リトルキャッスル殺人事件sbg_12_幽霊は桜と共に舞う3

──うあああぁああ~~!!!!!

ちょうど義勇から背を向けて窓の方を向いて立っていた善逸が悲鳴をあげた。

義勇もそれにつられるように窓に視線を向ける。

すると、窓の外でぼんやりと白っぽい大きな塊が何もないはずの中空を漂って行ったのが視界に映った。

──…ゆう…れ…い……?

義勇は小さくつぶやいた。
視線は窓の外に釘付けだ。

とは言っても大きな塊が見えたのは一瞬で、その後は真っ白な桜吹雪がハラハラと舞っている。

…幽霊は…桜の花びらになって消えたんだろうか……

何故かそんな非科学的なことを思い、そしてうらやんだ。

…うらやましい…
…綺麗な花びらとして散って空気に融けて消えられたらどんなに良いだろう……

無意識に窓の方向に手を伸ばした。

ふらり、ふらりと歩を進める。

──行っちゃだめえぇええーー!!!義勇っ!!ダメーーー!!!!

と、その瞬間、足に善逸がしがみついて、ガクン!と進行方向に倒れかかる上半身は炭治郎の腕に支えられた。

そして数秒後…

──ぎゆうっ!!どうしたっ?!!!無事かっ?!!!
と、耳をつんざくような叫び声。

「…あれ…?…さびと…どうして、ここへ?」

状況がつかめない。
確か義勇がこちらに向かった時には女子高生3人組と話し込んでいた気がしたのだが…と思い、それを口にすると、片手でしっかりと義勇を抱き込んで、無言で怪我その他を確認していた錆兎は、はぁ~と義勇の肩口に額を押し付けた。

「…義勇…いきなり消えんのやめてくれ…。心臓が止まるかと思った。
気づいたらいなくて慌てて探しに出たら、なんだか善逸の悲鳴聞こえるし…
お前に何かあったら俺も死ぬからな。
本当に死ぬから…」

義勇の腰に回した硬い手が…筋肉質な腕が…錆兎の全てがひどく震えている。

…消えたい…と先ほどまで思いつめていた気持ちがそれを認識した途端に溶けていった。


「…錆兎…あの…な、なんか見えたんだ。
窓の外で桜吹雪の中を横切るように真っ白いものが…」

さきほどまで考えていた事を告げたら、ひどく傷ついているような錆兎に追い打ちをかける気がして、義勇はとりあえず物理的な事象だけを口にした。

「…外?」
と、そこで錆兎は顔をあげて、視線を窓に向ける。
…が、腕はしっかりと義勇をかかえこんだままだ。

むしろ引き寄せるようにして、両腕の中に閉じ込めて、

「炭治郎…どういうことだ?何があった?」
と、錆兎が来た時点で義勇を支えていた手を離して少し後方にいた炭治郎に声をかけると、彼は

「俺はドアの方向を向いていたのでわからない。
善逸、何をみたんだ?」
と、同じく義勇から手を放して側に立つ善逸にきく。

「…白い…なんか…おばけ…おばけが浮いてた…」
という言葉に、改めて窓の外を凝視する錆兎。
が、見えるのは外からの視界を遮るためのついたてと、綺麗な星空。

そこで錆兎が義勇をしっかりかかえたまま、浴室のガラス戸を開けて同じく外を見るが、見えるのはやはりついたてと星空、それからこのペンションの壁くらいだ。

そのために同じく外を見た義勇が

「…消えた……」
と、ポツリとつぶやくのに、錆兎は

「どのくらいの大きさだ?浮いてたってどんな風に?」
と聞く。

それには善逸が
「あのねっ…このくらいのね、…おっきさ」
と、答えて両腕を広げた。

「…シーツか何かが落ちたみたいな感じか?」
だいぶ落ち着いて来たらしい錆兎はほぼ習慣で義勇の頭を軽くなでつけながらさらに聞く。

「…ううん…。なんかス~っと横に移動してた…」
と、それにも善逸が答えて、向こうの方を指差した。

そこで錆兎はチラリと腕時間を確かめる。11時48分…。

「何かの見間違いじゃないか?」
中空をそんな大きな物体が浮いてるなんてありえない。
炭治郎は言うが、錆兎はみんなを浴室の外にうながしながら、

「外に出て確かめて来よう」
と、言う。

そして大浴場を出てそのまま玄関に行きかけて気付く。

「あ、跳ね橋あがってたな」
と、そのまま1Fで拓郎を探すがいない。

「しかたないな、いったん上に戻るか」
錆兎が言って階段に向かうと、丁度拓郎が上から降りて来た。

「あ、上にいらしたんですか」
錆兎がいうと、拓郎は

「ああ、今のうちにちょっと上の空き部屋の掃除にね。オフシーズンでもある程度やっておかないと部屋が傷むしね」
と、笑顔を見せる。

それに錆兎も少し笑みをこぼして
「こんな時間まで大変ですね。蜘蛛の巣ついてます」
とハンカチで軽く拓郎の肩先をぬぐう。

「ああ、すまないね」
とさらに微笑む拓郎に錆兎は義勇と善逸が見た物の話をした。

「あ~…大量に飛んだ桜の花吹雪とかじゃなくて?
このペンションの裏に大きな桜の木があるから。今日は風も強いしね。
それとも…幽霊かな?桜は血を吸って花を咲かせるってよく言うしね」
いたずらっぽく笑う拓郎にすくみあがる善逸。

「ああ、ごめんごめん、冗談だよ。
とりあえずこの時間から跳ね橋あげるとあの音で他に迷惑になるからね。
明日調べてみようか。まあ…こんな小さな島で大きな動物も鳥もいないから、何かの見間違いだとは思うけどね」
と、言われるとそれ以上は強くは言えない。

「はい、お願いします」
と、錆兎はお辞儀をして、拓郎と分かれるとみんなを上に促した。


こうして善逸と炭治郎とは別れて義勇と2人部屋に戻る。

本当に…今回の旅行は不穏な事だらけだ。

何をやらかすかわからない素行の悪い空手部4人組。
その中のひとりの彼女でやたらと義勇に接近している(ように錆兎には見える)女子高生真由。

そして…義勇と善逸が見た謎の白い物体…

動物でも鳥でもない。
桜吹雪なら…飛ぶ方向が逆だ。
錆兎は考え込む。

「なんだか…胸騒ぎがするな…」

と、思わず口をついて出ると、腕にかかえこんだ大切な大切な恋人がぎゅっと錆兎のシャツの胸元をつかんで澄んだ大きな目で見上げてきた。

顔に対して大きいせいか、いつも不安げな印象を受けるその澄んだ青い瞳を向けられると、とても心が揺れるというか、何をおいても守らなければ…と強く思う。

最初の殺人事件の救出後のように、その目に光がなくなって壊れた人形のようになるような図は、もう二度と見たくはない。

スリっと小さな小さな頭を擦り寄せてくるのが愛おしくて、

「もう寝るか…。明日、吊橋があがったあとに外出れば原因わかるしな。
【幽霊の正体見たり枯れ尾花】って言葉もあるし、意外に明るいところで確認したらなんてことないものなのかも知れないしな」

と、自らのさきほどの発言を打ち消して、錆兎は押入れの中のバッグからパジャマを出すと、上着を脱いだ。

そこでふと気付いて上着から汚れたハンカチを取り出し、洗濯物用の袋に入れようとして、考え込む。

「錆兎…どうした?」

今度はハンカチを手に固まる錆兎に、義勇がきくと、錆兎はふと我に返って苦笑した。

「いや…考え過ぎだ。寝よう」
と、ハンカチを袋に放り込んでパジャマに着替えて、義勇をかかえこんでベッドにもぐりこむ。

寝ておかないと今回はいつ起こされるかわからない。
錆兎は布団を頭からかぶると無理矢理眠りにつこうと目を閉じた。


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2 件のコメント :

  1. 修正漏れ?報告です。義勇さんの頭が→「黄色い頭を擦り寄せて」黄色い❕のでアーティー仕様かと…ご確認ください。

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    1. でしたっ!修正しました。ご報告ありがとうございます🙏

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