寮生はプリンセスがお好き10章31_進軍

ユーシスがそんな風に暗躍している頃、ギルベルトは寮生達を率いて金竜寮へと向かっていた。

ギルベルトの次に戦力があるであろうバッシュとルートは銀竜の寮生全員と寮長のルークとプリンセスのフェリ、そして金狼の寮長の香とプリンセスとは名ばかりの怪力アルと共に自寮のプリンセスの護衛に残し、モブ三銃士も一人はプリンセスと残り、一人は銀虎のユーシスと行動を共にし、最後の一人も望まれて遊撃を許しているために居ない。

なので先頭には自身と金竜のプリンセスのシャルル。
そして特に選んだ精鋭達。
その後に簡単な医療訓練を受けている救護班。
それをはさむように最後に一般寮生が配置されている。

普段なら真ん中の救護班は省くのだが、今回は彼らが最重要人員だ。
前提としておそらく金竜の中等部生は怪我をしているだろうし、マクレガーの背後の組織は学生達に危害を加えることを躊躇せず行う輩なので、あるいは洗脳済みの学生がほとんどの金竜には何か渡している可能性もある。
なので、それに立ち向かうということは、こちらも大怪我を負わされることを覚悟しなければならない。


当たり前だが軍人家系と言ってもまだ身分としては学生で子どものギルベルトは本当の戦地で戦った経験があるわけではないので、学校行事と言う範疇を超えて最悪命に係わるかもしれない戦いに赴くのは緊張する。

だが頭である自分が不安を見せれば皆不安に思うだろうし、なにより自分と違ってもう安全な場所というものを失くして助けを求めてきた2歳も年下の下級生に情けない姿は見せられない。

なのでギルベルトはグっと顔を上げ、前だけを見据えて行軍する。


学校全体も広大な敷地に立っているなら、各寮の敷地も広い。
東西に金銀が並び、南から北にかけて虎、竜、狼が並ぶ寮。
いつも来る香は横方向に、同じくよく来るフェリシアーノは縦方向の隣ではあるが、それでもそれぞれ徒歩で10分はかかる。

道は東西に伸びていて、銀狼寮から斜め方向にある金竜に直接行く道はない。
夜中に急に向かうことになったので、道のないルートを通るのは万が一罠などがある可能性を考えると視界が悪い中で警戒しなければならないということもあり、あまり良い選択肢とは言えない。
ということで、金狼寮か銀竜寮の敷地を抜けていくことになる。

だが金狼には敵の手先が潜んでいる可能性が高くなるべく動きを悟られたくないので、今回は寮長のルークとプリンセスのフェリの許可の元、銀竜の敷地を経由させてもらうことになった。


──他の寮の敷地に自寮だけで足を踏み入れるって変な気分だな…
銀竜の敷地に足を踏み入れながらつぶやくが、いつもなら言葉を返すあたりがいないので、ギルベルトのその言葉は独り言として夜の闇の中へと消えていく。

それが寂しくもあり同時にわずかばかりの心細さを感じるが、そこで言葉は返ってこないものの必死に泣くのを堪えようとするシャルルの鼻をすする音が耳に入って来て、ギルベルトは心の中でハッとする。

そうだ。
自分は心細さなんて感じている場合ではない。
こんな全てを失くした小さな少年でさえ、色々と堪えて歩いているのだ。

しっかりしろ、俺様は銀の狼達のボスなんだからなっ!…と心の中で自分を叱咤し、ギルベルトはひたすら夜の敷地を歩き続けた。


いよいよ銀竜の敷地が終わって金竜の敷地内へ。
意外なことに金竜の敷地には特に変わった様子はない。

てっきりシャルルを探して上へ下への大騒ぎかと思ったのだが、自分があまりプリンセスに重きを置いていないようなロディは、御旗が折れていないということの重要性を理解していないのかもしれない。
…というか、シャマシューク生にとってのプリンセスという存在の価値すらわかっていないのだろう。
たった一人の中等部生が逃げたところで何ができる、というところかもしれないが、それがプリンセスであれば、たった一人でも金竜寮の総意となりうることを…。


そして実際思った通りで、ロディは呆れたことにいつも通りどころか、すでに休んでいたらしい。

なんの妨害もなく寮の前までたどり着いて呼び鈴を鳴らせば、出てきたのは一般の寮生で、彼は完全武装のギルベルトと銀狼寮の寮生達、そしてそれを率いてきた自寮のプリンセスにまず驚いて、目をぱちくりさせている。

そうして、バタン!といきなり扉を閉めた上で
──大変だあぁ~!!軍曹が攻めてきたぞっ!!
と怒鳴る声が、静かな金竜寮内に響き渡った。










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