寮生はプリンセスがお好き10章23_決戦前

──あ~、仕方ねえっ!三銃士、誰かお姫さんとルッツを呼んで来てくれ。

結局ギルベルトは決断せざるを得なかった。
少なくとも知らなければもう少し放置できたものでも、こうして知ってしまえば学園の伝統と誇りを踏みにじろうとする輩を放置するのは、ギルベルトの心情うんぬんは置いておいても寮としての評価に関わる。

かといって自寮のプリンセスを危険に晒すのは寮長としてもギルベルト個人としても論外なので、こちらの安全確保は最優先。

ということでいったん弟のルートと共にアーサーを安全なバイルシュミット家に逃がしたうえで、自身は争いの中に身を投じる、これがギルベルトの下した判断だ。


ギルベルトの指示でモブ三銃士の一人、ボブがルートの部屋に向かっているわずかな時間、ギルベルトは金竜のプリンセスであるシャルルに手短に結論を伝える。

「銀狼寮はこれから30分以内に自寮のプリンセスは校外に緊急避難させたうえで金竜へ中等部生の救出に向かう。
高等部生もおそらく俺らが接近すれば目を覚ますが、覚まさない奴らは容赦なく潰す。
お前は血迷った寮長を排除するために金竜の御旗として俺様の横で自寮の寮生を鼓舞しろ」

「…軍曹……
…………
…………
うん!わかったっ!!」

シャルルは一瞬驚いたように目を見開いて固まったが、どうやら自寮よりははるかに強いであろう銀狼寮が動いてくれるということで、ホッとしたのだろう。
ポロリと涙を零しながらも、すぐうんうんと頷いた。


その時ボブに連れられたアーサーとルートが到着。
そしてそこにバッシュとモブ三銃士だけではなく、何故か金竜のプリンセスも居ることに目を丸くした。

「ごめんな、姫さん。
緊急事態だ。
これからバッシュを護衛につけるからルッツと一緒にしばらくバイルシュミット家の別宅へ避難してくれ」

やることは山とあった。
シャルルが逃げたことはもうロディには伝わっているだろうし、逃げた先を考えた時に銀狼寮が候補に挙がっている可能性は十分ある。
なのでここからはスピード勝負だ。

「説明はモブース頼むわ。
でもって…マイクはプリンセス戦争の時の武器庫から武器を広間に運べ。
寮生何人か使って良いから。
俺様は…とりあえず緊急事態宣言だな」

と慌ただしく指示をする間にも、モブースが実に手際よくアーサーとルートに自体を説明している。

それを横目にギルベルトは寮長室から全寮生に向けて発信をした。

「全寮生に告ぐ!緊急事態だっ!
全員プリンセス戦争時と同様の服装に着替え、急ぎ大広間に集合しろっ!
そこに用意されている武具を身に着けた状態で俺を待てっ!」

そう言い終わると通信を切って、今度は他寮組が待機中の寝室へと飛び込んだ。
そして言う。

「…っていうわけだ。
俺様はシャルルを連れてうちの寮生と共に金竜に向かって進軍する。
ユーシスは洗脳解除に三銃士の一人をつけるから自寮の高等部生を正気にしたうえで、金虎を抑えてくれ。
まあ…金虎が正気に戻ったら援軍に来てくれてもぜんっぜん構わねえっていうか…それしてくれたら俺様の中のユーシスの評価が爆上がりするけどなっ!
香はとりあえずゴリプリ逃がせ。話はそれからだ。
フェリちゃんは…ルークに話を通して、少なくとも敵には回らないようにしといてくれ」

パン、パン、パンとそれぞれに短く指示するギルベルト。
それに3人が反応する前に、モブースから事情を聞いたアーサーが駆け寄ってきた。

「ギルっ!!」
「おう、なんだ?
一時的な措置だけど大事なモンは持ってけよ?
支度はモブースに手伝わせろ」
「そうじゃなくてっ!!」

ギルベルトの言葉にアーサーはぷくぅと頬を膨らませた。

「ギルは俺を何だと思ってるんだっ!!」
言われてギルベルトは首をかしげる。
「…俺様を含む全銀狼寮の寮生の大切なプリンセス?」
と、それでも答えると、アーサーは頷いた。

「そうっ!銀狼寮のプリンセスだっ!
銀狼寮の精神的支柱で御旗っ、そして寮生の心の拠り所だぞっ!
いつもギルが言ってただろっ!
それが学校を…銀狼寮を離れてどうするんだっ!
ギルが…カイザーが戦いに赴くなら、俺は寮を…城を守るっ!
みんなが戻ってくる場所を死守するぞっ!」

その言葉にモブースは拍手し、ユーシス達他寮組は、おぉ~と感嘆の声をあげる。
その中でギルベルトとルートの兄弟だけ浮かない顔だ。

「でもな、俺様もさすがに兵隊なしで金竜の高等部生全員相手にするのは辛いし、この寮の護衛にあまり人員を割けないから…」

ギルベルトが動けば当然銀狼寮全体が敵とみなされて、プリンセスが真っ先に狙われるのは火を見るよりも明らかだ。
そんな中で十分な護衛の居ない寮にアーサーを残していくと言う選択肢は絶対に取れない。
そう説得するも、アーサーの意志は固い。
そして…いつでもカイザーはプリンセスに頭が上がらないものなのだ。
心底困ってしまっていると、じゃあさ、とフェリシアーノが口を開いた。

「うちの寮生全員こっちに避難てことでどう?
元々の敵は居ないし、洗脳されても銀狼寮の寮生の傍に居れば大丈夫なんでしょ?
むしろうち単体で寮に籠っているよりも安全そうだし」
「あ~そうだな。そうしてくれ」

その提案にギルベルトは乗ることにした。
それを聞いて香は彼にしては珍しく心底申し訳なさそうに眉尻を下げて言う。

「…うちの兵隊は…使えなくてソーリー。
今回は連れて行っても残っても下手すれば寝返るからマジデンジャーだし…」

「それならさ、アルだけこっちに避難させてきたら?
彼なら十分戦力になるでしょう?
アーサーを裏切るってこともないだろうし…」
と、そんな香の様子にフェリシアーノがポンと胸の前で軽く手を打ってコテンと小首をかしげながらギルベルトに提案する。

それにギルベルトも即頷いた。
「あ~、フェリちゃん冴えてるなっ!
それ一石二鳥じゃね?
うちの寮に入れる人数を考えれば金は金の寮で待機でプリンセスだけは念のためってのも金の一般寮生への説明としてはおかしくないしな。
それで行こう!」

「んじゃ、俺もここでプリ3人と本拠地護衛マジ本気モード的な?」
「おう!頼むわっ!」

そうしてそれぞれの役割が決まると、香はそのまま自寮に。
ユーシスはフェリを銀竜に送りがてら自寮に戻り、ギルベルトは寮生の待つ広間に向かいかけるが、そこでアーサーから
「ちょっと待っててっ!」
とストップがかかった。

「おう?あんま時間ないから待つけど急いでくれると嬉しい」
と、それでもその場で足を止めるギルベルト。

それに目を止める間もなく走って自分の方の私室に飛び込むと、アーサーはあるものを手に戻ってきた。

「これっ!着て行ってっ!!」

ジャ~ン!と広げられたそれは、白地に青銀の糸で狼の刺繍のしてあるマントだった。










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