村田の人生やり直し中_30_絡まれる理由

それでも前世でもそうだったが不死川は根は真面目な男だ。
任務の間は淡々と協力して仕事をこなす。

さすがに前世で柱になる人材でもこの頃は隊士になってまだ1年目なのもあって、剣技自体はやや粗削りだ。
普通に小さなかすり傷をたくさん作りながら鬼を倒す。

近場の任務とそこからさらに進んだ先の遠い現場での任務。
その時は二つの任務をこなす予定だったので、1つ目の任務をこなしたあと、二人で藤の家に一泊することに。

その道々、村田は念のため、と、
「俺の事さ何か気に入らないとしても、任務中じゃないからって喧嘩も喧嘩腰もなしね?
一般の皆様にご迷惑をおかけするから」
と、注意すると、不死川は苦虫を嚙み潰したような顔で
「わぁってるっ!」
とプイっとそっぽを向いた。

そんな所作が穏やかになり過ぎた感のあった死の直前の彼と違ってまだまだ若いな、と、つい微笑ましくなってしまう。

村田にしてみれば前世で25年生きて、さらに今生でそろそろ3年なので、精神年齢は28歳。
そんな年齢の人間から見れば15歳なんてまだまだ子どもだ。

錆兎は時折り年相応の顔は見せるが基本は大人の中で上に立つ者の自制心というものを教えられて育ったせいかその行動もずいぶんと理性ある大人に近かったのだが、不死川は本当に年相応の少年である。

「不死川さ、手当するから傷見せて」
と、宿に落ち着いて錆兎と一緒の時に教えられて携帯するようになった鱗滝左近次直伝の救急袋に手をかけると、不死川は
「別にいつものことだから、放っておけェ」
と、またそっぽを向く。

そっぽをむかれるのは想定の範囲内。
だが、その言葉は少し気になった。

「あのさ、俺みたいな凡人に言われると腹が立つかもしれないけど、ごめんね。
でもそうやってかすり傷とはいっても傷を負うのが日常みたいな戦い方は少し変えた方がいいよ?
傷って痛みだけじゃなくて、膿んだりしたらやっかいだし、何よりそこから毒がはいったりしたら大変だからね」
と、注意してみる。

「あぁ~?放っておけ。
俺の血は鬼が酔う稀血なんだよ。
血が流れればそれだけ戦いが有利になる」

ああ、そうだったよね、と、それは生前一緒に暮らしていた頃に大人の不死川本人に聞いていたことだけれど…と、思い出しつつ、村田は言った。

「うん。知ってる。
でもさ、今日倒したそれほど強いわけじゃない鬼を相手にする時に、稀血の力は要らないでしょ?
そういう最終兵器的なものは、どうしてもそれが必要な強い鬼に会った時のために取っておいた方がいいよ?
いざとなった時に血が足りないとか困るでしょ?
あとは…必要ない時に底上げをして戦うと、剣技が伸びないよ?」

畳みかける村田の言葉に、不死川はウッと言葉に詰まる。
そして言った言葉は
「うっせえっ!!
てめえも錆兎の野郎と同じこというんじゃねえっ!!」
で、村田は内心、ああ、なるほど、と納得した。

どうやら村田に対する敵対心は錆兎のことからきているのだろう。
錆兎も人手が足りない時や気になる任務の時には時折現場に出るらしいので、一緒になったのか。

「そっか。不死川も錆兎と一緒の任務になったことがあったんだ。
どうだった?いい奴だろ?」
と言うと、不死川はまた非常に嫌そうな顔をする。

「………強いことは強かった。
でも自分は任務にちゃらちゃら女連れてくるくせに、他人の戦い方に口出してんじゃねえとは思った。
女も女で村田を見習えとか言うし…」

え?とその言葉に村田は一瞬悩んで、あ~~~!!!!と思い当って苦笑した。

「あのさ不死川、その女の子って黒髪に青い目の?」
「ああ、そうだがぁ」
「それね、男っ!
錆兎の兄弟弟子で冨岡義勇って言うのっ」

「はああぁぁ~????」
村田のその言葉で不死川はぽかんと口を開けて呆けた。

「いや、ねえだろっ。
だって髪にでかいリボンつけてたぞォ?
隊服もなんかひらひらしてやがったし…」

ああ、それかぁ…と村田は遠い目をして思う。

「えっとね…新人で初めて受け取った隊服は俺達と同じだった。
でもさ、俺達の同期で敢えて隠になった女の子がいんのね。
それがちょっと変わった子でさ、その隠になった理由が、”義勇君の隊服を作りたいから”ってやつで…。
あいつが可愛い顔してるから、可愛い隊服を作って着せたかったらしい」

「………」
「………」
「………ま、まあ、色々大変だったんだなァ……」

さすがの不死川も反応に困ったようだ。
微妙な顔をしてぼそりと言う。


そう、同期の凡人百舞子はかなり変わった女だ。

一緒に最終選別を超えた20人で村田と錆兎と義勇を除いた17人の中に女子は4人。
そのうち3人は錆兎の強火担になったのだが、残る一人、百舞子は”カッコいい錆兎君と一緒にいる可愛い義勇君”が何より好きな女だった。

最初は普通に隊士になる予定だったのだが、隊服を作る段になった時、女子には露出の多い隊服を作ることで大ひんしゅくを買いつつ、でも腕はいいのでそのまま衣装部にいるゲスメガネというあだ名の前田という男の存在を知り、隠になればそんなことができるのならっ!と、急遽隠に方向転換したのである。

それから同期の特権を最大限に生かして義勇に泣きつき、義勇を落とせばもう錆兎は落ちたも同然で、見事二人の隊服作成係の座を勝ち取った。

そうして成長期ということもありすぐ大きさの合わなくなって次の制服を作る際には、百舞子の性癖がどっぷり詰まった制服が調達される。

さすがにスカートではなかったが、義勇の隊服は下に向かうにつれて裾が広がったワンピースのような上着に下はぴったりとフィットするタイツのようなパンツ。

髪のリボンは髪が長いと危険だから結んだ方が良いと主張。
大きなリボンになったのはいざと言う時のためにとリボンの中に包帯を仕込んで機能性を強調したが、実は単に目立つ大きさのリボンにしたかっただけなのを村田は知っている。
百舞子はそういう女だ。

錆兎の方は水干のように袖広の着物で、それはさすがに本人から
──刀を振るうのに邪魔すぎるだろう。
といったんは拒否されたが、そこで諦める女ではない。

「錆兎君はね、動けないお館様の代理でもあるんだよっ?
ってことは鬼殺隊の御旗で、皆がその姿を目にして安心するための人材でもあるの。
だから他と違う目立つ格好をしていないとなのっ!」

と、お館様の代わりに味方を鼓舞する役目も担っているのだと言われると、なまじ元責任のある立場の家系の跡取りとして育てられた身としては断れなかったらしい。

こうして義勇と二人、百舞子の性癖がどっぷり詰まった隊服を身に着けることになったのだった。


まあそんな錆兎と義勇の隊服事情はさておいて、不死川が義勇が何故か口にした『村田を少しは見習えばいい』と言う言葉で、村田は彼からすっかりライバル視されることとなったらしい。

それからはことあるごとに勝負をふっかけてこられる。

…というか、私闘は禁止という規則はしっかり守るため、不死川はいつ村田に出くわしてもいいように木刀を持ち歩くようになった。

村田にしてみればいい迷惑だ。

が、他からの過剰評価で任務の時に任される役割をこなすためにひたすらに鍛錬を繰り返すだけでなく、その不死川の急襲をかわすのを繰り返すことで、本人が思わぬレベルで村田の剣士としての腕はガンガンあがって、前世よりもかなり早く階級を駆け上ることになった。

世の中なにが幸いするか全くわからないものである。


Before<<<  >>> Next (3月1日公開予定)





0 件のコメント :

コメントを投稿