村田の人生やり直し中_33_夢まぼろしを見せる妖

もうなんだか鬼に遭遇する前にすでに色々ダメージが大きい村田と不死川。
仲良しを連呼する16歳男子にすっかり振り回されている気がする。

──俺にはさ、なんかあると殴りにくるのに、あれはいいわけ?
と、大柄な錆兎の腕にしがみつくように嬉しそうに寄り添う義勇を指さすと、不死川はガシガシ頭を掻きながら
──末の弟に雰囲気似すぎてて殴れねえ…
とむすっとした口調で答えた。

あ~確かに錆兎が居る今生の義勇は弟オーラ満載で、長子として育ってきた人間は勝てる気がしないのだろう。
村田も長子なのでそのあたりは何となくわかる気がした。

しかしそんな和やかな困惑状況もそう長くは続かない。

──村田…義勇を頼む。
と、錆兎が突然並んで歩いていた義勇を後ろに寄こした。

緊迫した状況なのであろう行動を取る錆兎の声音は淡々としているが、錆兎の隣の不死川が青ざめる。

その強張った顔の不死川の視線を追う村田。
そして彼の顔も強張った。

そこにいるのは随分と懐かしくて泣きそうになる相手。
(…ハルちゃん……)

胡蝶姉妹や奥方様のように絶世の美女というわけではないが、おさげ髪が愛らしい素朴で優し気な少女。

──大志ちゃん、髪がサラサラでとっても綺麗
と、周りの少年たちと比べてこれと言って取り得もなく平凡だった自分に髪が綺麗だと褒めてくれた幼馴染。

彼女がせっかく褒めてくれたからと、その日から村田はバレたら怒られるのを覚悟でこっそり母親の椿油をくすねて髪に塗って手入れをしたものだった。

あの頃と変わらぬ笑顔。
でも村田は知っていた。
村田の家族が鬼に殺された夜…隣の家の彼女の一家も彼女を含めて殺されている。

だから、ありえない。
最初の人生のこの年頃ならば騙されたりためらったりしたかもしれないが、何度も言うが村田は二度目の人生だ。
夢まぼろしに揺れることはあっても流されるほど幼くはない。

それよりなにより村田にとって大切な思い出を汚されることに温和な性格の彼もふつ…と腹の底から怒りがわいて出る。

──…腹…たつなぁ…
と思わず漏れる声。

その村田の呟きに、何故か錆兎がホッと安堵の息を吐き出すのが耳にはいってくる。

──…?
不思議に思ってそちらに目を向けると、急に他の声も聞こえてきた。

こんなに大騒ぎをしているのに何故これまで聞こえなかったのかはわからないが、義勇は──姉さんっ、姉さんっ!!
と、泣き叫んでいるし、不死川は
──就也っ!就也あぁぁ!!!
と、同じく叫びつつ駆け寄ろうと暴れていて、その二人を錆兎が両腕で抑え込んでいる。

そして
「村田、お前は理解できてるようだな。
すまないが俺はこの通り手が塞がっていて動けない。
とても嫌な役目だとは思うが、お前は斬れるか?」
と、本当に申し訳なさそうに錆兎が言った。

なるほど。
この鬼はおそらく自分が相手の大切な人間に見えるような幻覚を使うのだろう。

──ああ、大丈夫。というか…俺はかなり怒っているからねっ

あの子の姿を利用するなんて、本当に許せない。

──え…?大志ちゃん、どうしてっ?!やめてっ!!!
刀を構える村田に”あの子”の顔をした鬼があの子の声で言うのに村田の怒りは限界を超えた。

──水の呼吸 壱ノ型 水面斬りぃぃいいいーーー!!!!!

こんなに迷いなく刀を振るったのは初めてだった。

青く光る剣筋が”あの子”の首を刎ね飛ばす。
しかしそのまま目で追えば、夜空に飛んだ頭は額に二本の角を生やした鬼の首。

そう、本来の鬼の顔が驚いたような表情で己の首を刎ね飛ばした村田の刀の先に視線を向けていた。

そうしてやがて重力に従ってゴトリと地面に落ちた首は泣き別れになった胴と共にサラサラと砂となって消えていく。

村田が首を刎ねた時には泣き叫んでいた義勇と不死川は幻覚が消えて素の外見になった鬼にポカンと口を開けたまま放心していた。


「この鬼を倒しに行った隊士達が新米から甲までことごとくやられててな。
剣術に長けた者もいたから何故かと思えば、こういうことだったんだな。
みな身の毛がよだつほど恐ろし気な鬼は斬れても、大切な者を斬ることはなかなかできない。
…原因がわからなかったから一応腕と人間性が信用できる辺りと一緒に来ることにしたんだが…俺一人で来た方が良かったか…。
嫌な役目を押し付けてすまなかったな、村田」
と言う錆兎の言葉。

それに村田が答える前に、錆兎の肩から錆兎の鎹烏が上空を飛び回りながら
──村田隊士、下弦の参を打ち取ったりぃ~!!!
と、驚くべき言葉を繰り返した。

──え?え?うそっ!これって十二鬼月っ?!!
信じられない事実に村田が今更ながらビビって叫ぶと、
──ああ、おめでとう!たぶん明日には水柱だ。
と、錆兎が笑顔で頷いて見せる。

え?え?ええ!!!ありえないでしょおぉぉ―――!!!

桃太郎の命を救ったつもりが、生まれついての凡人のはずの自分の人生が何故か舞台の主役級にひきずりあげられ、混乱しまくる村田の絶叫は夜の山中に大きく響き渡ったのであった。


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