村田の人生やり直し中_44_雪山での再会

寒い…。
前世では義勇はこんな寒い中を竈門家を目指して山を登ったんだなぁ…と村田は低地とは段違いに違う標高の高い山の寒さに震えながら漠然と思った。

そもそもそのあたりの話は炭治郎から聞いたので、何故義勇がこんな所に来たのか村田は知らない。
まあ任務だからと寄こされたのだろうが、当時柱だった義勇がわざわざ来ると言うことは、もしかしてこの先に待ち受ける鬼と言うのは随分と強い鬼なのだろうか…と今更ながら気づいて、全身に震えが走った。

もしかして下手をすれば返り討ち?
そんな可能性に一人で来たことを心底後悔するが、いまさら人を呼んでも間に合わないし、そもそもどうしてそうまでしてここに来るのかと聞かれれば説明も出来ない。

こうなればもう、強そうな鬼がまだいたなら気合で隠れて、炭治郎と鬼になった禰豆子をなんとか連れ帰るしかないだろう。


そんなことを考えながら雪を踏みしめて進んでいると、前方に小さな影が見えた。
村田が知る頃よりも幼いが、それでも村田にはわかる。
あれは14歳の頃の炭治郎だ。

手を振って呼び止めたいところだが、人里離れたこんな場所でいきなり声をかけたら怪しいだろうか…と、迷いながら歩いていると、村田が声をかけるまでもなく気づかれたようだ。

だが村田の予想に反して山で素直にお育ちになったこの少年は随分と純心だようで、村田を振り返るとぺこ~っとお辞儀をしたあと笑みさえ浮かべながら

「こんにちは。
あの…この先は進んでも俺の家しかないし、この雪の中、大丈夫ですか?」
などと見知らぬ他人であるはずの村田の心配をしてくるではないか。

ああ、でもそんなところが村田が知っている炭治郎そのままでなんだか懐かしい。

「う~ん…まあ一応野宿できるように防寒具とかは持ってきているし、雪山での野宿も初めてじゃないからなんとかなるんじゃないかと思っているんだけど…」
と、村田は背負った荷物をチラリと見せるが、炭治郎は首を横に振って
「この山はすごく雪が多いから野宿なんて大変ですよ。
良ければ俺の家に泊まりませんか?
狭いけど雪や風はしのげますから」
と笑って言った。

「いやいや、ダメでしょ。
俺が言うのもなんだけど、小さな子どもや女性ならとにかく、初対面の大人の男にはもう少し警戒心を持った方がいいよ。
悪い奴かもしれないんだから、危ないよ。
俺は大丈夫だから」

もちろん村田は炭治郎を死なせないために来たわけで他意はない。
しかしこんなに簡単に女子どもしかいない自宅に引き入れるのはあまりに不用心だと思わず注意してしまった。

だが、炭治郎はそれにも笑って
「大丈夫。俺、人を見る目があるんです。
あなたはすごく良い人だ。
それになんでだろう…初対面なのに俺を気遣っている気がする」
と言う。

ああ、そうだった、それで思い出した。
炭治郎はなんだか匂いで他人の感情とかを読み取れるとかいう特技があったのだ。

正直自分が良い人間かはわからない。
だが少なくとも炭治郎に対する悪意はない。
そのことをわかってもらえていると、随分と楽だ。

そこでせっかくの申し出をあまりに固辞するのもかえっておかしな印象を与えるかもしれないので、村田は
「じゃあ君の保護者に聞いて了承を取れるようだったらご厚意に甘えようかな」
と、言っておいた。

本当は前世で義勇が竈門家にたどり着いたタイミングでたどり着いて、炭治郎と鬼になった禰豆子を回収できるのが一番いいのだが、それより早く竈門家についてしまって鬼と遭遇してしまったとしたら、もう色々諦めて割り切ろう。

禰豆子ではなくとも鬼を捕獲して研究のデータを採ることも出来るかもしれないし、最悪、錆兎が生存していて他の前世で死んだはずの柱も皆無事なら、薬がなくとも無惨を夜明けまで引き付けることもできるかもしれない。

確実性はないが、やはり何がなんでも竈門家の犠牲をというのは、村田一人で背負うには重すぎる。

こうして間に合って欲しい気持ちと間に合わないで欲しい気持ちを半々に抱えながら、村田は炭治郎と共に雪道を黙々と登っていった。









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