寮生はプリンセスがお好き10章16_夜中の緊急会議

ギルベルトがアーサーをルートの部屋に送って行って戻ると、すでにギルベルトの寝室の窓の外の木の上に香とフェリシアーノが待機していた。

「フェリちゃんはとにかくとして、お前、アルは大丈夫なのか?」
と、窓を開けて二人を部屋に招き入れながら言うと、香はひょいっと身軽に室内に飛び込みながら、
「あ~…ゴリプリは寝かせてきたから。
うちは部屋に他人呼ばないから普段は俺がリビングで陣取って寝ててゴリプリの部屋行くにはそこ通らなきゃだし、アレな奴らも部屋に強襲かけてきたことねえし?
念のためゴリプリの部屋の窓やドアを開けたら俺んとこに知らせがくるような仕掛けしてるし…なんならペット用の見守りカメラ設置してっから」
と肩をすくめる。

「見守りカメラって普段から?…厳重だねぇ」
とこちらはプリンセスらしくギルベルトの手を借りて優雅に部屋に降り立つフェリシアーノ。

それに香は
「あ~…カメラの方は警備じゃなくてゴリプリが部屋で隠れ食いできねえように?
もうこれ以上ヘビーウェイトになられたら、来年の体育祭で俺、持ち上げんの無理すぎな感じ」
と笑った。

「あ~…うん、なるほどね」
と今年の体育祭でラストの姫君を抱えて走るリレーで香がすでに抱えるのが無理で自分よりも重いプリンセスを背負ってフラフラになりながら圧倒的最下位でゴールしたのを思い出したのだろう。
フェリシアーノは苦笑して頷く。


こうして外部寮組を連れて寝室からリビングへ。
そこにはルートがかなり余分に焼いておいてくれた菓子と、追い詰められた香が必死に勉強をするのだろうと信じているアーサーがせめてもと用意しておいてくれたティーセットが並んでいる。

「わあぁ~美味しそう。
食べていい?ギルベルト兄ちゃん」
と、今日の目的は目的として、美味しいものが大好きなフェリシアーノが目をキラキラさせて、ギルベルトが頷くと人数分のお茶をいれる準備を始めた。
そうしている間にギルベルトが連絡を入れると、バッシュとモブ三銃士が部屋に訪ねてくる。


「さあ、全員揃ったところでまずはお茶だなっ」
と、ギルベルトが言ってフェリシアーノがお茶を配り始めると、香が
「まずそれっ?」
と爆笑する。

「あ~…話複雑になるしな、真剣に…だけどリラックスすることは大事だろっ。
…もとい…うちの姫さんがせっかく用意してくれた茶葉だからっ」

ギルベルトがそう言うと、香はさらに笑い転げ、モブ三銃士はありがたさに紅茶の入ったティーカップを拝み始める。
なかなかカオスな光景だ。

もちろん今日は楽しいお茶会のためにこれだけの人間を集めたわけではないので、ギルベルトは昼休みに起きたこと、ルークから聞いたことを全員に共有すべく話し始めた。

そうしてそれを話したあと、それを踏まえてアンがなんらかの方法で傍にいる人間を暗示、あるいは催眠術のようなもので操れるのではないか…という仮説を立て、それを裏付けるために…と、モブースに視線を送って話すように促す。

促されてモブースは情報を表にして印刷したものを全員に配布した。

「これは今日の1年2年の各教室の変化をまとめたものです。
口頭でも説明しますので合わせてご覧ください」

そう言った上で用紙にまとめたものの詳細を説明し始める。

「まず2Aに変化が起きたのは表にもあるように授業開始後10分ほどたった頃です。
それまでは静まり返っていた2Aの教室がまるでコンサート会場のように急に賑わいました。
でも普通女教師だからって盛り上がるなら彼女が入室してすぐのはずです。
ここで10分の差異はなんなのか…と、俺達3人は疑問に思ったんです。
で、それぞれ2Aと2B…そして自分の教室に分かれて観察することにしました。
最初の休み時間、2Aの学生達は女教師…アン・マクレガーに夢中になっていましたが、2Bの学生は変わらず。
ところが2時限目、アンの授業を受けたあとから2Bの学生達もアンに篭絡されていました。
授業の前と後、他に違いはと言うと、1時限目と2時限目の間の休みに見た時には開いていた2Bの窓が次の休み時間には全部閉まっています。
それでそこにも着目した我々が一応、と、2Aの教室を覗くと、やはり窓が全て閉まっていました。
そこでのちにカイザーにお願いしておかしくなった2A在籍の銀竜の寮長に確認して頂いたところ、最初は全開だった2Aの窓をアンの依頼で全て閉めたということです。
以上から、アンの洗脳にはなんらかのガスのようなものが使用されているのではないかと推測されたので、それを実証するべく我々の一人がこっそり彼女に近づいてみました。
が、なんの変化も見られませんでした。
3人全員試してみたのですが、3人とも何もなし。
しかしそこで一つ気づいたのですが、我々がごくごく近距離に近づいた2年が急に暗示が解けたように不思議そうにしていました。
なので、3人それぞれ2年の周りをまわってみたのですが、やはり我々が近い距離に近づくと、暗示が解けるようです。
とりあえず今のところ分かった点気づいた点は以上です」

ピシッと敬礼するモブース。
ほおぉぉ~と感心する他寮の二人。

「うあ…これマジ?
モブ三銃士優秀過ぎね?」
と、香がため息をつけば、
「すべてはカイザーとプリンセスのご加護です!」
と言い切るモブ三銃士。

「…すげえ。もうこれ宗教じゃね?」
と香は苦笑。

それにモブースはきっぱりと
「我々は幼稚園児の頃からずっとお二人にお仕えできることを夢見て生きてきましたからっ!!」
と誇らしげに胸を張った。

「いやいや。
ギルはとにかく、お姫はお前らが幼稚園児の頃は赤ん坊じゃね?」
と笑う香にギルベルトが
「えっとな、実はこいつらがずっと推してた【エルサイアオデッセイ】ってアニメのヒロインが姫さんに激似でな」
と補足すると、
「マジっ?!俺もみたい感じ?」
と香が身を乗り出す。

それにモブースは、あとでお貸ししますねと言った上で、さらに
「それだけじゃなく、その主人公がまたカイザーに激似なんですっ!
推しCPにお仕えすることができるなんてもうモブ冥利に尽きすぎて、毎日が幸せで死にそうですっ!」
とこぶしを握り締めて力説する。
それにまた香が爆笑した。


「とりあえず…アン・マクレガーの使っている薬物のことなのであるが…アデルから情報が入っているのである。
おそらく最近問題になっている違法薬物なのであるが、簡単に言うならいわゆる強力な惚れ薬である。
異性同性関係なく相手に絶対的な好意をもってしまうというもので、効力はだいたい2,3日ではあるが、学校で授業中に使用すればほぼエンドレスに相手を操ることができると思われるのである」
と、少しそれかけた話題をバッシュがやや強引に本題に戻す。

「一応今の時点で解毒のようなものは開発されていないようなのであるが、モブ三銃士がその薬物に対してのなんらかの解毒要素を持っている可能性があるということなのであるか…。
もしそうなら学園のみならず、警備や軍関係にも非常に有用な情報なのである」

「え?あれ?でもさ、モブ三銃士だけじゃなくて、ギルベルト兄ちゃんもかもよ?
だってルークはギルベルト兄ちゃんに怒られた時に正気に返ったって言ってたもん」
と、そこで口をはさむフェリシアーノ。

「あ~…じゃあもしかして銀狼寮の全員な感じ?」
とチラリとギルベルトに視線を向けた香に、モブース達はやはり
「すべてはカイザーとプリンセスのご加護ですっ!
銀狼寮はお二人の加護があるので永遠に不滅なのですっ!!」
と力説する。

そうしてまたカオスになりかけた時、ギルベルトは振動したスマホに視線を落とした。

そして
「そのあたり…もうちっと話聞けそうなあたりがこれから来るわ」
と言いつつ、届いたメッセに返信を返して
「ちょっと出迎えてくる」
と今晩に香とフェリシアーノが忍び込んできた自分の寝室へとまたもどって行った。












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