「話は聞いたよ。今…義勇が単体で動くのは目立ちすぎるかもね」
よく来たねとあいも変わらず優しい笑顔で言うお館様からの次の言葉は、まあ錆兎としては予想の範囲と言えば予想の範囲内であったものの、すっかり錆兎と一緒に行くつもりでいた義勇は、その言葉に目をうるませる。
「無理を言って申し訳ありませんでした。
オレ一人で行くか…最悪鴉に無事を伝えてもらいます」
と、義勇は気が回せそうにないので、代わりにそう云う錆兎。
だが、それに続くお館様の言葉は
「う~ん。諦めないでもいいよ?目立たないように行くという方法もなくはないしね」
と、謎なもので、
「…と、申しますと?」
と、錆兎は首をかしげた。
「うん。私事だしね、錆兎もどちらにしても隊服じゃなく私服で言ってもらうことになるし…」
「はあ…」
「義勇も同じく」
「はあ、それで?」
「うん、だからね」
と、お館様はどこか珍しくいたずらっぽい楽しそうな顔をした。
「男女の旅人として出かけるのはどうかな、と」
「はああ~~???」
驚いた。
本当に驚いた。
発想も驚いたなら、それがお館様の提案だというのにも驚いた。
あんぐりと口を開けたまま固まる錆兎と不死川。
「うむ!さすがお館様!これで万事が解決だっ!!」
スパ~ン!断言して、ウンウンとうなずく煉獄。
胡蝶は……うつむいて肩をふるわせていた…。
お館様の午前…爆笑はしてはならないと必死にこらえながら……
「ということでね、着物を見繕ってあげてもらえないかな?しのぶ。
錆兎にはこちらの側の手違いで随分と大変な思いをさせたからね。
可能な限り都合をつけてあげたいんだ」
と言われて、胡蝶は
「はい。着付けから化粧まで、全ておまかせくださいませ」
と、笑いをこらえながらも承る。
その胡蝶の声にようやく我に返ったらしい。
錆兎が
「お前、これでいいのか?」
と、ぼ~っとしている義勇に詰め寄るが、
「結局…行けるのか?行けないのか?」
と、問う言葉に、胡蝶が
「良かったですね、冨岡さん。
服装を考えれば一緒に行っても良いそうですよ」
と、他に何か言う間を与えずに言うと、義勇は
「そうか…なら、なんでもいい…」
と、ほわんと嬉しそうな表情で言った。
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