君がなんだか元気がない。

不死川も飲み物にアルコールを仕込むんだったら貞子に菓子の作り方を教わったあとにしてくれていれば良かったのに…。

そうしたら、美味しい焼き菓子を焼いて、何故か沈んでいる鱗滝君に食べさせてあげられたのに…と、義勇は今更のように不死川に腹がたってきた。

腹はたったが本人が居ないので仕方がない。

焼き菓子を教われなかったことを嘆いていたら甘露寺さんが今度とっておきを教えてくれるというので良しとした。

そんなこんなで平和な日々かと思ったのだが、数日後、義勇には直接関係はないのだが、とんでもないことが起きたのである。

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