──ねえ、社長様が1プレイヤーに加担して良いの?
とある週末のことである。
アオイは久々に見る銀鎧のベルセルクからPTに誘われて唖然とした。
それが当たり前に公式プレイヤーとはいえ、一般のプレイヤーのクリスマスイベントの練習に付き合うというのだから驚きだ。
そんなアオイの言葉にコウはアオイ達と居るとたまに出る、初めて出会った頃のようなややぶっきらぼうな様子で
「誰のせいだと思っているんだ、誰のせいだとっ」
とこぼす。
「え?なに?もしかして私が関わってる??」
と、いつものことだが自覚のないアオイにコウは大きくため息をついた。
「お前が…サビトの恋人の練習に付き合うのに、あと1人調達したいと姫に言っただろ」
「うん、言った。
4人いないと入れないからさ、フロウちゃんにランス君を貸してもらっていい?って聞いたよ?
彼ならフロウちゃんの護衛であって会社には関係ないから問題ないかなと思って」
何を思ったのかはわからないが、とある日、連絡先を交換したアオイの所に公式プレイヤーでありコウの弟分の錆兎の恋人である義勇から、クリスマスイベントの練習に付き合ってもらえないかと連絡が来た。
彼女はなんというか…かつてお騒がせ娘として名を馳せたアオイが言うのもなんだが、かなりの不思議ちゃんだ。
何故制作会社の社員にそれを頼んじゃう?
と思ったわけなのだが、アオイは広報であって制作に関わっているわけでもないし、まあいっかぁと思った。
ついでに練習風景についての記事でも書かせてもらおうと、そんな風に考えてOKを出したのだが、ギユウとアキ、それにアオイで3人。
あと1人がいない。
ギユウは何故かサビトのチームのタイムを上回るという無謀な目標を掲げて日々練習にいそしんでいるらしく、友人にもずっと付き合ってもらうわけにもいかず困っているとのことだった。
ということで、今回、アオイが頼めそうなあたりというと、どうしても三葉商事のヘキサゴンになってしまう。
だが、取材のためとは言え、あまり開発に近い人間に加担させてはさすがにまずかろうと思って、白羽の矢が立ったのが、社長夫人であるフロウの護衛をしているランスだった。
彼なら運営にはノータッチなので問題ないだろう…と、そう思い、アオイはフロウに
──サビト君の彼女のギユウちゃんのクリスマスイベ練にちょっとランス君借りていいかな?
と、許可を取っただけなのだが、待ち合わせの時間に待ち合わせ場所に現れたのは、どう見ても青い鎧の竜騎士のランスではない、銀鎧。
社長様自らどうしちゃったの?
何がどうなってこうなっちゃった?
と、アオイを含めた3人の女性陣が今唖然としているというわけなのである。
「姫はな…やんごとない女なんだ」
と、ため息交じりに言うコウ。
「無駄にノーブレス‐オブリージュの精神に満ちている」
「…うん…そうだね」
怒るに怒れない…そんな雰囲気を醸し出しているコウに、アオイはおそるおそる頷いた。
そして何故こうなったのかの説明。
どうやら、大好きなアオイからコウの大切な弟分の大切な彼女である女子高生の少女の練習に協力してやって欲しいと頼まれたプリンセスは
「ねえ、コウさん。
慣れてない子が練習するなら、最初はきちんとしたタンクが居た方が良いと思いませんか?
コウさんは私が知っている中で一番優秀なタンクなので…」
と、天使の笑みと共にお願いされて、自他共に認める”天使の奴隷”である彼が否と言えるわけがない。
日々大変お忙しい…というのを置いておいても、レジェロの運営会社の総責任者がそんなことをしていいのか?
と、そんな一般良識に対して、『姫の願いに優先される良識などない!』と断言するほどには、彼は愛妻に対しては血迷っている。
その血迷い方を見て、亜紀はどこかで見たようなカップルだな…やっぱり兄弟弟子って似るものなのかな?と、思うのだった。
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