少女で人生やり直し中_64_死への列車

「それはだめだっ!杏寿郎を行かせたら死ぬっ!!」

炭治郎と禰豆子は煉獄の継子となってもしばしば水柱家を訪れて近況報告をしている。
その日も明日、師範の杏寿郎に随行して行く任務にたまたま同期で仲の良い善逸と伊之助も一緒に参戦することになったのだと、炭治郎がどこか嬉しそうに言いつつ、茶をいれた。

いや、本来はこの家の者がいれるところなのかもしれないが、錆兎は家の主人で炭治郎にとっては二番目の師匠で、嫁の義勇はそろそろ産み月間近で腹が大きいので、炭治郎が率先して動いている。

まあ、水柱屋敷では同期も勝手に色々手伝っていくし、みんなの実家と言う感じで、必ずしも家人が客をもてなすという感じの所ではないのだが…。


「義勇さんもお腹、だいぶ大きくなりましたね。
そろそろ産まれるんでしたっけ?」
と大きなおなかを抱えて座る義勇には昆布茶を、他には煎茶を配りながらニコニコと言う炭治郎に
「ああ、早ければもうそろそろ産まれてもおかしくない」
と、おなかをさする義勇。

「そうですか…。
産まれたら今度こそうちで引き取りたいって煉獄さんが伝えておいて欲しいって…」
と、前回の赤子争奪戦に出遅れた煉獄家としては次こそは!という意気込みでいるようだが、それに錆兎は苦笑して

「あ~…残念だが、この腹の子にうちの剣技を叩き込まねばならないからこそ、他に手が回らねば可哀そうだから基礎を習得させるまで他家に息子たちを預けているという事情だからな。
この腹の子は預ける予定はない。
…というか、煉獄家は息子が二人もいるし、どちらかが嫁を貰えばいいんじゃないか?」
という。

「まあそれはそうなんですけどね。
錆兎さんの息子全員、剣術の才にあふれていそうで、それを育ててみたいというのが今の育て手達の夢らしいですよ」
と、炭治郎は笑った。

そんな流れから、話は杏寿郎の任務の方へ。
そこで今度の任務は列車での任務で、自分たちも同行するので、同期に会えるのも列車に乗れるのも、師範である杏寿郎がその時に美味いからおごってやるという牛めし弁当も楽しみにしているのだ、と、色々を指折り数える炭治郎に、義勇は顔色を変えて杏寿郎をその任務に就かせるのはだめだと言い放つ。

例によって理由は言わない。
ただ、その任務に就けば杏寿郎が命を落とすとだけ繰り返した。

錆兎は炭治郎たち家族の時のこともあるので、でたらめや思い込みではないのだろうとは思うが、柱である煉獄が請けるような任務を簡単に他の者へとは言えない。

「…ふむ……じゃあ俺が出るか?」

炭治郎たちが訳がわからずぽか~んとしているなか、錆兎がそう申し出ると、義勇は、
「…それはちょっと……」
と嫌そうに言う。

「…錆兎に何かあったら絶対に嫌だし……」
との義勇の言葉。
それに苦笑する炭治郎とむっとした顔になる禰豆子。

「いや…弟子の炭治郎や禰豆子を放り込むなら……」
と、義勇自身はそんなことをすっかり忘れているようなので錆兎が慌てて言葉を添えると、義勇はなんでもないことのように

「炭治郎も禰豆子も…ついでに言うなら我妻も嘴平も死なないんだ。
杏寿郎だけ死ぬ」
と言う。

「杏寿郎だからなのか、柱だからなのか、あるいはこの任務を仕切るからなのかはわからない。
だから万が一を考えたら錆兎に行って欲しくない。
どうしても錆兎が行くというなら私も行って、万が一の時には一緒に死ぬ」

普段はぽわぽわした義勇にポロポロと大粒の涙をこぼしながらそう言われてはそれでも行くとは言えない。
義勇にとって錆兎の生存が最優先事項なら、錆兎にとってだって義勇の生存が最優先事項なのだ。

「わかった。わかったから泣かないでくれ、義勇。
とりあえず炭治郎の話だけではなんともならんかもしれないから、これから少しばかり煉獄家に行って槇寿郎さんに相談してみる」
と、錆兎は義勇をなだめるように抱き寄せると、炭治郎に視線を向けて言う。

「…というわけだ。俺はこれからちょっと槇寿郎さんに相談してみようと思うから、お前はここに残って義勇を見ていてもらえるか?
禰豆子は俺と煉獄家へ戻ってくれ」

義勇はそれに不満げな顔をするが、さすがに今にも子が産まれそうな妊婦を連れて行くのは気が引けた。

なので、
「今お前の腹にいるのは代々続く俺の家の剣技を継ぐただ一人の人間だ。
俺にとってただ一人特別なお前と家にとって特別な赤子を俺は何をおいても守りたい。
杏寿郎も確かに大切な後輩ではあるが、どうしてもと言うなら俺は助ける相談に行くことができなくなる。
俺はお前たちを最優先に守らねばならないから、お前の言う通り今回の任務を代わることは絶対にしない。
だから行かせてくれないか…」
と、ぎゅっと義勇を抱きしめたあと、じっとその青い目を覗き込んでそう哀願する。

ずるい…と、しばしの沈黙のあと、義勇がぷくりと頬を膨らませて言った。

──私が錆兎の顔を好きすぎるのをわかっていて、そうやってかっこよすぎるその顔を見せつけて言うのはずるすぎる。

しかしそう言ったところで、結局義勇はそれを許容したということなのだ。

錆兎にしてみれば頬に大きな傷の残った自分の顔のどこがそんなにいいのかはわからない。
だが、今回はそのおかげで杏寿郎を助ける相談をしに行けるのだから良しとしよう。

──すまんな。帰りに魚屋によって良い鮭がないか見て来よう。
と、それでも義勇の機嫌を取りながら、錆兎は禰豆子と共に炎柱屋敷に槇寿郎を訪ねるため水柱屋敷をあとにした。







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