「さすが村田だっ!
誠実で努力家なお前なら絶対に不死川の心を解きほぐせると思っていたっ!!
お館様も大絶賛してたぞっ!!」
普通なら上司の覚えが良くなれば万々歳なところだろうが、こと鬼殺隊関係に関して言うなら、そう単純なものではない。
親友に対して言う言葉ではないのだが、錆兎からの高評価を受けるとろくな事態にならない。
そう、鬼殺隊入隊初っ端から村田が必死な生存戦略を立てなければならなくなった原因はこの男の過剰評価から生じている。
もちろん人間的には良い奴だし普通にとても好ましい友人だし悪気も欠片もないというのはわかっている。
錆兎自身が村田に無茶を言ってくることはめったになく、今回の不死川のことだって自分に出来なかったことなのだから村田が出来なかったとしても当然で、ただ試してみて欲しいと言われただけで、自分が頼んでくる分、村田の頼みも可能な限り聞いてくれていた。
だが、だが村田に降りかかる厄介な出来事は何故かいつも錆兎の高評価からやってくるのである。
本当に笑えない。
今回もこの高評価がどう転ぶかとても恐ろしいのだが、それをおしても今回ばかりはこの錆兎からの信頼を稼いでも稼ぎ足りないイベントが控えているので、村田も
「まあ本当にたまたまだけどね。
不死川が機能してくれれば戦力もかなりあがるし、俺自身にとってもありがたいことだしさ」
と、鬼殺隊が強くなって打倒鬼舞辻無惨に少しでも近づくことを望んでいることを主張しておく。
そう、人類のため鬼のない世を目指している気持ちを疑われないように…。
なにしろもうすぐ最大の難関が待っていることを思い出してしまったのだから……
不死川と共に下弦の壱を倒した兄弟弟子が死んで彼が風柱に就任したことは、前世で本人から昔話として聞いていた。
しかし村田は実際今生でそれが起きるまでそのことをすっかり忘れていたのだ。
もう少し早く気づいていれば…と一瞬ものすごい後悔に襲われて、だがすぐ思い直す。
村田は不死川の言う粂野匡近という人物を知らないし、少なくとも何かとてつもない偉業を達成したとかいう噂も聞いていない。
不死川にはとても気の毒なことをしたとは思うが、粂野匡近という人物が生存していたかしていないかで大局は変わらない気がする。
もちろん人は死んでいるよりも生きていた方がいいのは当たり前のことで、だからと言って死んでいいわけではないのだが、少なくとも打倒鬼舞辻無惨という意味ではおそらく致命的な失敗ではない。
だが、炭治郎は違う。
彼は無惨を倒すのに色々関わっているし、彼の妹の禰豆子がいたからこそ、協力者であった珠世が無惨に投与する薬を完成させられたのだ。
だからこの兄妹は前回と同じタイミングで救わねばならない。
しかし前回彼らを救った義勇は前世の彼とはもうすでに別人と言って良い人間になっているし、錆兎の継子としてゆるゆると保護されている彼が炭治郎達の元に向かって彼らを救うことはないだろう。
そうなるともう事情を知る唯一の人間である自分が前世の義勇の役割を担うしかないのだ。
そこで問題なのは…元水柱の師範という後ろ盾のあった義勇と違って、村田には後ろ盾がないことである。
少しでも前世の状況をたどるにはまず錆兎の信頼を得て、彼の推挙で炭治郎を鱗滝左近次に預けることが一番の近道だ。
…というか、それ以外の道はない気がする。
「…錆兎」
と、村田は上機嫌の錆兎に声をかけた。
それに錆兎は
「ん?なんだ?」
と、笑顔でそれに応えて…そして村田の様子にやや柔らかな表情ではあるが真顔になる。
「何か心配事か?」
と、即察してくるのはさすがだと思った。
「ん~あのさ、俺はいつでも俺とお前や義勇や不死川や…その他にもお館様や柱仲間、後輩たち、みんな少しでも多く無事な状態で無惨を倒したいと思ってる」
唐突な言葉に呆れることもなく、錆兎は
「ああ。俺もそう思っているし、それがまさしくお前の本心だということはわかっている。
だから一見謎な行動だと思ってもお前のやることならおそらく意味があるのだと信じているから何でも言ってこい」
などと言うので、お前は読心術でも使えるのか?!と突っ込みをいれたくなってしまう。
…が、今はその察しの良さが村田の心をとても軽くしてくれた。
「うん…ちょっとね、そのうち色々頼むと思うけど、その時はよろしくな」
と、それでも今はまだ具体的に言う時ではない気がするので村田はそう言った。
前世で炭治郎から聞いた日まであと24日ほど。
とりあえずその前後2日ばかり体が空くように頼むと、錆兎は快く了承してくれた。
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