秘密のランチな関係Ver.SBG_12

「ずばり言うっ!部の平和のために錆兎主将の恋人のふりをしてくれないかっ?!」

翌日の昼休み…義勇はいきなり炭治郎、善逸、不死川、煉獄、伊之助の1年生組に屋上へ呼び出された。
そしていきなり5人に囲まれたかと思うと、炭治郎のその言葉である。

普段相手にしてくれないあたりまで揃ってのいきなりのこれにはさすがに義勇もぽかん…である。

大きな目を一度ぱちくり。

なんとか返した答えは
「…唐突な申し出だな…」
と、なんとも間の抜けた言葉だった。

まさか自分達の関係が周りに知れたのか?と一瞬思わないでもなかったが、炭治郎達の様子から見ると、そういうわけでもなさそうだ。

「とりあえず事情を話してくれないか」
と、先を促すと、炭治郎をグイっと後ろに押しやって、不死川がいつもにもましてすごい迫力で、2年の女子マネ、佐倉についての不満をぶちまけ始めた。

一気に吐き出したあと、ぜーぜーと肩で息をする不死川。
あまりの勢いに全ては聞き取れず、よくわからないのだが、一つわかったことがある。

「そうか…不死川は胡蝶先輩のことが大好きなんだな」

と、その唯一理解した点をやめておけばいいのにわざわざ口にしてしまうのが義勇の義勇たる所以で、その言葉に不死川はボン!!と赤くなって

「お前は馬鹿かっ?!!
ち、ちげえよっ!!…いや…違わねえけどっ、そこじゃねえだろうがァっ!!」
と、あわあわと手をばたつかせながら叫んだ。
それを他の4人が生温かい目で見ている。

そのあたりでおそらく不死川に任せておいても話は絶対に終わらないだろうと判断した善逸が、ポン!と義勇の両肩に手を置いて、はぁ~とため息をつきつつ、頭を下げた。

「ごめんね、本当に申し訳ないんだけどね?
これまで数々の女子マネさんを追い出した佐倉先輩に対抗しろなんて無茶、女の子には言えないじゃない?
でもあの人にこれ以上権力持たせたら剣道部終わりそうだからさ。
…今ジェンダーレスの時代だし、この際、錆兎先輩の恋人も男でもいいんじゃないかなって。
ただ、その人選となるとさ、いくらジェンダーレスでも錆兎先輩だって俺や杏寿郎ちゃんとかじゃいやでしょ?
不死川に至っては、なんだか極道の兄弟の杯でも交わすの?って感じだしね。
伊之助は顔は可愛いけど、そういうの理解できないし、炭治郎も演技が絶望的に下手だから。
その点、冨岡なら顔可愛いし、元々大人しいから動揺してても人見知りかな~とか、怪しまれない感じじゃん?
なにより錆兎先輩って大人しめの子が好きそうだから…
不本意かもしれないけど産屋敷学園中等科剣道部のために……」

…錆兎先輩は大人しめの子が好き……大人しめの子が好き?!!
善逸の言葉に義勇は舞い上がった。

そうか、自分は彼の好みに合致しているのか。
そう思うと、思わず笑みが浮かびそうになる。

と、そこで義勇はついでにハッと我に返った。
不本意ではない。断じてない。
そもそも前提がおかしい。
フリをしないといけない立場ではない。
…と、ようやくそこに考えがいたって、義勇は言った。

「ちょっと待ってくれ、我妻」
「やっぱり駄目?」
「いや、駄目も何も……」

――俺は元々錆兎先輩の嫁なんだが……

もうずっと言いたかった言葉だ。

自分は鱗滝錆兎の特別だ…と、今なら胸を張っていえる。
なにしろ自分は昨日の夜に錆兎の家にご招待され、本人から言質を取ったのだ。

そんな思いで嬉しさ誇らしさをこらえて、あえて当たり前のことのように口にした義勇の言葉に、周りがぴたっと固まった。

ふふっ驚いたか…と、まるで時が止まってでもいるかのように固まったままの5人を見回す。

まず動き出したのは不死川だった。
至近距離で聞こえた
「おしっ!!それでこそ男だァっ!!!見直したぜェっ!!!」
との声。

よくわからない。
何故、鱗滝錆兎の嫁だと言うとそれでこそ男だという事になるのだろうか…。
別に自分は錆兎の嫁と言われるなら全く気にはしないが、一般的には嫁と言うのは男ではない。

さらに言うなら、何故それで不死川に見直されるのかもわからないし、別に不死川に見直されたいと思って言っているわけではない。事実を述べているまでだ。

だから言った。

「俺は別に不死川に見直されたい(と思って言っている)わけじゃない。
事実を述べている」

その義勇の言葉に、善逸と炭治郎が青ざめて、不死川は怒りに顔を真っ赤にして
「おう、そうかよォっ!!俺だっててめえのことなんざでえっ嫌いだぜっ!!
ちったぁ良い奴かと思ったが、勘違いだったらしいなァ!!」
と、ポコポコ怒って大股に去って行く。

その不死川の反応もまた、義勇には理解できない。
自分は単に誰かに頼まれるまでもなく錆兎の嫁なのだと言いたかっただけなのだが、不死川は何故怒っているのだろうか…。

義勇は全く理解できないし、おそらく皆の方も義勇を理解できていない。

互いに固まっているうちに予鈴がなってしまったので、我に返った善逸が
「じゃ、そういうことでっ!!
俺達も極力フォローは入れるし、困ったことがあったら言ってね?」
と、義勇の両手を握ってぶんぶん振ると、慌てて教室に駆け出していく。

こうして1年生組にくれぐれもと頼まれて終わった昼休み。
とりあえず互いに互いの言っていることを全く理解できていない気はするが、錆兎との関係を公然とする事に皆が協力してくれるというのはまあ喜ばしいことだし、よしとしようと、義勇も急いで教室へと戻った。



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