──…あなたがいなければ俺は何もできませんでした。ありがとうございます…
しばらくして禰豆子を家に置いて炭治郎が穴掘りを手伝いに来た。
一瞬にして家族全員を失った衝撃は村田も経験しているので痛いほどわかる。
──俺も…さ、同じような形で家族全員亡くしたから…わかるよ……
ザクッザクッと掘った穴の上にまた雪が積もっていく。
豪雪の中で大きな穴を掘るのは大変な作業だったが、小さな穴に折り重ねるようにするのは嫌だろう。
一人一人横たわらせられるように…と、村田はかじかむ手でそれでも穴を掘り続けた。
「あのね…信じられないかもしれないけど…」
と前置きをする村田に炭治郎は間髪入れずに
「信じます…」
と答える。
「あなたは本当に俺達を気にかけてくれているのがわかるから…。
俺…実は匂いで人の感情の機微がわかるんです…」
と、この時点で初対面の人間にそれを言ってしまっていいのかな?と思うようなことを明かしてしまうのが、とても真っ直ぐ育った炭治郎だなと、村田は改めて思った。
そして自分が知っている炭治郎とこの子どもは根本的に変わらないのだろうと言う認識のもとに話を続ける。
鬼の事…自分が鬼を狩る組織の人間であること…そして禰豆子が今鬼になっていること…。
そんなことを話したあと、それまで黙って聞いていた炭治郎が
「禰豆子は…人間に戻れますか?」
と、それが最後の希望だとばかりに聞いてくるので、村田はそれに大きく頷いた。
「俺はそう信じてる。
ただ他が信じてくれるかは別物でね…。
俺が俺の家にお前たちをかくまってやることはできなくはないけど、何もしない状態で隠れてたら万が一見つかった時に少なくとも禰豆子は殺される。
だから…俺は俺達の組織の中で2番目に権限のある親友に全部を打ち明けて協力を仰ごうと思うんだ。
それにはまず、禰豆子に絶対に人間を食わせない事。
それが最低条件ね。
さらにお前も鬼殺隊に入って色々な任務に就きながら色々な人脈を作って情報を集めつつも鬼狩りに貢献すること。
もちろん俺も協力する。
でもお前もうずくまってないで動かなきゃならない。
できる?」
ここで炭治郎なら否とは言わないだろうし言われても困るのだが、案の定炭治郎は大きく頷いてくれたため、村田はホッとする。
それに炭治郎は少し不思議そうな顔で
「でも…なんで俺達のためにそこまでしてくれるんですか?」
と聞いてきた。
何故……
それは無惨討伐にとって炭治郎や禰豆子が重要な役割を果たすだろうから……というのがまずあるわけなのだが、それ以前に村田にとって炭治郎は前世での大切な後輩であり親しい友人だということがある。
あらためて理由を聞かれることで村田は少し考え込んで、結局炭治郎に嘘は通じないが事実を全部言うわけにも行かず、結局嘘はつかない代わりに言わないこともあるという形で返答することにした。
「…俺ね…鬼がお前の家に行くことを知ってた。
だからここに来たのね。
でもごめんね。
色々あって全員を助けられるくらい早くは来れなかったんだ…。
俺がもっと早く来たらお前の家族を全員助けられたかもしれなかったのに…
だからそれに対する責任と、お前の真っすぐで素直な性格を俺は結構気に入ってるからさ…お前の力になりたいって思っている。
俺は英雄でも天才でもなんでもないただの凡人だし、出来ることなんて限られてるけど、それでも目の前に助けられる人間がいたら助けたいし、少しでも多くの人間が幸せとまではいかなくても不幸にならない手助けをしたいんだよ」
それは村田が言えるぎりぎりの真実だったが、炭治郎の心には届いてくれたようだった。
炭治郎はまた素直に礼を言うと、ぜひ鬼殺隊に入るために諸々手伝って欲しいと自ら頭を下げてきた。
こうして炭治郎と禰豆子の側は前世と同じ状況まで持って行けたので、あとは自分がいかに錆兎を説得できるかにかかっている。
なので村田は意を決しておそらく自分が帰宅できるであろう明後日に錆兎に水柱屋敷に来てくれるよう、鎹烏を飛ばしたのだった。
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