寮生は姫君がお好き814_暗殺者

「とにかく、協力してくれんのはありがてえ。
運が良かろうが悪かろうが、寮長になっちまった以上は本来は俺の仕事だしな。
だからもし万が一どうしようもなくなったら、俺ごと我妻を放置してやってくれぇ」
と、腹をくくる不死川だが、

「そういう問題じゃなくなってるよなぁ?
見捨てるにしてはもう手遅れだし?」
と、顔を見合わせる錆兎と宇髄。

「へ?」
「いや、俺達も同等くらいの危険の中に放り込まれてるし?
よしんば今我妻が死んだところで、俺達はぜんっぜん安全にはならないと思うから、一緒だわ」
と、ぽりぽり頭を掻く宇髄の言葉を聞いてもまったく状況が読めない不死川に錆兎が苦笑した。

「あ~…つまりな、今回の招待は99%桑島老が関知していないものだということは、いい加減気づいているとおもうんだが…。
念のためその根拠を言っておくと、桑島老が関知していたら、救命ボートに避難することになった時点で、ボディーガードが善逸を連れに来るだろうしな。
あの時に避難するのは一部の要人を抜かして若者からって話だったが、桑島老は確実にその一部の要人に入っているから。
で、一般の若者よりも要人達の方が避難する時に安全を配慮された扱いをされるだろうしな。
ということで、迎えが来なかった時点で、あの場に桑島老がいなかったという仮定が成り立つ。
そうなるとだ、我妻だけを速やかに殺すなら狭い救命ボートの中が一番なわけだが、そうすると我妻を標的にしていると知られたくない相手からすると、自分達を含めたボート内の全員を殺さないとならないわけだ。
無差別殺人事件を起こすような奴が狭い船に乗っている中で暗殺者達だけを生かすのはおかしいだろう?
というわけで…船ではなく現在無人島なのか限りなく人間がいないのかはわからんが、この人目のない島へと誘導したわけだ。
それで…事故に見せかけて殺すとなると、都合よく我妻だけより、殺された数人の中にたまたま我妻が居たと言う方が都合が良いだろう?
その我妻以外の数人の犠牲者に誰を選ぶかは、暗殺者達のみぞ知るといったところだ」

「つまり、ここに漂着して救助が来るまでに何か起きるってことかァ?」
「…たぶんな」

青ざめる不死川の問いに淡々と答える錆兎。
宇髄も錆兎の話を聞いても顔色一つ変えない。


恐ろしい……
不死川は心底思った。

自分とは世界が違う。
だが、飛び込んでしまった以上、逃げる事はできない。


「青ざめんのは小屋に戻るまでだぞ。
お前は寮長だ。
その名を拝命したからには、不安があっても姫君には絶対に悟られるな」
と、そんな不死川の首をぐいっと腕で引き寄せて錆兎が言った。

「その代わり…不安は俺にこぼせ。
同期のよしみで聞いてやるし、可能なかぎりは協力してやる。
助けるんじゃない。
お前が寮長としてやるべきことを成せるように“協力”だ。
男なら…男として生まれたならば、進む以外に道はないと思え」

うああぁ~と思った。
本当にこいつは冒険譚の主人公だな、勇者だよな。
と、錆兎の口から出てくる諸々の言葉、彼が非常時に取る諸々の行動から思う。

全て解決して善逸がいつか安全な立場になることがあったら、聞かせてやって2人でもりあがるしかねえよな…と、あまりの非現実的な出来事の数々に、不死川は現実逃避のように思った。


その後、とりあえず暗殺者の可能性が高いと思われる女性同伴の二組には気をつけるということで一旦はそれぞれ自分の小屋に戻ったのだが、ほんの十数分もたたないうちに錆兎が戻ってくる。

コンコンと小さくドアを叩く音に外に出てみれば、
「一応耳に入れておこうと思って報告に来た。
どうやら敵はCPの方だ」
というではないか。

「は?なんで?何かあったのか?」
と、これには宇髄も驚きの色を見せた。

それに錆兎はどこか得意げに
「うちの寮生のお手柄だ。
あいつらは目立たなくてもやる時はやる奴らなんだ」
と胸を張る。


「CPの方のな…亜美っていったな、そいつがおそらくここに居る全員の情報を持っている。
それでいてそれを言わずにいるってことは、そういうことかと…」

「へ?なんでそんなことわかんだよ?」
と、宇髄が言う。

「気づいたきっかけは、うちの姫さんが男だって知っていたからとのことだ」
「へ?」

「見ての通り、うちのは完璧な”姫君”だし、気づかれたことってはありえん。
現に他は全員、義勇を女子だと思っているだろう?」

…いや…本当は女子だろうが…。
もしかして錆兎はそのこと知らねえのかァ?
と実弥は思うわけだが、その実弥の認識の方が勘違いだということは実弥は当然知らないし、実弥が勘違いしていることを錆兎と宇髄は知らないので、無言の実弥を放置で話は進んでいく。

「もちろん、なかにはありえんレベルで勘のいい人間がいて気づくという可能性もないとは言えないが、そうだとしたら今度は何故ドレス着てるのかとか聞くだろ?
でも亜美は知らないふりをしているんでな。
もう決定だろう」

淡々と語る錆兎に宇髄が
「…なんでそれわかったんだ?」
と聞いた。

それに錆兎は少し言いにくそうに
「あ~…生理用品、…がきっかけだそうだ」

「「はあ??」」

「これは他には口にするなよ?
幼馴染組の女子、ひまりが可哀想だからな?」
と、錆兎はいい、また出てきた知らない名前に戸惑いながらも二人が頷くと、話を続けた。

「うちの茂部太郎は影が薄い奴でな、解散後に亜美にひまりがコソコソと生理用品を持っていないかを尋ねているのを聞いていたんだそうだ。
そこで持っていないとなって、ひまりが義勇に聞きに行こうとした時、ついうっかり口が滑ったんだろうな。
絶対に持っていないからと断言して、ひまりに不思議な顔をされてごまかしていたそうだ。
しかし実は茂部太郎が持参していたようでな。
それをこっそり義勇に渡して、義勇から小耳にはさんだから…と渡させたら、亜美がものすごい顔をしていたらしい」

「いやいや、冨岡はとにかくとして、なんで野郎がそんなもん持ってんだよっ!
そいつも実は秘かに女だとかかァ」
と、やや明後日の方向に突っ込みを入れる不死川に、宇髄は

「…そいつ“も”?」
と、一瞬不思議そうな顔をして、次の瞬間、プスっと噴き出した。

錆兎はその二人のやりとりの意味には気づかずきょとんとしているが、
「あ~、こっちは気にすんなっ!なんでもねえよ。
なるほどな、男だと思ってた義勇が生理用品持ってたのに驚いたからってことな。
了解了解」
と、手をひらひらさせて話を戻す。

「ああ、そういうことだ。
俺達がそうと口にしていないのに、全員男子校の学生だと知っていたということな。
一応…茂部太郎が生理用品を持っていたのは、あれは災害時などに怪我をして救急用品がない場合に止血に利用できて、便利だと何かで読んでから常に少量持ち歩いているからだそうだ。
俺もそれは聞いたことはあったが…さすがに購入するのに抵抗があって…」
と、赤くなって片手で口元を覆う錆兎。

まあ自分も買う勇気はない…と不死川も思ったが、宇髄がそこで
「そういう時のためにネットがあるんだよ。
Amazo〇で買え、Amazo〇でっ」
と当たり前の顔で言うのに、ああ、その手があったか…と今気づいた顔をする錆兎。

それでも話を先に進めようと、口を開きかけた、その時だった!



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2 件のコメント :

  1. 読み返し中の発見誤変換報告です(^^ゞ桑島老のくだりの「過程」→「仮定」と「普通に気づかれたことってはありえん」→「気づかれたってことはありえん」…かとお暇な時にご確認ください。<(_ _)>

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    1. ご報告ありがとうございます。
      修正しました😊

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