寮生は姫君がお好き815_血塗られた男

ガサガサガササっ!!!
と、草をかき分けてくるその音に、最初に気づいたのは宇髄だった。

風に乗って漂ってくる血の匂いに、宇髄は上着の内側に仕込んでいた鉄でできた三節棍を手にとって構える。
その動きで錆兎も近づいてくるそれに気づいて大振りのナイフを構えた。
残る不死川は善逸のいる小屋を守るようにドアの前へ。


そうしてちょうどそれが近づいてくる方向、海岸方面に移動すると、そちらから血まみれの男が髪を振り乱して走ってくる。

伸ばされる手。
それに思わず悲鳴をあげかける不死川。

宇髄と錆兎はそれぞれに武器を構えるが、

──た、助けてくれっ!!
と発せられた声で、それが海岸に戻った青年の1人であることに気づいた。


「どうしたんだっ?!もうひとりはっ?!!」
と、ハッとして辺りへの警戒は宇髄と不死川にまかせて、自身の武器は収めて駆け寄る錆兎。

その騒ぎに他の小屋からも皆が顔を出す。


その中には非常時と見て義勇と茂部太郎を起こしたらしい煉獄もいて、不死川は一応寮長の責務として自寮の姫君である善逸のもとに。

それに煉獄が問いかけるように宇髄に視線を向けるので、大丈夫だからそのままにしておいてくれと言う意味を込めて宇髄が頷くと、

「ここで待っていてくれっ」
と、小屋の入り口に茂部太郎と義勇を置いて、自分は錆兎達の方へと駆け寄ってきた。


「宇髄、どうしたっ」
と、煉獄から声をかけられ、

「わかんね。
今、錆兎達と今後について話しあってたら、いきなりこいつが飛び込んできて助けを求められたとこだ。
話はこれから聞く」

そう言いつつ、宇髄は青年に手を貸して荒縄のこちら側に招き入れると、青年はボロボロ泣きながらついてくる。

辺りを漂う血の匂いと薄暗闇に浮かぶ血だらけの姿。
それに怯える姫君達は近づけないほうが良いだろう。

女性陣は幼馴染組のひまりは同じく近づきたがらず、CPの亜美の方は事情がわかるまで待つ方が嫌だという。
義勇とひまり、そして善逸は小屋に待機になるわけだが、さすがに自分が居ない所で命を狙われている善逸と義勇を一緒に待機させて、万が一、善逸のとばっちりが義勇に来るのは怖い。
気の毒だとは思うが、自寮の姫君の安全が最優先だ。
なので、自分達の小屋に義勇とひまりを待機させ、その護衛は煉獄に依頼し、善逸達の小屋には善逸、そして護衛に不死川を残すことにして、残りは中央の東屋に集合することにした。


こうして待機組以外は中央の東屋で話を聞く。
逃げてきた青年は怯えて混乱してはいたが、衣服が破れていたりはしないので、どうやら怪我はなく血は本人のものではなさそうだ。

「…それはお前の血じゃないよな?
もうひとりの方の血か?」

とりあえず聞きたい事は皆たくさんある。
だが青年は動揺しすぎていて話せそうにない。
だから錆兎は皆を制して二択で答えられるように淡々と質問をしていく。

まず最初の質問に青年は頷いた。

それで助けに行ってくれと言わないと言うことは死んだということか…と脳内補完をして、錆兎は可能性を探る。

「お前が殺したわけではないよな?」
と言う言葉にも頷く。

まあ自分で殺したなら助けを求めてはこないだろう。

「獣か何かに殺されたのか?
それとも人間か?」

少なくとも錆兎が森を探索した限りでは、大型の獣の餌になりそうなくらいの大きさの動物はみかけなかったが…と思いながらも聞くと、青年は大きく目を見開いて叫んだ。

「化け物だっ!!獣でも人間でもないっ!!」

「…化け物?」
怪訝そうに眉を寄せる錆兎の周りで、他の面々がざわめく。

「化け物だっ!!なんか気味の悪い緑色でっ…腕がすげえ長くてっっ!!
あいつ、喰われたんだっ!!!」

泣き叫ぶ青年。
まわりであがる悲鳴。

そして…顔を見合わせる錆兎と宇髄。

緑の体で腕が長くて……それは昼間にドーム型の建造物の中で見た絵に描かれていた謎の生物の特徴だ。

夕方にここに移動してきた時にこの東屋で全員に撮ってきた写真は見せたので、何人かは思い当たったようである。

「まさか…あの壁画の?
いや、でもバケモンなんて本当にいんのかよ!」

とりあえず青年が逃げてきた海岸側に面した方向は、大学生組の2人が念のため警戒を続けている。
だが全員の視線が不安げにそちらに向けられた。

ガサガサっと風が草木を揺らすたび、ビクッと皆に緊張が走る。
そこにずっと聞こえるウォォォオーーーンという音が響いて、中には恐怖で耳を塞ぐ者も出てきた。


「…とりあえずそいつは獣みたいに武器で倒せたりするのかな…」
と、どこからともなくあがる声に

「倒せたとしても誰が倒すんだよっ。
相手は人を喰う化け物だぞ」
と、別の誰かが答える。

これは…本当に化け物なのだろうか…
前の寮対抗イベントの鎧のように、そう見せかけた何かではないんだろうか…

錆兎は考え込んだ。

少なくともその化け物について描かれていた建造物に関しては、そう新しいものではなかった。
蔦の絡まり方、苔の生え方…そして建造物の少しかけた部分の劣化の様子…どれをとってみても偽装とは思えない。
本当にかなりの年月の経ったもののそれだと思った。

人外の化け物というのもにわかには信じがたいところではあるが、少なくともあの壁画が描いているように、この島には人外に見える何かがいるのは確かなのだろう。


「…とりあえず…もしそいつが追ってきたらどうする?」
と、1人が言うと、あたりがまたざわめいた。

そしてその中で1人が
「…こいつが血の跡とか残しながらここに来たから、この場所も化け物にみつかる可能性があんじゃね?!」
と言い出したあたりで、さらに大騒ぎになる。

「どうすんだよっ!!勝手にここが嫌だって海岸に戻ったお前のせいでみんな道連れかよっ!!」
と、逃げてきた青年に対して掴みかかろうとする面々を止めつつ、宇髄が錆兎に視線を向けた。

そこで錆兎が
「やかましいっ!!!」
と、叫ぶ。

「今言っても仕方のないことで騒ぐなっ!!
もし相手が本当に人外なんだとしたら、ここの荒縄と御札がそいつに対しての結界か何かなのかもしれないだろう?
とりあえず今晩は相手が追ってくるかどうか、追ってきたら荒縄で止まるかどうかを確認する。
荒縄を超えてくるなら、俺と煉獄で対応。
俺らがヤバそうなら宇髄がタイミングみて撤退を促すからそれまでは無駄な体力使うなっ!
こいつが逃げて来ようが来なかろうが、ここは離島だ。
いずれは遭遇しただろうし、それならいきなりよりはそういう奴がいるってわかっただけマシだ。
とりあえず、そいつには誰か着替え貸してやれ。
血だらけでうろつかれたら姫さん達の精神衛生上に悪い」

大変偉そうに上から言われたわけなのだが、こういう時は命じてくれる人間がいたほうが皆落ち着くらしい。

「あ…寮長、じゃあ俺の着替え持ってきますっ。
とりあえず井戸の水で体洗えば?」
と、仁がその場を大学生組に任せてそう言って小屋に戻った。

それを合図に桶で井戸の水を汲む者、逃げる可能性があるなら…と、一旦は小屋の中に広げたのだろう、荷物をまとめに行く者と、それぞれが必要なことをし始める。

その様子に宇髄が、ふ~っと大きく安堵の息を吐き出した。

そして
「さすが学園一の皇帝閣下だぜ。
一時は化け物以前にここで殺し合いかと思った…」
と言うのに、錆兎は
「お前も皇帝(寮長)だろう?」
と、答える。

が、それに対しては
「まあなぁ。でも俺は本来は雇われた偉いさんに指示を受ければ完璧以上の仕事はするが、頭の家系じゃねえからなぁ」
と、宇髄は苦笑した。

「命令するように育ってねえし?
たぶん俺が命令しても部下はとにかく、無関係な凡人は動かねえよ。
命令を聞くのは命令をすべく生まれ育ってるやつの命令だけな。
お前とか煉獄とかな?」

言われて錆兎は少し困ったように眉尻をさげた。
出来ればあまり抱え込みたくはない。
義勇の身の安全を図ることだけに集中をしたいのだが、どうやら周りはそうもさせてはくれないらしい。




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2 件のコメント :

  1. 引き続き読み返し誤変換報告です(^^ゞ「水を組む」→「水を汲む」かとお暇な時にご確認ください。<(_ _)>

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    1. ご報告ありがとうございます。
      修正しました😊

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