村田の人生やり直し中_42_水柱村田

「…不死川…大丈夫?体調悪い?」
…が、再会した村田の第一声だった。

うつむきがちな不死川の顔を少しかがむように下から覗き込むように言う村田の表情は非常に気づかわし気だ。
そんな人のいいところは水柱になっても何ら変わらない。

それを素直に受け取れる性格の人間なら、そんな村田の気遣いはとても嬉しく心温まるものなのだろう。
しかし大勢の弟妹を持つ長子として育った不死川の長子としての矜持がその邪魔をする。

6人いた弟妹、そして母親の誰も守ることも出来ず自分だけおめおめと生き残って、何が長子としての矜持だと自分でも思うのだが、それでも体と心に沁みついてしまったそれは、そうそうなくなってはくれないのだ。

なのでそのあと
「…体調なんざぁ関係ねえ…」
とうそぶいたら、柱になったからには一般隊士に安心感を与えるのも仕事だと説教された。
出来るからやるのではなく、やらなければならないからこなすのだとも……

錆兎あたりから言われると上からに思えてカチンとくるそれも、いかにも一般人然とした村田に、自分だって必死にそうやっているのだと言われれば、それに関しては感化されるかどうかは別にしても、おう、そうだろうな、という気にはなる。

良い家の出で英才教育を受けて隊士になった錆兎と違って村田は本当に普通の家庭の一般人だ。
それこそ稀血がある分、不死川の方がまだ恵まれているくらいである。

そんな人間が全てを失って極々普通の育て手に育てられて隊士になって、水柱まで昇り詰めるにはそりゃあとてつもない努力と苦労があっただろうとは、さすがに思う。

その後、現場に着くまでに村田本人から錆兎が村田に助けられたと言った言葉から皆が思い切り誤解していた件についての真相を聞き、不死川はますますその想いを強くした。

そうして自分は今でも最弱の柱で下手をすれば甲や乙の隊士よりも弱いと言い放つ。
それでも自分を育ててくれた師範への計り知れないほどの大きな恩を返すために立派な隊士となり与えられた役割をこなしていくのだというその言葉は、正直、芝居にもなっているほどの古の鬼退治の英雄の子孫である錆兎よりもカッコいいと思った。

特別な人間でなくとも能力が足りなくとも、心根と努力でそれを補っていくのだというその姿勢はなんだかとても好感が持てた。

そして不死川と二人の時はそんな風に自分の弱さを暴露しながらも、ひとたび現場について一般隊士を前にすると、

「遅くなってごめんな。
でも柱が二人も来たからもう大丈夫っ!
とりあえず怪我人は隠に手当してもらって。
その間しばらくは風柱はみんなの護衛についててもらうから。
で、みんな手当終わって安全を確保出来たら二人でチャチャっと鬼倒しちゃうな」
などと、さきほどまでの会話など全くなかったように…しかも不死川が落ち着いて参戦できるまでの時間を当たり前のように確保する。

錆兎のように当たり前に強くて余裕があってそれをするのはもちろんすごいが、自身が全く余裕がなくとも”それが必要だと判断したら”無理だろうとなんだろうとそれをこなす村田はもっとすごい…と不死川は表には出さないが内心彼にしてはかなり素直に感心した。


そうして鬼に一人で立ち向かう村田。
じっくりとその剣技を見るのは初めてくらいだが、確かにすごくはない。
基本にきっちりと忠実に、無駄のない剣技で鬼の攻撃を防いでいる。

手本のようなその水の型の技は、特別な才能というものを持たない村田が何度も何度も基本から繰り返し鍛えていったものなのだろう。

例えば錆兎のものなら、そこに己のあふれた才能分を上乗せした、同じ型でもどこか派手で華々しい感じのする剣技で、あっという間に一刀両断するところなのだろうが、村田にはその上乗せしたものがない。

その代わりそれには死ぬ気で努力を重ねれば特別な才のないものでもここまでの戦いができるまでにはなるのだ、という、希望のようなものがあった。

その剣技をみれば、さきほどの村田の言葉が本当のことであるのがよくわかる。
彼は何もないところから与えられた使命をこなすためコツコツと愚直なまでに地道に剣を振り続けてきたのだ。

そう思えば不死川も才がないから柱じゃないなどとごねていた自分が恥ずかしくなった。
出来るからやるのではなく、やらなければならないから必死にやってるのだと言う村田の言葉は本当に正しくまさに真理な気がする。

匡近は強かった。
彼が柱になれば良かったのだといくら思ったところで、村田の言うように死んでしまった彼にはもう柱どころか鬼を斬ることも出来ないのだ。
なら彼に生かされた分、自分は彼の分まで鬼を斬るべきだ。

家族を失った自分に剣技を教えて飢えない様に飯を食わせてくれた師範も、自分を拾って一緒に戦って助けてくれた匡近もその恩を返そうにもこの世には居ないのだけれど…
彼らが自分を助け育ててくれたことが無駄ではなかったのだと証明して墓に報告することくらいはできるはずだ。

そうと決まればぐずぐずしている暇はない。
一体でも多くの鬼を斬り捨てて、彼らが不死川を助けた行動は無駄ではなかったのだと言う証をこの世に示さなければ…

大方の隊士の手当てが終わったあたりで、ゆらり…と不死川は刀を抜いた。

それに
「あ、風柱様、そろそろ参戦されますか?」
といいつつ、範囲の広い風の呼吸の型を知る古参の隠が怪我人を抱えて少し距離を取る。

「ああ。ちょっくら首刎ねてくらァ」
と、村田を見習って多少てこずりそうな鬼を前にそれでも何でもないことのようにそう言うと、不死川は鬼と対峙している村田の方へと駆け出して行った。


それを気配で悟ったのだろう。
表情こそ余裕な顔を見せながら、村田は
──あ~良かった。俺そろそろぎりぎりだわ。援護するから首頼むね~
と、苦境を訴えてくる。

それに応えて不死川が風の呼吸の型を繰り広げると、村田はその広い範囲から出ることなく、しかし上手にするりするりと避けて巻き込まれることなく、さらに鬼の退路を上手に絶っていく。

そんなまさに流れる水のように柔軟な補佐のおかげで不死川が思っていたよりもかなりあっけなく斬られる鬼の首。

(俺を待ってなくても自分で斬りゃあ良かったんじゃねえかァ?)
と他の隊士の拍手喝さいの声に紛れて小声で言えば、村田は
(俺ね、防御と補佐は得意だけど攻撃あんま得意じゃないのっ。
普通の鬼ならとにかく今回の下弦の弐だしね。
無理に攻撃に走ると倒せるけど怪我する可能性があるからさ。
1人ならとにかく、攻撃得意なお前がいんのに無駄な怪我負うことないじゃん。
そのためにわざわざ二人で寄こされたんだし)
と苦笑する。

──………
───…?なによ?
──今回二人で寄こしたのはてっきり俺の尻たたくためかと思ってた。
──あ~~それもあるけどさ、それだけのために柱二人投入するほど錆兎は甘くないよ?

あいつが効率度外視で甘い相手は義勇だけ。
と、大きくため息をつく村田に、元々の誤解からくる村田の受難もそのあたりから始まっているし、なんか苦労してきたのか…と、なんとなく同情する不死川。


そんな会話をしていると、助けた隊士達が寄ってきて口々に柱の強さを褒めたたえながら礼を言ってくるので、なんだか面はゆいながらも温かい気持ちになってきてしまう。

先人への恩と後輩への愛情。
それで戦っているんだと言う村田の言葉の意味が、不死川も少しわかってきた気がした。

こうして最初は断固として拒否していた不死川も、風柱不死川実弥として本格稼働することになる。








2 件のコメント :

  1. 多分誤変換だと思います。「心理な気がする」→真理…かと、ご確認ください。(^^ゞ

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    1. ご報告ありがとうございます。修正しました😄

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