──最初にね…一刻も早く弟君を楽にしてあげたほうがいい。
そう、鬼のこととか鬼殺隊のこととか今後のこととか話すことはたくさんあるが、まずは可哀そうな子どもを苦痛から解放してやるのが先だと村田は思う。
とその村田の言葉の意味を取りかねて、でも弟を苦痛から救ってやれるのかと希望を持って村田に向けてくる炭治郎の視線が痛すぎて村田はまた泣きそうだ。
彼が思っているのと真逆の現実を伝えるのはとてもつらい。
でも自分の辛さと幼い子どもの苦痛、どちらを優先するべきかなんて考えるまでもない。
だから村田はズキズキする胸の痛みを抑え込んで口を開いた。
「…ごめんね…。俺は医者じゃないからこの子を助けてあげられないし、そもそもが医者が居ても傷が深すぎてもう助けられない。
それならこのまま自然に息絶える長い時間痛みに苦しみ続けさせるより、早くお母さん達の元へ送ってあげた方が良いと思うんだ。
俺はね、色々あってずっと剣術の修業をしてきた人間だから、本人も気づかないくらい一瞬でそれをしてやれる。
…だから…いいかな?
出来れば最期の瞬間までこの子が心安らかなように二人で手を握っていてやってくれるのが一番だけど…辛いようなら目を閉じて離れていてくれてもいい。
俺は小さなこの子を少しでも早く痛みや苦しみから解放してやりたいんだ」
言葉を選んで選んで…敢えて斬るとか殺すとかそういう言葉は使わなかった。
でもやろうとしているのはそういうことである。
村田の言葉に禰豆子はわずかに唸り声をあげたが、炭治郎はただただ大きく見開いた目からぽろぽろと涙をこぼし…そして言った。
──お願いします…
と。
その言葉で険しい顔でうなっていた禰豆子もただ悲しそうな顔で幼児の隣に移動して、兄が握っているのと反対側の手を握る。
──六太…これから兄ちゃんが六太の痛みを治してあげるから、目をつぶってろ。
心はずたずたに切り裂かれて痛みにのたうち回りたいほどだろうに、炭治郎はこの上なく優しい声でそう言って、手を握っているのと反対側の手で弟の小さな頭をなでた。
痛い…痛い…痛い……
今この場になんの痛みも感じていない人間はいなかっただろう。
しかし皆が一番幼く弱い子どもの痛みを癒すことを優先して自分の痛みを抑え込む。
そして…幼子が兄の言葉に弱々しく瞼を閉じた瞬間、村田は前世から今生にかけて生まれて初めて鬼の首を斬る刀で幼子の首を斬り落とした。
うわあぁぁあ~~~!!!!
と、その瞬間泣き叫ぶ炭治郎。
悲しさを共有するようにそれに寄り添う禰豆子。
そんな兄妹を直視するのを避けるように、村田は竈門家の横に穴を掘った。
幼子を含めた竈門家の犠牲者6人を埋める大きな大きな穴を、雪が降り積もる中掘り続けたのである。
その後少し経ってやや落ち着いたのか炭治郎の泣き声がやんだのに気づいて村田は
「炭治郎、やらなきゃいけないこと第二段ね。
説明はご家族埋め終わってからするけど、とりあえずお前の妹は今、太陽に当たると焼けどしちゃう体質になってるのね。
だから夜が明ける前に日光に当たらない様に家にいれてあげて。
その後のことについてはやっぱりあとで説明するから、とりあえず、ね」
ゆっくり悲しむ暇も与えてやれないのは可哀そうだとは思うが仕方ない。
指示を出して炭治郎がそれをする間、村田も何度も脳内で繰り返した事情説明の言葉をまた頭の中でまとめながら、炭治郎がそれで納得してくれるといいなと思いつつひたすらに穴を掘り続けた。
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