寮生はプリンセスがお好き10章32_ボロボロな漢気

──おや、うちのを連れ帰ってくれたのか、軍曹。

慌てた寮生とは対照的に、少し経って出てきたロディは随分と落ち着いていて、にこやかに言う。

──どう見ても友好的な理由で来たようには見えねえよな?魔女の薬で脳みそ腐ったか?
と、それに応じるギルベルトは表面的には笑顔だが、言っていることは大概だ。

互いに笑顔を浮かべながらもバチバチと飛ぶ火花。
その攻防を待ちきれなくなったのは金竜のプリンセス、シャルルである。

──ランディ達みんなはどうしたっ?!
と一歩前に出ようとしてギルベルトに止められる。

それをニヤニヤと眺めるロディ。

──あ~、寮を裏切った裏切者達はお仕置きしておいた。会うか?
と後方の高等部生にアイコンタクトを送ると、その寮生がまた寮内にいる寮生に声掛けをして待つ事数分。

バッとこちら側に面した部屋のバルコニー全てに見える人影。
それは高等部生達に引きずられるようにされている傷だらけで後ろ手に縛られた中等部生達だ。

──…みんな……
と言ったきり言葉のないシャルル。
ポロポロ流れ落ちる涙。

そんな中でおそらく今回のプリンセス避難計画の首謀者なのだろう。
一際ボロボロの中等部生がロディの下へ引きずられてきた。

ギルベルトも彼の顔には見覚えがある。
いつだってプリンセスの傍らにいて、前回のロディが自寮のプリンセスを見捨てて勝利に走っていた時も、2学年も上で寮長の中でも最強と言われていたギルベルト相手に一歩も引く様子もなく、プリンセスを守るために自分が間に立ちはだかっていた少年だ。

おそらくこれが今シャルルが言ったランディなのだろう。


全身傷だらけなのはもちろんのこと、左腕がダランと変な方向に曲がっているところを見ると、骨が折れているようだ。

それでも少年は
──軍曹動かしたのかっ…さすが俺らのプリンセスっ!
と不敵に笑う。

ああ、もうこれは…とギルベルトは泣きそうな気持で思う。
動いて良かった。動くべきだった。
自分より年下で物理的には遥かに弱い中等部生の少年達の必死な漢気を汲まなくて何が最強の寮長だと言うのだ。

そんなギルベルトを感動させたボロボロの少年たちの漢気は、しかし自寮の寮長には欠片も顧みられることはなかったようである。

──…みんな…
泣きながらそのあとに”ごめん”と告げようとしたのだろう、シャルルが”ご”の形に開いた口を、ギルベルトはパシッと手で制して叫んだ。

「謝るなっ!お前だけは謝るなっ!
お前が謝ったらこいつらの決断が意味のないもんになるっ!!
こいつらの判断は正しいし、お前は悪くねえっ!
どうしても何か言いたかったら褒めてやれっ!
よくやった、頑張ったって言ってやれっ!
クソ野郎達は俺ら上級生がなんとかするから、お前は褒めろっ!
こいつらを褒めろっ!!」

その言葉に中等部生達はそれぞれが痛みに顔をしかめながらも何かを期待するようにシャルルに視線を向ける。

一斉に向けられた視線に一瞬おののきながらも、そこは唯一残された金竜の御旗という自負に後押しされたのだろう。

──皆、よくやってくれたっ!俺と一緒に暴君を倒して金竜の誇りを取り戻そう!!

まだ声変わり前の高い声は頼もしさは足りないが、それでもそれまですがるような視線を送っていた中等部生達は、その言葉に一斉に痛みをこらえながらも歓声をあげた。












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