義勇がそんな決意したその時の少しあと…
泣き寝入りしてしまった義勇の枕元で、愛しげにその寝顔を堪能している錆兎に、心配していつのまにやら追ってきたらしい”影”としても先輩となる真菰が呆れてため息をついた。
──それが義勇の良いとこだろ。いいんだよ、これからだって俺が守るんだから
と、その言葉にやはり義勇から視線を外すことなく錆兎がどこか楽しそうに言う。
──本当に錆兎って…義勇のこと好きすぎよね。どんな立場になっても言うこと変わらないんだね。
その錆兎の答えにやはり呆れ返る真菰。
脳裏にははっきりと『共依存』という言葉が浮かんでいる。
でもそれは仕方ないこととも思っている。
真菰もそうだが、鱗滝のところにいた子どもはみな、鬼に家族を殺された孤児だ。
その中でほぼ同時期に引き取られた錆兎と義勇は本当に対照的だった。
錆兎は怒っていた。
家族を殺した鬼に…。それを阻止できなかった自分の弱さに。
義勇は泣いていた。
自分をかばって死んだ姉に対する申し訳無さと悲しみに…
やたらと”男として”という言葉を使いたがる錆兎は、おそらく他人よりも色々と出来る分、その力で誰かを守りたいのだろう。
そんな自分が守るべき相手のすべてを死なせて1人生き残ってしまったことへの怒り。
今まで慈しんだり気にかけたりしてきたすべてをいっきに失って、持て余した感情の矛先がすべてこの怒りという形で現れていた。
そんな錆兎の、守るはずのものがなくなってポカンと空いてしまった心の穴を埋めたのが、たぶん寄り添ってくれていた相手を亡くして泣いていた義勇だったのだろうと思う。
一見義勇のほうに一方的に錆兎が必要なように見えるこの関係。
物理的には確かにそうなのかもしれないが、精神的にはどちらもどちらだ。
義勇が己の身に関することをすべて錆兎にまかせて預けてしまっているように、錆兎は自分の心を芯の部分から全て、義勇に明け渡して委ねている。
口では守ってやると言って身は守ってやっているが、その実心は義勇に守られているのだ。
形こそ違えど互いが確かに互いに依存して、互いがいなければ己が成り立たないほどの関係、まさに共依存だ。
鱗滝さんは別に鬼殺隊に入ることを強要などせず、むしろ子どもたちが選別をうけることに反対派なのだから、そんなに互いが大事なら2人で育て手の手伝いでもしていればいいのに、なぜ鬼殺隊など目指したのかがわからない。
呆れながらも、おそらく分かたれた互いの立場を考えればもう二度と普通に一緒に人生を歩むことはできないのであろう2人の弟弟子達の行く末に、なんらかの奇跡が起きることを願う自分もまた、バカバカしいと思う。
が、それでも祈らずにはいられない。
互いに一度は愛する家族を失ってようやく寄り添う相手を見つけて心を寄せ合う様子を誰より近くで見てきたのだから……
激務なため表の隊員たちよりは若干多く認められている休みに、錆兎と一緒に義勇が死なないよう、フォローを入れようと思う程度には、気にかけているのだ。
たぶん、錆兎の方は義勇の護衛という役割を取り上げない限りは殺しても死なない。
それはガチだと思うので。
錆兎の方で唯一の気がかりはと言えば、まあおっとりとした義勇よりも一足も二足も早く第二次性徴期が来てしまって、それをぶつける相手とできないことで、任務の集中が途切れたりしないようにすることくらいだろうか。
そのあたりは女の自分にはわからないので、上手な欲の逃し方を兄弟子たちに頼んで教えてやってもらおうと思っている。
…姉弟子というよりおかんだよね、これは…
と思うものの、まあ”影”としての人生を選んだ時点で、一生自分の家族、もっと言えば子をもつことなどできそうにないので、それもまたよし、と、思う真菰だった。
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