寮生はプリンセスがお好き10章33_形勢逆転

おそらくシャマシュークの他の寮長や高等部生達が見たら感動のあまり目を潤ませるであろうこの光景は、そのスピリットを根底から否定したロディには不快なものとしか映らなかった様である。
口の端を歪めて嫌な笑みを浮かべてシャルルを見た。

「ずいぶんと偉そうな口を聞くじゃないか」
と言う言葉には寮長として…そして寮生の一員としてあるべきプリンセスへの敬意は感じられない。

それにギルベルトは不快感を感じた。
そう、そこで自身だってアーサーに出会うまではさして重視していないように思っていたこのプリンセスを戴くという慣習を、自分もシャマシュークの学生として大事に思っていたのだと今更ながら気づく。

そして、ロディを排除することというユーシスの共闘の条件に改めて心の中で強く同意した。
彼をこの学園の寮を…寮生達を仕切る寮長としておくべきではない。
ロディをその座から引きずり下ろすために戦う気は満々だ。

そしてその意志は、飽くまで金竜のプリンセスを背にかばい、引き返す様子のないギルベルトの様子で相手にも伝わっているだろう。

しかし学園最強と言われる銀狼寮寮長を前に余裕を見せるロディ。
理由は簡単だ。
彼には多くの人質…中等部生達がいる。

「余計なことに関わんなきゃいいのにな。
俺らに殴り倒されれば銀狼も地に落ちるし、かといって中等部生を見捨てて殴り掛かってきたとなったら、やっぱり評判は地の底までまっしぐらじゃね?
動いても動かなくても終わりだよな」
とロディはニヤニヤと笑いながら後ろの各バルコニーにチラリと視線をやることで、ギルベルト達が動けばなんなら中等部生達をバルコニーから突き落とすぞと暗に脅しをかけてきた。

そこでギルベルトは綺麗な形の眉を寄せ
「さすがクソ外道な卑怯もんは言うことが違うな」
と苦笑する。

その様子が綺麗な顔をしているだけにとても馬鹿にしている感が際立って見えて、ロディはかなりイラっとしたようだ。

「俺は賢いだけだっ!
必要なら馬鹿なガキもプリンセスなんて言っておだててやるし、その必要がなくなったら上手く再利用してやろうとしただけだっ!
シャマシューク最強なんて言われて調子にのってる馬鹿な下級生に現実を見せてやるのは、賢い大人としてのちょっとした親切心だっ」
と、叫んでサっと手をあげた。

それはおそらく攻撃の合図だったのだろうが…シンと静まり返る寮内。

──…えっ…?

何も起こらない後方にロディが不思議そうに振り返れば、中等部生達を拘束していたはずの高等部生達は中等部生ごとバルコニーから姿を消し、人気のなくなったバルコニーの中で唯一、最上階である3階のバルコニーからモブースがぜーはーぜーは―荒い息を吐きながらも、ギルベルトに向かって敬礼していた。

「残念だったな。
所詮薬物を使って洗脳したまがいものの忠誠心なんざ、長続きしねえんだよっ。
そんな手を使わねえと誰も付いてこねえお前と、役にたつために自主的に動く部下を持った俺様と、調子に乗ってんのはどっちだろうな?」

そう、遊撃を申し出たモブースはその存在感のなさを最大限に発揮して金竜寮内に潜入し、一つ一つのバルコニーを地道に回って高等部生達の洗脳を解き、再洗脳を防ぐために念のため飾り紐で作ったブレスレットを渡して回ったのだ。

何度も何度も役にたってくれたモブ三銃士としてはそういう行動に出る流れだろうな…とギルベルトも理解した上で、彼が仕事を終えるまでロディをこの場に引き付けて言葉で関心を向けさせて、行動に出るのを防いでいたというわけだ。

正気に返った高等部生達は今頃寮内で中等部生達の手当てをしているところだろう。
なのでギルベルトは救護班に金竜のプリンセスであるシャルルを護衛しつつも金竜寮内に入り、怪我人の救護に当たるように指示をする。

「ふざけるなっ!!金竜の寮長として他寮の人間が寮内に入る許可はせんっ!!」
とキレるロディ。

だが多勢に無勢。
十数人の銀狼の護衛に囲まれたシャルルが
「お前なんか金竜の寮生を名乗るなっ。
金竜を裏切って踏みにじったただの薄汚い裏切者がっ。
銀狼の寮生は人道的支援にきてくれたんだ。
俺が金竜のプリンセスの名において入寮を許可する」
と、毅然と言って共に横を通り過ぎるのを止める術はなかった。










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