こうして向かった体育館…
さすがに主将というべきか、錆兎は一年生組より早く体育館入りしていた。
そしてその横には寄り添うようにマネージャーの佐倉。
それまではそれほど意識していなかったが、色々を知るとその距離の近さが急に気になり始める4人。
と、肘で不死川をつつく善逸に、不死川は有無を言わさず炭治郎の腕をつかんで、錆兎の所まで引っ張っていった。
「ウサ先輩、炭治郎が話があるってよっ」
そう言うなりグイっと錆兎と佐倉の間に炭治郎を押し込む不死川。
「え?え?なんなんだっ?!」
いきなりの事に動揺する炭治郎だが、不死川に
「今日、冨岡の事で報告があるんだろうがァ」
といわれて思い出したようだ。
炭治郎はそういえば…と、うなづいた。
「冨岡の事?」
不死川の言葉に錆兎は自分の方から何か話しかけている佐倉を制して一年生組の方へと向き直ってくれる。
「鱗滝君、まだ話が…」
と、それに不満げな声をあげる佐倉に
「黙れっ。お前の話はプライベートだ。こちらは公けだろうっ!
協力してやるとは言ったが公私のけじめはつけろっ」
と、ピシっと言い放つ姿がさすが主将だと、一年生組の尊敬の念を一身に受けた。
「それで?冨岡がどうしたって?」
と、炭治郎を向き直る錆兎。
「体調崩して今保健室で休んでるから、今日部活休むってよ。
奴も俺らみてえなガキが練習を休んで付いていても気を使って休めないと思うけど、今保健の先生もいねえから一人でいさせていいかわかんねえし…」
と、そこで自分で炭治郎を押して置きながら、不死川は自分自身の口で事実にさりげなく少しばかり付加した説明をする。
(…佐倉先輩の顔が怖いんだが…)
自分の話を遮られただけでなく、錆兎に叱られて不機嫌な佐倉の怒りは、何故か突き出されて立っているだけの炭治郎に向かい、炭治郎は涙目だ。
そんな回りを気にすることもなく、錆兎は当たり前に
「ああ、じゃあ俺が見てくる。
村田、顧問が来たら状況伝えてくれ。それまではいつも通り練習させておいてくれ」
と、手にしたファイルを、もう一人の2年の副主将に渡した。
(やったっ!!)
と、とりあえず錆兎と佐倉を引き離す事に成功した一年生組は心の中でガッツポーズをとるわけだが、当の佐倉は当然面白くない。
「主将が一部員の事で練習放棄なんて示しがつかないと思うけど…部内が乱れないかしら?」
と、怒りを押し込めて、あくまで部内の乱れが心配という風に片手を頬に当ててため息をつくが、錆兎はそれにあっさり
「体調悪い部員を放置は良くないだろう?
しかも1年生は去年まではランドセル背負ってたような子どもだぞ?
上に立つ人間が一番幼く弱いあたりを気遣えない人間なんて、それこそ問題だ。
こちらには主将の代理で副主将の村田を残すし、じきに顧問の先生も来るし問題ないだろう」
強豪の部で主将をしている人間にしては珍しく、効率主義、勝利主義なところがなく、家族的な人情味を持った錆兎らしい言葉に、これが錆兎主将カラーだよな…と、部員は納得。
「やっぱり…錆兎先輩は言う事が違うよなっ」
と素直に感動してキラキラした視線を主将に送る炭治郎が小さくつぶやいた直後、その少し前方で不死川がにやりと笑みを浮かべたのに気づいた者はいない。
「そうだよなァっ!弱い一年だからなァ。
ちゃんと気遣って守ってやらねえとだよなァ」
妙にテンション高い不死川に少し戸惑いながらも、錆兎は
「あ、ああ、まあ、そうだな」
と、うなづく。
このあたりで一年生組は悟った。
不死川がターゲットを絞った事を…。
(…確かに冨岡なら…まあ千寿郎ほどではないとしても愛らしい容姿をしてるし、錆兎先輩の隣に立っても見劣りはしないかもしれないが…)
(…やっぱりさ、女の子を犠牲にするわけにいかないしね。
優しい冨岡ならわかってくれるんじゃないかなぁ…というか、こうなったら…何かあればフォローくらいは入れるから頑張ってもらうしかないよね…)
(冨岡…大丈夫だろうか)
と、それぞれ思いながらも無言を貫き、不死川にテンション高くせっつかれて、錆兎は稽古場を出て保健室へと向かったのだった。
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誤変換報告です。保険の先生→保健室の先生(保健の先生だと通常は保健体育の先生ですね^^;)養護教諭の意味だとこうかな…と。もう1個「人間しては珍しく」→「人間にしては…」ご確認ください。(;'∀')💦
返信削除ご報告ありがとうございました。
削除修正しました😀