村田の人生やり直し中_31_甲、村田隊士

鬼殺隊に正式に入隊して3年。
最終選別の時から愛用しているキツネの面をつけていることが多いため、一部からは親しみを込めて”おキツネ様”とも呼ばれる錆兎との付き合いも同じく3年。

そして…入隊当初から有名人の”おキツネ様”の親友ということで有名になり、さぞや強いのだろうと過剰な期待を受けるようになってからも3年。

ふられた任務で強いことを前提で色々割り当てられることも多くて錆兎にそれを相談したら、暇を見つけて稽古に付き合ってくれるようになってからも3年。

さらに…入隊2年後に前世の風柱である不死川実弥と今生で再会して、追いかけまわされることになって1年の時が過ぎていた。

とにかく必死。
生きていくのに必死。
任務以外の時間も生きていくためにひたすら鍛錬。

あまりに過剰に期待されるのがしんどくて、ずるいと思いつつも親友様の情にすがってなるべく単独任務を回してもらい、その代わりに数はこなす。

単独任務と言うのは他から強者の役割を押し付けられない代わりに助けの手も入らない。
鬼が弱かろうと強かろうと、自分自身が倒さないと任務は終わらず人生が終わる。

さらに任務中以外は常に不死川の急襲を警戒し続ける日々。

そんな日常を送るうち、自分でも気づかぬうちに前世とは比べ物にならない体力、剣術を身に着け、とんでもない数の鬼を斬ることになっていたらしい。

実に実に恐ろしいことに、最終的に丁で終わった前世の階級を大きく超えて、村田は入隊3年で一般隊士の最高位、甲にまで昇りつめていた。


前世で天才と言われていた時透無一郎を始めとする特別な才能を持った人間達はこの際置いておくことにする。
ということで、普通の家系の出で本来は特別な才能があったわけでもなかったのであろう義勇が柱の座に上り詰めたのが17で鬼殺隊入隊後4年目のこと。
おそらくその少しくらい前に甲になったのだと思われる。

しかしながら、特別な家系や才ではないにしろ、当時の彼は錆兎を失い、死ぬ気で鍛錬をし鬼を斬り続けていた。
そう、普通の状態ではなかったのだ。

それを考えると彼以上に才能のない自分が入隊後3年17歳で甲にまでなるというのはとんでもない事態だ、どうかしている…と村田は思う。


しかしそんな状態でもやっぱり村田は村田で、お館様の補佐、輝利哉様のお目付け役という唯一無二の”おキツネ様”とよく一緒にいる甲隊士という立場になっても、何故か名前を覚えられることはあまりない。

しばしば
──あ、おキツネ様の……──
という呼ばれ方をする。

不死川あたりならこんな風に錆兎のついでみたいな言われ方をすれば激怒するのかもしれない。
が、村田は正直自分がそこまですごい人間であるとは思っていないし、なんだか知らない間に階級を駆け上ってしまった感があるので、むしろ誰かのついでのような言われ方にホッとしていた。

というか、階級があがってもいいことはあまりない。
給与は確かにすごくあがって少しばかりの贅沢をしてもありあまるほどだったが、そもそもが村田はあまり浪費する人間ではない。

癸の時には躊躇したうえで一番安いかけそばを食べていたのが、今は少し迷って、任務も鍛錬も頑張ったからいいか…と、財布に相談することなく天ぷらそばを食べられるようになったくらいだ。

余裕が出来たからと孝行しようにも家族は皆鬼に殺されていて、唯一、たまに師範の元に顔を出す時に良い酒を手土産にすることができるようになったのが、本人的には良い事と言えば良い事だ。

あとはたまに錆兎に頼まれて新人の任務の引率役のようなことをする時もあるので、その時には全員無事で任務を終えたあと、まだそこまで生活に余裕があるとは言えない新人達全員に、美味い飯を奢ってやったりもするようになった。

自分の時は上の階級の人間と言うのはずいぶんと厳しくて怖かったものだが、任務外の時間はしかめっつらをして怒鳴り散らす意味はない。

──今日はみんなよく頑張ったな。頑張った分、ウナギでも食べて元気を補給しよう!
と言うと、クタクタな顔をしていた新人達が一気に目を輝かせる。
そんな顔を見るのが村田は好きだった。

そうして中には律儀な人間もいて、いつか出世して恩返しを!と言ってくれたりするのだが、それにはいつも
「俺は助けの手は必要としていないからさ、もしそういう気持ちを持ってくれたなら、その分をお前が出世した時にお前の後輩に返してやってよ。
そうしてその後輩がまた自分の後輩にって先輩が後輩に手を差し伸べるって言うのが続いていったら、それが俺は一番嬉しいかなぁ」
と答えることにしている。



──俺さ、今日はサラサラさんと一緒の任務なんだぜっ!
──あ~、いいなぁ!サラサラさん、任務の時も無茶な指示だしたりしないしな。
──うんうん、一緒だとなんか安心できるんだよな。
──任務は辛いが今日はそれを乗り越えたらウナギだぜぇっ!!
──いいなぁ…。俺もサラサラさんの任務に就きたい。
──…サラサラさん?
──ほら、”おキツネ様”と一緒にいる人だよ、髪の毛がサラサラだからさ。
──ああーー!!あの人ねっ!強いのに優しくていい人だよねっ!
──うんうん!

主に階級が下の方の隊士達からそんな風に言われていることを、”サラサラさん”こと村田隊士は全く知らない。







2 件のコメント :

  1. 誤変換報告です。1個目「錆兎との付き合いも同じく4年」←恐らく3年の間違い...^^;2個目「不死川実弥と根性で再会」←今生で の誤変換かと思います。ご確認ください。

    返信削除
    返信
    1. ご報告ありがとうございます。修正しました😄

      削除