──あ~、おキツネ様がいらっしゃるっ!!
──素敵っ!素敵っ!カッコいいっ!!
──今日は鬼殺の任務に就かれるのかしら?!
──姫様とサラサラさんもご一緒なんだな。
──なんだかすごく豪華な組み合わせだなっ!
──あと一人は…誰?
──わかんない。ちょっと人相悪い奴だな。
──特別な問題児とかで全員で付き添い?
──え~!ずるいっ!私もおキツネ様とご一緒したいっ!!
他の班の隊士達がそれをみかけて騒ぎだす。
まあ、確かに錆兎はカッコいい。
ここ3年でかなり子どもっぽさが抜けて腕組みをしつつ立っているだけで大物感が漂っている。
背も出会った当時からかなり伸びていて体格が良く、今では牛若丸というよりもやはり鬼退治の英雄、渡辺綱を彷彿とさせる。
綱も美男として有名だったというから、こんな感じだったのだろうか…。
姫様…と呼ばれるのは言うまでもなく義勇だ。
彼も出会った当時からは若干背が伸びていて、165cmとこの時代の成人男性の平均身長ではあるのだが、いつも隣に立つ錆兎がとにかくデカい。
185cmあるのでそれと並ぶととても小さく華奢に見える。
さらに…少年時代から変わらぬ綺麗な顔で百舞子の力作の可愛らしいデザインの隊服を着ていることもあり、正直男に見えない。
そもそもが錆兎が参戦する場合は大掛かりな作戦の総指揮か、あるいは極々困難な任務で柱の手も空いていない時がほとんどなので、それと一緒にいる義勇も当然、一般隊士と接触する機会があまりない。
それもあって、おそらくほとんどの隊士達が義勇を少女だと勘違いしていると思われる。
錆兎と義勇と村田と…あとはもう一人。
久々に一緒になった不死川も村田に聞くまで義勇を女だと思っていたクチである。
…というか…今でも半分理解できていないんじゃないかと村田は思った。
何故なら言葉はぶっきらぼうながら、足場の悪い場所で注意をしてやったりと、義勇には地味に優しい。
錆兎には何度か練習試合を申し込んでは、負けるどころか水の呼吸の剣士のはずの彼に風の呼吸の型について注意や指導をされたりしているらしく、
「あいつ、水の呼吸じゃなかったのかよっ!
なんで風の呼吸の型まで出来んだよっ!
おかしいだろォォ!!」
と怒っていたが、もう自他ともに認める鬼殺隊の御旗となって隠す必要のなくなった錆兎から、実家では複合の型を使っていたのだと聞くと納得したようだ。
「一つの型ァ極めんのだけでもすげえキツイのに、いくつもとか頭おかしいな」
と言いつつ、この頃には一目置くようになっていた。
ということで、そのライバル心は全て村田に…。
今回は少し現場まで距離があるので、行く道々も鬼が出る。
それを村田が斬り捨てれば、
「すごいな。まるで手本のように綺麗な水の型だ」
と、まるで錆兎に対する義勇のように拍手をする錆兎。
村田はその言葉に
「いやいやいやいや、齢13歳で鬼殺隊の次席になったお前に言われたくないけど?
強さでお前に敵う奴なんて今の鬼殺隊にはいないでしょっ」
と、この先の展開を想像して青ざめて首を横に振る。
それに錆兎は
「いや、柱は皆強いぞ?
勝負したことはないが、何人かには負けるんじゃないか?」
と言ったあと、それに…と苦笑した。
「俺は実家の関係でも水の呼吸の型を扱うし師範に学んだのも水の型なんだが、性質的にな、実は防御に特化した水の呼吸を極めるのに向いていない。
実家でも注意されて育ったし自制はしているが、敵は前に出て叩き潰したくなる性分だから。
その点村田はすごい。
そうと育ったわけでもなかろうに、常に冷静に周りに気を配っているし、勝つより負けることなく次に繋げるのが重要だと言うことを知っている。
守って負けずに戦い続ける…それが水の呼吸のあるべき姿だ」
錆兎、お前、俺に少しでも好意を持ってくれているなら、それやめろっ
今すぐやめてくれえーー!!!
…と思うのは、恥ずかしいから…というだけではない。
隣でふつふつと沸き上がる怒りの気配。
──…てっ…めえ、調子に乗ってんじゃねえぞォォ!!
と、飛んでくる拳をよける村田。
──避けんなァ!!
──避けなきゃ怪我すんでしょっ!!
とこんなやりとりも不死川と一緒だといつものことになりつつあった。
──村田、実弥とも仲が良いのかっ。さすがだなっ!!
と、どこに目がついているのか、やんごとないお育ちの人間は感性が違うのか、そんな村田と不死川を見て、錆兎はハッハッハッと楽し気に笑っている。
──仲良きことは美しきかな…
と、その隣で義勇までにこにこと笑みを浮かべてとんでもないことを言うので、村田はもう泣きそうだ。
しかしそんなやりとりは、この場のこの姫宮の御言葉でぴたりと違う方向に暴走することになる。
──さびと…
──ん?
──俺も…仲良くしたい…
上目づかいでポツリと口にした義勇の言葉。
それに本人以外の全員がぴき~んと固まった。
──いや…おめえを殴んのはさすがに……
と、どこか動揺した様子で不死川が口にするが、義勇の視線の向く先は錆兎のみ。
ひたすらに彼のそれに対する返答を待っている様子だ。
言われた錆兎はと言うと一瞬固まって、次にはぁぁ~と片手を額に当ててため息をつく。
そして出てきた言葉は
──義勇…今この場では無理だ。
と、いうもの。
え?え?と村田と不死川が別の意味で驚いて二人を振り返る。
先に我に返ったのは不死川で、
「え?てめえこんなのに暴力振るうのかァ?!」
と錆兎に詰め寄ると、義勇が
「不死川のばかぁっ!錆兎は暴力なんて振るわないっ!
仲良しだから二人で組み合いをするだけだっ!」
と間に入ってぽこぽこ怒る。
仲良しの…組み合い?
…と、その義勇の言葉に村田は自分と不死川がしていたのと別の組み合いを想像した。
そして次の瞬間……
──村田…たぶん違う。誤解だと思うが、とりあえずこれを使え
と、錆兎に手ぬぐいを渡される。
気づけば鼻から垂れている血。
それを見た義勇は
──ほら、不死川が加減を考えないから村田が怪我をしたっ!
と、不死川に詰め寄って、わけがわからない不死川は動揺している。
そこで少し止まった時間に
「義勇…訂正しておく。
仲良しだから一緒に体術の鍛錬をするというのは、お前が修行を始めた頃にあまりに体術の鍛錬を嫌がるから先生が言った方便だ」
と錆兎がまたため息交じりに少しかがんで自分の額を義勇の額にコン!と軽くぶつけた。
「えっと…組み合いって…」
「文字通りの組み合い、体術の鍛錬の事だ」
と、おそるおそる聞く村田の質問にも錆兎はため息とともに答える。
「なんだぁ……」
と自分も大きく息を吐き出す村田。
不死川はそのやりとりでようやく意味を理解したらしく
「馬鹿な想像してんじゃねえっ!!」
と真っ赤になって怒鳴ってきた。
そんな二人には一切構わずに
「仲良しだから…じゃないのか?」
と義勇が今度は涙目で見上げてくるのに、錆兎が困ったように笑いながら
「体術の鍛錬は仲が良くなくてもするな。
でも俺とお前はそんなことをしなくても十分仲良しだろう?」
と言う。
すると義勇は「うん!そうだよねっ!
俺と錆兎は何はなくとも一番の仲良しだよねっ」
と今泣いたカラスが…という感じで満面の笑みを浮かべて答えた。
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