不死川実弥は新米隊士である。
鬼になってしまって6人いた弟妹達の5人までを殺してしまった母親を殺して、それを唯一生き残った弟玄弥に目撃され、誤解されたまま分かれて数か月。
とはいってもまだまだつい二ヶ月ばかり前に隊士になったばかりのひよっこである
切った張ったの命のやりとりが当たり前な時代と違って、法も整備され一般人の帯刀も禁じられているこのご時世に、わざわざ命がけの仕事に就きたいなどと言う輩は少ない。
しかも鬼殺隊は非合法組織でもあるので、どれだけ命を削っても、死んでしまえばそれまでだ。
人に仇なす鬼を斬っても多くに知られることなく一般社会で英雄と称えられることもなく、ただ死んでいく。
そんな鬼殺隊では人員が足りているとは言い難い。
入隊希望者のほとんどは鬼に家族を殺された生き残りだ。
しかも隊士を目指した候補者が正規の隊士になるための最終試験の生存率が20%以下という時点で、なりての数などお察しと言った感じである。
それでも人手不足を鑑みて、適正があるとみなされて正規の隊士になった新人がポロポロ死んでいくのを減らすことで人員不足を少しでも解消しようと、上層部はようやくそんなことを思い始めたらしい。
最近は隊士になって半年ばかりは一般隊士の最上位の甲以上の人間が持ち回りで補佐につくことになった。
ということで、不死川の最初の任務には甲の隊士がついていたが、新人用の任務に駆り出されるのが不満だったのだろう。
ずいぶんとバカにした態度で感じが悪かった。
そこで反骨精神の強い不死川はついつい反抗的な態度を取ってしまって飯を一食抜かされて、さらにその後の任務の引率にも同様の態度ばかり取っていたら土下座させられたり殴られたり散々だったので、正直この制度には辟易としている。
自分だけならふざけるな!と、除隊覚悟で殴り掛かるところだが、不死川が問題を起こせば自分を拾ってくれた兄弟子で友人の匡近や師範にも迷惑がかかると思えば不本意だろうとなんだろうと耐えるしかなかった。
ああ、早く数多くの任務をこなして偉くなり、理不尽に虐げられなくなりたい。
そんなことを思いながらも不死川は今日も任務に就くのだった。
今日の任務は何種類かの鬼達が棲みついているらしい大きな屋敷の掃討作戦。
新人の任務としてはわりあいと難易度の高いものらしい。
それでもちまちま何度も小規模の作戦に参加するよりは、数が多ければ狩れる数も多い大規模作戦の方が早く出世ができるのでありがたい。
ただ…今回の任務で気に入らないのは、例によって付き添い人。
なんと柱らしい。
不死川と同じ14歳の少年で、入隊一か月で柱になってすでに1年。
しかも史上最年少の柱ということで調子に乗っているのか、左右に継子と言う名目で美少女を侍らしているというふざけたやつだ。
本当に強くて実力があるなら仕方ないが、どうせ先々代の水柱の弟子ということで、色々下駄をはかせてもらっているのだろう。
正面切って喧嘩を売れば、階級の違いでどうやっても自分に分が悪いことになるのは、最初の任務で学習した。
それなら相手を出し抜いて自分が活躍して、えこひいき野郎の顔を潰してやる!!
自分の体にはとっておきの最終兵器、稀血が流れているのだから!!!
そうひそかに決意して、不死川実弥は今日も任務に向かうべく、藤の家を出て集合場所に向かったのだった。
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