村田を早く自宅で休ませてあげたい…そんな炭治郎の優しい気持ちがアダになった気がする。
家族全員血だらけで倒れている家の中で母親がかばったおそらく一番下の弟がまだ死にきれずに泣いていた。
──…っ…にっ…ちゃん…痛い…痛いよぉ……
炭治郎の姿を認めて泣く幼児。
──六太っ!!
と、それに駈け寄る炭治郎。
そして村田はあたりを警戒しながら、炭治郎を追う。
生きているというのも助かるものならば良かったのだが、幼児はどう見ても重傷で助けることは不可能だ。
法的に…そして人道的に問題があるのは重々承知だが、助けることが出来ずに苦しみを長引かせるだけならば、一思いに楽にしてやった方がいい。
それを炭治郎にどう伝えればいいのか村田にはわからない。
でもこんな幼児をこのまま長く苦しませるのは可哀そうだと思う。
前世の状況から禰豆子が鬼になってから来るのが正解だと判断したのだが、こんな風に幼子が苦しみながら死ぬのは本当に居たたまれない。
自分はこの状況を知っていたのだから竈門家が襲われる前に来ることもできたのだ。
もちろん鬼が襲う兆候も何もないところに来たところで、竈門一家が避難しようと思える理由もないわけだから一笑に付された可能性だってあるし、よしんばここから避難したところで親子7人をどこにかくまうと言う問題もある。
だが今目の前で痛ましい姿をさらしている子どもを見ていると、そんなものは体のいい言い訳に思えてしまう自分がいた。
──…ごめんな…俺がもっと早く来ていれば……
思わず漏れる村田の声に視線は末弟に向けたまま、しかし何かを感じ取ったのか炭治郎が口を開く。
「…詳しい事情はわかりませんけど…なんでかあなたがすごく俺達を心配して心を痛めてくれているのはわかります。
…ありがとうございます……」
家族が惨殺されて自分の方が胸が張り裂けそうになっているのであろうに、村田を気遣う炭治郎に村田の涙腺が決壊した。
──…っ…ごめんっ…助けられなくてっ……助けられたのにっ……
しゃくりをあげてしゃがみこんで泣く村田。
その時、何かが木の陰から飛び出して来た。
咄嗟のことでその体制で刀を抜くことも出来ず手で急所を守ろうとする村田だったが、何故かその頭に手が伸びてきて、サラサラさんと呼ばれる村田のサラサラした髪をぎこちなく撫でる。
…え??
と思ったのは村田も炭治郎もだが、その意味合いは違う。
額には角…口元の歯は尖り、村田を撫でる手の指の爪は鋭く伸びている。
だがその容姿はすぐ下の妹の禰豆子で、炭治郎は戸惑っていた。
──…ねず…こ?
初めて末弟から視線を移動してそちらを見て呆然と呟く炭治郎。
自身の妹だという認識はその特殊な嗅覚で持っているようだが、その変わり果てた姿にひたすら困惑している。
「…うん、彼女は確かに君の妹だよ…。
色々説明したいことがあるし、しなきゃならないこともある。
だからね…二人とも俺の言うことをきいてくれる?」
前世がどうだったのかはわからないが、村田が知る他の鬼と違って禰豆子は随分と理性を残しているように見えた。
そのことは色々と子どもには残酷すぎる現実を突きつけなければならない現状で、炭治郎に寄り添う相手がいるという意味で言うと幸いだ。
禰豆子にとっては…理性を完全に失っていた方が幸いかもしれないが…。
まあどういう状況であれ、せめて嫌な決断は自分が…それが彼らの幸せよりも利害を優先した自分のせめてもの贖罪だ…と、そう考えて、村田は重い口を開いた。
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