影は常にお前と共に_19

それは昨日のことであった。

煉獄達がお館様に打診していた、鬼舞辻の企みが判明するまでは、胡蝶、甘露寺、そして義勇は極力出動させないという提案にお館様からの許可がでたことが、直接のきっかけである。

錆兎が休暇をとって狭霧山に一度帰りたいと言い出した。
【影柱】の顔出しが禁じられていない事がわかったので、鱗滝さんに生存の報告をしたいと言う理由である。

【水柱】である義勇が出動しないということは、当然ながら水の【影柱】である錆兎も出動しない。
ゆえに時間が取れるから、ということなのだが、そこで義勇が意義を申し立てる。

錆兎と離れるのは嫌だ、と。


なにしろ8年間も死んでいると思いこんで、嘆いて嘆いて嘆いたのだ。
実は生きていました、と、言われてまだ数日。
はい、そうでしたか、大丈夫、というわけには行かない。

自分の手の届くところにいないと、生きていたということのほうが夢のような気がして死にたくなる。

そう主張して、錆兎の生存が確認されてからすっかりゆるくなった涙腺を決壊させて泣いて泣いて泣く義勇に、錆兎が勝てるわけもない。

そんな錆兎がとった方法は…困った時の煉獄頼みだ。


「煉獄、助けろっ!」
と、泣く義勇をひきずって、かつて知ったる煉獄家へ。

そこにはちょうど柱同士での稽古をしにきていた不死川もいて、縁側で並んで一休みをしていた。

首にかけたタオルで汗を拭き拭きの絵に描いたような鍛錬合間の休憩スタイル。
2人で並んでこちらを見る。

そうして錆兎の姿をみとめると、

「よお、錆兎。
お前も鍛えてやろうか?」

と、背中にはりつく義勇のことにはあえて触れないで錆兎に声をかける不死川だが、その割に横に放り出した巾着から飴玉の包みを一つ出してそれを放り投げてよこすので、義勇のことも認識はしているらしい。

一方の煉獄は

「おう。今度はどうした?
泣くな、泣くな。俺で良ければ力になるぞ」
と、縁側から降りて駆け寄ってきては、錆兎の背中に張り付く義勇の肩をポンポンと叩く。

とりあえず…親身に相談に乗ってくれそうな長男組に、錆兎はホッと安堵のため息を付いて、事情を話した。



「…あ~……それはなんつ~か…お前が諦めて、師匠んとこには鴉でも飛ばしとくしかないんじゃね?
弟育ちは譲らねえ。ぜ~ったいに譲らねえ。
やつらはゴネれば最終的に自分の思い通りになるって確信してやがるからなっ。
使命ならとにかく、単に自分がやりたいだけのことで、お前にそれを振り切る根性はないとみた」

「…それは不死川の経験談か?」
「うるせえよっ!!そうだよ、悪いかっ!!」

縁側にあぐらをかいたまま、ぐしゃぐしゃと片手で頭をかいて言う不死川。
それに錆兎がそうツッコミを入れると、怒鳴りながらもそれを認めている。

その一方で煉獄はその場で腕を組みつつ、う~む…と、目を閉じて考え込んでいた。
そしていきなり、よしっ!と目を開けた。

あまりに迷いのない目で言うものだから、何か名案を思いついたのだと、長男組の残り2人の視線が煉獄に集まる。


唯一錆兎の背中に張り付いている義勇が、錆兎の肩に顔をうずめたまま、

「…今回はダメだ…。
外は鬼がいる…。だから絶対はない。
戻ってくる保証がない」
と、くぐもった声で言った。


「あ~?こいつがそんな簡単に殺られるタマかよ?
上弦でも出てこねえ限り、返り討ちだろ」
と、それにやはりガシガシと頭をかきながら、不死川が肩をすくめる。

「…上弦が出てきたら……」
「そこ言ってたら、そもそも通常任務だって行けやしねえよ」
「任務ならいい…。俺も一緒に死ねる」

と、そんなやりとりのあと、不死川は今度は、コレはダメだとばかりに、片手を額に当てて天を仰ぐ。

「…死ぬなら…一緒に死にたかったんだ……」
と、最終選別の時を思い出して肩を再び濡らす義勇の涙に、錆兎も罪悪感がヒシヒシで、同じく困ったように天を仰いでため息を付いた。


そんな2人に全くかまうことなく、煉獄は相変わらず微塵の迷いもない様子で
「うむっ!それなら、冨岡も一緒に行ったら良かろう!」
と、言い放って頷いた。

いやいや、それはまずいだろ。
なんのために義勇を含んだ3名を任務から外していると思っているんだ?と、長男組の残り2人が煉獄に言うが、煉獄はまたドキッパリと、

「そうだなっ!それもあるから、お館様に相談だっ!!」
と、さあ行こう、今から行こうとばかりに、

「では俺は支度をしてくるから、不死川も来い!
きっとわかって頂けるっ!!」
と、反論する間もなく、不死川を引きずって着替えのために奥へと消えていった。


ぽか~んとする錆兎と、鼻をすすりながらも泣き止んで

「煉獄は…良いやつだ」
と、ぽわぽわと言う義勇。

──錆兎と旅行…
と、さらに小さくつぶやく声が嬉しそうである。



こうして煉獄に率いられて半ば強引に同行させられる不死川。

そして煉獄の案でかなり機嫌の良くなった義勇は、今は背中にはりつくこともなく、錆兎と手をつないでしっかり横を歩いている。

錆兎は通常時ならば煉獄の案は非常に魅力的だとは思うのだが、この状況で果たしてそれは大丈夫なんだろうか…と思いつつ、判断はお館様に任せようと、おとなしく煉獄に続いて歩いていた。









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