青い大地の果てにあるものオリジナル _4_1_憂鬱な二人

「「「日本かぁ...」」」
遠征出発の日、車に乗り込んで日系3人組はそれぞれの思いを胸につぶやいた。


「日本列島転戦横断の旅なんだよね?少しは戦闘以外の事やる時間もあるのかな♪」

例によってジャスティス5人全員とルビナスの6人居間に揃って雑談中、せっかくだからと日本茶を全員に配りながらなずなが笑顔で言う。

「なずな、お前さ、なんでそんな楽しそうなわけ?」
うんざりしたようなユリにクルンと大きな丸い目をむけ、なずなは
「だって久々の日本だし。懐かしくない?」
と首をかたむけた。
サラっと綺麗な髪がその肩をこぼれ落ちる。

「「...良い想い出ないから近寄りたくなかった」」
楽しそうななずなとは対照的に残りの二人、ひのきとユリは憂鬱そうに頬杖をついた。

「え~。俺は楽しみっ。タマの故郷だしっ♪」
と、ホップはご機嫌組である。

「ですよね~、楽しみですよね~」
というなずなと、ね~♪と二人で手を合わせて首をかたむける。

「おい、なんか仲良しじゃん」
それを見てユリがあきれた息をついた。

「そりゃあもう!
俺タマのために日々姫に花嫁修業手伝ってもらってるし♪
あ、荷物にさ姫に教わって縫った浴衣入ってるからな」
ハイテンションに言うホップにルビナスがあきれる。

「花嫁修業って...ホップ君がしてるわけ?」

「うんうん。タマのために料理と裁縫、日本語を。
それぞれ完璧にこなせればタマにもらってもらえるんさっ」
ホップがコクコクうなづくのに、ルビナスは吹き出した。

「本部組ってつくづく面白いわよね」
「まあ...若者多いしな」
とそれにコーレアも同意してうなづく。

ハイテンションななずなとホップにユリがボソっと
「そんなに楽しみならいっそのことひのきの実家行ってひのきの婚約者にでも会ってくるか?」
とつぶやき、ひのきがその言葉に茶を吹き出してむせこんだ。

「なに?そんなのいたんだ?!」
驚いて言うホップに
「昔の事だっ!ジャスティスになって縁が切れたから今はほんっと関係ねえっ!!」
と、むせ返りながらもあわてて言うひのき。

なずなはというとのほほ~んとお茶をすすりながら、
「それもいいね~」
とにこやかに応じる。


「ね...姫ちゃんてさ...前も思ったんだけど...」
ルビナスがそこで少し眉をひそめた。

「それは見栄とか強がり?
それとも天然?
それとも外では大人しそうな顔してるけど、二人の時は実はすっごく怖い人でひのき君完全に尻にひかれて逆らえないから余裕なの?」
ルビナスの言葉になずなは不思議そうに首をかしげた。

「「2だ」」
ひのきとユリが声を揃える。

「何の話?」
心底不思議そうになずなはひのきとユリの顔を見比べた。


「あのね、普通の極々一般的な女の子はね、動揺するものだと思うのよ?
元婚約者なんて言われたら」
ため息をついて説明するルビナスの言葉に、なずなはちょっと考え込んだ。

「普通って...難しいんですねぇ。
でもルビナスさん、その婚約者さんがいた時期も含めて今のタカがいるんだと思いません?
現...だったら色々大変そうですけど、元だったら別に問題ないのでは?」

「え...えっと...?」
きかれてルビナスはとまどう。


「ま、元々親が決めたやつだし、俺がブルースターに行った時点で弟の婚約者だから、マジ関係ねえ」
しかしひのきが落ち着いて来て言うと、それを聞いてなずなはまた首をかしげた。

「そうかしら?そんなに簡単に割り切れるもの?」
なずなの言葉にその場の他の面々がピキンと固まる。

「なんか...生まれてからずっとこの人のお嫁さんになるんだって思って育って来てそれがその人が駄目になったからって急に別の人のお嫁さんって...気持ちの切り替えが大変じゃない?」

ああ、そっちの意味か、と、その場にいる誰もが安堵の息をついた。

「いや、婚約者っていっても2度しか会った事ねえくらいだから。
うちの一族の本家の嫁になるための教育を受ける事が重要で、婚約相手がどういう奴でってのはお互いあんまり気にしないっつーかな」
ひのきは少し複雑な表情で言う。

「ま、ガキの頃からそれ用に教育された人間じゃないと嫁やってけない家なんだよ、ぶっちゃけ」
ユリがそれに付け足した。

「う~ん...」
なずなが考え込み、ひのきとユリは少し落ち着かなくなる。

「ユリちゃんも分家とは言ってもそういうお家に育ってるんだよね?
もしかして...一般人て私だけ?」

「あ、違うさ、俺もっ!俺も普通の家!」
ホップが手をあげる。

そしてまた
「「仲間~♪」」
と二人で向き合って手を合わせた。


「ん、でもさ、私はなずなの家に生まれたかったけどな。柊の娘に生まれたかった」
ユリの言葉に
「柊?なずなの親?」
とひのきがきく。

「ああ、なずなの父親。もうな、すっげえいいぞ。この世で最も愛すべき脳筋だった」

「脳筋なのかっ!」
ひのきが吹き出した。

「ん。でもな、すっげえおっきくてあったかい男でさ、めちゃ好きだったな。
お前感謝しろよ、マジ。あの柊が育てたからなずなはこんなんなんだ」
ユリは言ってなずなの頭をなでこなでこする。

「なるほど、すごい父親だったのはわかった」
ひのきはうなづいた。

「あ、なずな、ちと私の荷物、頼む。荷解きもしてもらえると...」
そこでユリはなずなに自分のバッグをおしつける。

「ユリちゃん...」
「頼むよ~。このところファー達の面倒で疲れてるんだよ~」
そうユリが言うと、ぷ~っとふくれていたなずなが
「そうだったね。忘れてた、ごめんね。お疲れさま」
と、表情を柔らかくしてバッグを受け取り、ユリの寝室に消えて行った。

「な?あっさり騙されてくれる」
と、親指でそちらをさしてにやりと言った。

「お前なぁ...ウソかよっ」
あきれて言うひのき。

「ん。まあほら、さっきの続き。
柊の教育方針は"人を憎むな裁くな疑うな"だったからっ。
"人に好かれたいと思ったらまず自分が相手を好きになれ。"とも言われたかなぁ。
実際そんな生き方難しいんだけどさ、それを体現してるような奴だったよ?
縁もゆかりもない私をなずなと一緒に自分のガキみたいに育ててくれたしさ。
だからなずなは馬鹿なんだけど、一生懸命でまっすぐで優しい」

「フェイロン君は頭か勘がすごく良いんだって言ってたけど...馬鹿...なの?」
ユリの言葉にルビナスが聞く。

「ああ、それはな。相手に何が必要かってのを無意識に汲み取る術に長けてるから。
あれは先天的な才能ってやつ?
でもあんまりそういうのを自分の為に使わないからさ。
つか使おうって発想がな、ないから。
他人の事で自分が疲弊して過労死しかねないって充分馬鹿じゃない?」

「確かにな...」
ひのきが深くため息をついた。

「だから、周りがほっとけなくなる。
ま、それで結果的にはフィフティーなのかもしれん。
だがなんかまあそれとは別に...マイナスイオンでも出してるんじゃないかと思うほど側にいると心地良いんだけどな。
疲れが取れるっていうか...」

「あ、それわかる!」
ひのきの言葉にユリが乗り出した。

「なずな抱え込んで眠るとさ、すっげえ気持ち良く眠れるんだよな。
他でも試してみたけど駄目だった」

「お前...試すなよ」
ひのきがあきれて顔をしかめる。

「いいじゃん。同性なんだからさ」
とユリは舌を出した。


「ま、話戻すと、自分の事が関わると馬鹿だよなずなは。
容姿とか性格とか体力とか諸々なんも気にしてないから微妙な事言って変な輩にストーカーされるし無理して倒れるし」

「確かに...ぎりぎりな奴だったよな...」
ひのきが思い出して複雑な顔をする。

「だよなっ、ひのき苦労させられてたしっ。ま、お前だから持ったと思う、まじ」
ユリが噴出すと、
「なになに??例えば??」
とルビナスが好奇心にかられて身を乗り出した。

「いや...出会った初日にな...ストーカーが部屋にいて追っ払った後、怖いから泊まってくれって言われて...。
それはまずいだろうって言ったら...いきなり若い女と見たら襲いたくなったりするか?って聞かれて否定したんだが...。
じゃあ自分も別に即襲いたくなる人間じゃないから問題ないと真面目な顔で言われた事とかあったぞ...もう泣きそうになった」

「ア~ハッハハ~!!!!」
ひのきの告白にユリとルビナスが腹を抱えて笑い転げた。

「それ最高っ!!!」

「笑い事じゃねえ!どうみても意味わかってなさそうだから手出すわけにもいかねえし、大変だったんだぞっ!」
とムスっと言うひのきに
「あの可愛らしい顔でそれ言われたら...つらいな、男としては」
とコーレアが苦笑する。

「俺なら手出しちゃってるかも...」
とホップも同意した。

「まあ...そこで手を出して子姫ちゃん作るって手もあったわねっ」
まだ爆笑しながらルビナスが言う。

「何?子姫ちゃんて?」

「ああ、タマ知らなかったか。
今回の赤ちゃん騒ぎでな、姫からは姫に似た可愛い女の子が生まれるはずってフリーダムの面々がな、命名した赤ちゃんの仮称。
早くも親衛隊とか話になってて大変だったんさ」

ホップの説明にユリは
「それいいなっ!」
とまた噴出した。

「ひのき、マジ作れよ、子姫ちゃんっ。
子姫ちゃんなら引き取って育ててやってもいいぞっ」

「そんなんだったら引き取りたい奴いっぱいいそうじゃない?
フェイロン君とかシザー君とか思い切り欲しそうだったわよ?
ていうかひのき君の子供だったら私も一人欲しいわ」

女二人にいいように遊ばれるひのきを男二人が気の毒そうに遠めに見ている。
そこに助け舟のように荷物整理を終えたなずなが戻ってきた。

「着替え、全部ベッドの下の収納の中ね。あと私物はベッドの脇のタンスの中」
後ろからユリの首に手を回してなずなは言うと

「じゃ、そういう事でお昼の支度しましょうか。ホップさん、手伝って頂けます?」
とスッとユリから離れると下に向かった。

「了解っ。旨い物作ってくるから待ってて、タマ」
と、ホップも立ち上がってそれに続く。



「だんだん...ホップがなずな化してく気がするのは気のせいか?」
それを見送って聞くひのきにユリは首を横に振った。

「いや、とりあえず鉄線家の嫁になるためになずなをお義母さんと思って仕えるらしいぞ?」

「なんかさ、本部組って面白いわよねっ。なんかみんながそれぞれ個性的で」
「...おかしいのはこいつらだけだから...」

ルビナスの言葉にひのきは親指でユリを指差すが、ルビナスは笑いながら手の前で片手を振る。

「いや、君達カップル充分普通じゃないし」
「...男酔わせて食った女に言われたかねえ...」
ボソボソっとつぶやくひのき。

「なあに?ひのき君?君も食われたかった?」
「い~え!遠慮しときますよ、支部長」
にっこりというルビナスにひのきはソッポをむいた。

「なに?彼女怖い?」
「当然」

「でも浮気しても許してくれるんでしょ?それともあれは言葉のあや?」
好奇心半分からかい半分聞いてくるルビナスに、ひのきは大きく息をついた。

「浮気相手のな...フォローまでしそうで怖えんだよ」

「アッハハ!それあるよなっ!いつもお世話になってますとか挨拶入れにいきそう!」
ユリが手を叩いて同意する。

「...そういう...意味なのね」
ルビナスは額の冷や汗をぬぐった。

「でもま、奥方様はそれやってただろ?普通に」

「え?奥方様って?浮気相手に挨拶行くの?」
ユリの言葉に驚くルビナスにひのきが説明する。

「奥方様ってのは本家の嫁。つまり俺の母親。
浮気相手に挨拶ってか離れに愛人いるから。
ねぎらいの言葉かけたり身の回りの事気にかけたりな。
一応法的に一夫一妻になっても内部的には側室いた頃とかわんねえから法的に保護されない分気を使ってやらねえとって事。
で、そういう女周り仕切るのも嫁の仕事になってる。
もう実家の事には触れるな。すげえ気分悪くなってくるから」
本当に嫌そうに言うひのきに、さすがにルビナスもユリもその話題に触れるのをやめた。

「仕事だからしかたねえけど...日本は嫌だな」
ひのきはポツリとつぶやく。

「...俺、荷物整理してくる」
ひのきはそう言って立ち上がって寝室へ消えた。



「あちゃ...失敗したな。」
それを見送ってユリがペロっと舌をだした。

「私も同じく...かしら。
聞いちゃいけない事だったか。たまに...地雷があるわね、ひのき君は...」
ルビナスは前回の事を思い出して少し青くなる。

「ひのきの地雷は結構わかんないんだよな。
奴がそんなに実家嫌ってたとは知らなかった...
一族の側はさ...奴の事すごい信頼して慕ってたから。
そんな素振り少しも見せなかったけど実はそういうのも嫌だったのかな...」
ユリが表情を曇らせて下を向いた。

あまりに意気消沈しているその様子に、コーレアがユリの頭をくしゃくしゃなでた。

「いや...単に愛人うんぬんが嫌だったんだろう。
遠征前の打ち合わせとかでも鉄線の事は一族だからって色々心配して気にかけてたぞ」

「...だといいけどな...」
ユリは下を向いたまま口を尖らせる。

ルビナスは前回の失敗の事で少し用心してコーレアにフォローを任せた。






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