幸せ行きの薬_23_夢の名残り

久々に風邪をひいた日…我ながら実に頑丈にできているものだと感心するが、一日粥を食って薬を飲んで寝て…としていたら、朝に計った時には38度あった熱が夜には平熱の36度5分に下がっていた。

まあそれは良いのだが、その日、なんだか不思議なことがあった。

おそらく昼間、寝ている時に夢を見た。
目を覚ましたらぎゆうがいなくて、代わりに人間になったというぎゆうがいた。

子猫がにんげんになるなどありえない。
よくよく考えればそう思う。

なのに、目の前にいた青年が自分は子猫のぎゆうで、恩返しをするために人間になったのだというその主張に、錆兎は微塵も疑いを抱かなかったのだ。

なんだか錆兎に恩返しをするために、子猫の姿では物理的に何もできないから人間の姿になったのだというぎゆうは、錆兎のためにカーテンをひいてくれたかったらしい。

そして看病する気満々で手には水とタオルが入った洗面器。
そのほかにも料理を作ってレンチンすればいいように冷凍をしてきたのだと、得意げに語るのが愛らしい。

ぎゆうは子猫の時から目で物を語るようなところがあったが、人間になっても言葉よりは目が雄弁にその感情を語っている気がした。

まあ、夢なのだろうな…と錆兎は思う。

目の前の人間が子猫のぎゆうだということは、ぎゆうをずっと手元に置いて可愛がってきた錆兎にしてみれば全く疑いようのない事実だったわけなのだが、子猫が人間になるなんてことが現実世界でありうるのかと言えば、絶対ないということもわかっている。
そうなれば、もうこれは自分が見ている幸せな夢なのだろうという結論に至った。

ぎゆうは人間になっても、おいでと呼べば寄ってきて、大人しく撫でさせてくれるし、子猫の姿はふわふわと愛らしいが、言葉で意思の疎通ができると思えばこの姿もこれはこれで悪くはない。

そんなことを考えつつ、せっかくだからぎゆうと色々話してみたいと思っていると、ぎゆうが目の前でいきなり子猫の姿に戻ってしまった。

そこでもうこれは完全に夢なのだなと、再度思う。
ああ、楽しい夢を見た…と、ふわふわの子猫に戻ったぎゆうを抱きしめながら、錆兎は夢の中のことでそれもおかしいとは思うのだが、また眠ってしまったらしい。

そうして今度こそ目が覚めると、もう夜だった。


ぴすぴすという聞きなれた寝息に、いつもの自分の枕元のあたりに視線を向けると、当たり前に丸くなって眠っている子猫。

ああ、これが現実だよな、やっぱり。
と、苦笑しつつも、熱を測ると平熱に。

楽しい夢だったな…と、一食抜かさせてしまったのであろう愛猫の食事をまずとらせなくてはと起き上がったところで、ふと気づく。

ベッドの足元の床に黒いシャツが転がっていた。

あれ?とそれを拾い上げて錆兎は首をかしげる。
そんなところに放り出した記憶はないのだが、もしかして熱が高い時に何か無意識に着替えでも出そうとして出したまま放り出してしまったのだろうか…?

不思議に思いつつも、まあいいか…と思って、子猫用の猫缶を求めてキッチンへ。
そこでようやく本格的に違和感を感じた。

片付けられてはいるが、キッチンを使ったあとがある。
まさかっ?!と思って冷凍庫を開けると、一食分ずつジップロックに小分けにされて綺麗に並べられた粥やおじやの数々。
冷蔵庫には常備菜が詰まっている。

え?え?と思いながら、錆兎は念のため…と、真菰に昼間に来たかと電話で聞いてみるが、来ていないとのこと。

そこでさすがに危機感を感じて玄関へ。
しかし玄関のドアのカギはしっかり閉まっていた。

ここは5階なのでまさかないよな?と思いつつベランダや窓のカギもチェックするが、きちんとかかっている。

えーー?!!!なんなんだ??

頭を抱えて悩む錆兎。
念のためバストイレ、クローゼットと人が隠れられそうな場所も全部チェックしてみたが誰もいない。

もうこれは謎は謎だが、何かとられたとかでもなく、被害があったわけでもなく、ありえないことが起きたのだと証明できる何かもないため、警察も動いてはくれないだろうし、放置しかないだろう。

そう割り切って、それより1食抜いてしまった子猫の食事が先か…と、缶詰を手に寝室に戻った。



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