…え?死んだ??
その日は登校中からなんだか周りがざわついていた。
義勇は伊黒君と甘露寺さんと一緒に登校していて、伊黒君は甘露寺さん以外の何者にも興味がないので、特に動揺することはなかったが、甘露寺さんは周りのざわつきに落ち着かない様子だ。
ということでも驚きだったのだが、そこでところどころに聞こえる『不死川』の名前に義勇はさすがに驚いて足を止めて、うわさ話に興じる生徒を振り返った。
そうか…不死川が死んだんだ…確かに迷惑な人間ではあったけど、死んでほしいとまでは思って居なかったんだけど…と、一瞬思って、しかし続く、次子…の言葉で、亡くなったのが同級生の不死川じゃなく、その妹で今回義勇のために色々動いてくれたらしい、寿美の方らしいと知る。
そのとたん怖くなった。
もしかして義勇を助けてくれたせいで不死川に殺されたりしたんだろうか…などと、不死川に対して大概失礼なことを思ったりしたのだが、甘露寺さんに頼まれた伊黒君が噂をしていた生徒達に聞いてきてくれた真相は少しばかり違っていたようだ。
義勇のことはおそらく関係ない。
宇髄君が言っていた通り、不死川の両親は離婚問題で揉めていて、離婚したい母親が貞子と下の弟妹を連れて逃げたらしいのだが、それで荒れていた父親が残った子ども達に暴力を振るって、打ち所が悪くて…ということらしい。
ある程度の年になった上の男二人が父親の所に残ったのはまだわかる気がするが、そこで次女の寿美が父の所に残ったのは謎だ。
でも、とにかくそうして次子が亡くなり、父親は逮捕送検。
不死川はどうしているのかはわからないが、学校どころではないだろう。
伊黒君が聞いてきたのでスマホで確認してみれば、どうやらニュースにもなっているらしい。
全く知らない相手ではない。
でも不死川家の中では知らないに近い人間なので、その微妙な関係性もあって複雑な気持ちだった。
そんな風に落ち付かない状況での登校。
クラスでも同級生達が大騒ぎだ。
というか、学校の周りに記者がいっぱい来ていて亡くなった次子の事を色々聞きまわっていて、学校側が対応に苦慮している。
最終的に教師が校門に立って記者をシャットしているようだ。
まあ義勇にとっては同級生の妹の死という、身近と言えなくはないが、半分は他人事のような出来事で、せいぜい、それなりに仲が良かった貞子は妹がこんなことになって大丈夫かなとか、不死川と親しかった宇髄君は大変かもなぁとか、そんなことを思って居たのだが、今回の諸々は義勇が思っている以上に、義勇自身にも色々影響を及ぼす出来事だったらしい。
まず、義勇が教室で甘露寺さん達と居ると、部活のはずの鱗滝君が戻って来て、なんだか荷物をまとめて帰り支度をしていた。
…え?なに?と思って駆け寄ると、すごく険しい顔で、
──ちょっとこれから村田と一緒に貞子に会ってくる
というではないか。
え?え?それはっ?!!
と焦る義勇。
こんな時にそんなことを考える自分はひどいとは思うが、今、彼女は確実に義勇よりも可哀そうな身の上なのである。
そんな状態の貞子と鱗滝君が会ってしまったら…と思ったら居てもたってもいられなくなって、
──私もっ!私も一緒に行くっ!!
と、もう返事も聞かずに帰り支度を始めるが、鱗滝君はきょとんとしている。
──えっと…状況が状況なんで大人数で目立つのは避けたいんだが…
と、言われて、義勇は泣きそうになるが。何故泣きそうになっているかもわかっていなくて鱗滝君は心底困り顔だ。
そんな時、本当に甘露寺さんと仲良くなった時点で彼のおそらくこの世で5指くらいに気にかけてやるべき人間に入れたんだろう。
なんと伊黒君が
「錆兎、お前は良い奴だと思うし頭も悪くはないが、女心というものを全くわかっていない。
おそらくお前に対して特別な想いを抱えていたであろう女子が不幸な目にあった状態で会いたいと言ってきたら、普通の女子なら会わせたくないと思うのが人情というものだ。
冨岡は世界で一番優しく素晴らしい女性である甘露寺の親友だからな。
そのあたり思いやりがあって、お前に行くなとは言っていないのだから、せめて一緒に連れて行ってやれ」
と、間に入ってくれた。
しかしそんなことは夢にも思って居なかったらしい。
鱗滝君は本当にびっくりした顔でおそるおそる義勇に視線を向ける。
なので義勇はうんうんと大きく頷いた。
ああ、そうだ。
鱗滝君は自分がとても優秀で好かれる人間だという自覚はあるのに、女子が自分に恋愛感情を持っているとか、そういう自覚が欠片もない。
本当に不思議なことに、彼は自分自身のことを、人間として好かれはするものの、恋愛相手としてはモテないと心の底から信じている。
義勇だけじゃない。
皆がそれはありえないと思って居るのだが、本人は何故か本当にそう信じているのである。
義勇は鱗滝君は完璧な彼氏だとは思って居るが、その一点だけは考えを改めて危機感を持ってほしい。
モテもしないのに何故か自信だけは満々の不死川のようなのも困るのだが、鱗滝君みたいに自覚なく女子の恋心を奪ってしまうのも、それはそれで困るのだ。
──え~っと……
と、鱗滝君はちょっと戸惑ったように口を開いた。
「俺が貞子に会いに行くんじゃなくて、呼び出されたのは村田なんだ。
で、ちょっと今村田の様子がおかしいというか…たぶん村田は寿美とすごく仲が良かったみたいで…一人にするのが心配だから、正確には貞子に呼び出された村田の付き添いに行くというだけだから、俺はほぼ無関係だと思う。
でも…もしどうしても義勇が気になって嫌だというなら、きちんと先生に早退の許可を取ってからな?
無断だと内申に響くし、一緒に上の学校に行けないと嫌だろう?」
確かに!
一応高校に進級できるかどうかは成績次第だが、素行があまりに悪いといけない可能性も出てくるかもしれない。
というわけで義勇は自宅に電話をして、母から家の事情で早退したいという連絡を入れてもらって早退することにした。
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