村田の人生やり直し中_48_親友

──う~ん…まあ、俺は信じる。
──ええぇっ?!信じちゃうのっ?!!

持参した箱に禰豆子をいれて炭治郎と共に水柱屋敷に戻った村田。
それから少しして忙しい中駆け付けてくれた錆兎に事情を話すと、なんと錆兎から返ってきたのは村田を信じると言う言葉だった。

人を食わぬ鬼が居る…そしていつか人間に戻してやれるはずだ。
村田は前世でそのことを体験しているからこそそう言えるが、もしそれがなければそんなものは夢物語だと言うと思う。

それをあっさり信じると言い切った錆兎に驚きの声をあげると、錆兎は少し意味ありげな表情をして
「お前はたまに他に見えぬものが見えている気がする。
それがどういうものなのかお前が自覚しているにしてもしていないにしても、お前が話そうと思わないのなら俺は聞かないが、俺はそれはおそらく他には見えぬ真実なのだろうと思っている。
そして、お前は俺に言わないことはあっても嘘はつかないと信じているからな。
お前がそうだと言うなら、その少女の鬼は人を食うことはなく、いずれ人に戻す方法もみつかるのだろう」
と言った。

驚いた。
まったく驚きの事実だ。

錆兎はそれが前世の経験からくる知識だと言うことまでは知らないのに、村田が他にはない知識を持っていることに気づいていたらしい。
その観察眼ときたらもう恐ろしいばかりだ。

隣で炭治郎も驚きに目を丸くしている。

錆兎が信じてくれるなら全てがうまくいくはずだ。
と、その言葉に村田が希望を見出した瞬間、しかし錆兎は
「ただし、俺が信じても他は信じないだろうし、俺が言えばお館様は信じるだろうが柱達のほとんどが反発するだろう。
それをお前はどう説得するつもりだ?」
と、その希望をへし折るようなことを告げてくる。

ああ、やっぱりか。
前世で義勇が彼らを助けた時は義勇と師範の鱗滝元水柱が禰豆子が人を食ったなら自分達が腹を切ると言ったらしいが、自分が同じことを言ったらどうなるだろうか…。

水柱…という意味では前世の義勇と一緒だが、そこにお館様の信頼も厚く現役の柱達にとっても尊敬すべき大先輩である鱗滝元水柱が居るか居ないかではだいぶん違う気がする。

「…もし禰豆子が人を喰ったら俺が腹を切って詫びる…だけじゃ足りない?」
おそらく一般隊士だった村田の師範が連座すると言っても大して変わらないだろうし、それ以前に師範を説得できる自信もない。

だから自分だけ…とおそるおそるお伺いを立てれば錆兎は
「足らないな」
と即答。
その答えに村田は目の前が真っ暗になった気がした。

しかし彼は飽くまで村田の親友だった。
そう答えたあとすぐに、
「だから条件を足してやる」
と付け足してきて、その言葉に村田はうつむきかけた顔を上げて錆兎を凝視した。

その目をしっかり見て錆兎は続ける。

「俺は鬼殺隊の現お館様の補佐というだけではなく、次代のお館様となられる輝利哉様の導き手だからな。
鬼殺隊に対する責任がある以上一緒に腹を切ってやるとは言えん。
その代わりもしその少女が人を喰った時には俺が責任を持って兄である少年と鬼の少女を斬り捨てた上で、親友であるお前が切腹するのを見届けるだけではなく、この手で介錯をしてやる。
…俺が死なせたくない人間の一番は義勇、二番は鱗滝先生、そして三番目はお前だからな。
俺がお前のことを特別な親友にして盟友と思っていることは柱周りどころか鬼殺隊じゅうに知れ渡っているし、それを自分が手にかけるということの重さもまた皆わかると思う。
先生が受け入れるかどうかは別にして、その少年を先生に紹介して欲しいというなら紹介するし、その鬼の少女について鬼殺隊で問題視されたなら一緒に頭は下げてやる」

「…錆兎……」
思わず目の奥が熱くなって、知らず知らずのうちに涙が溢れ出た。

「お前はかつて初対面に近い状態で俺が一番大切なものを命がけで守ってくれた。
だから鬼から人類を守らねばならない以上、そのために一番重要なお館様と輝利哉様への責任を放棄することまでは出来ないが、俺に出来る最大限でお前に協力するつもりだ」
と言う錆兎の言葉に曇りはない。

おそらく義勇を含めた人類の未来という重責を背負っていなければ、彼は迷わず一緒に腹を切ってくれるつもりなのだろうと思う。

「…十分だよ…っ……十分すぎるよ…っ」
もう完全に涙腺が決壊して嗚咽する村田に錆兎は
「お館様にだけはあらかじめ話を通しておくから、万が一問題になっても最終的にはなんとかできると思う。だから、安心しろ」
とその肩をポンポンと叩いて言ってくれた。

本当に…持つべきものは情に厚い友である。

こうして全面的に協力してくれる錆兎の伝手で炭治郎と禰豆子の兄妹はいったん彼の師範である元水柱、鱗滝左近次のお預かりになり、炭治郎は無事その弟子として剣術と水の呼吸を教わることができることになった。

これで村田は前世関係でやらねばならない山場を一つ越えたことになる。








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