ずっと一緒05_高校生時代

「今日のゲストは幼馴染ユニット、水柱のお二人です」

幼い頃に赤ちゃんモデルになったのをきっかけに、中学まではそのままモデルを続けていた錆兎と義勇は高校でモデル以外の芸能活動もすることになって、今日は初めてトーク番組に出演している。

元々人見知りで口下手な義勇はやはり緊張して、ひたすらぎゅっと錆兎の手を握っているので、MCの大ベテランの女性タレントが『お二人、幼馴染ということで本当に仲がよろしいのね』とニコニコ微笑みながら、主に錆兎の方に話題を振っていた。

互いの姉二人も芸能活動をしていて、モデル歴は錆兎と義勇の方が長いものの、タレントとしては姉達の方が長く、この番組にも出たことがあるので、その時のことだとか、姉達との兄弟仲だとか、色々な話題について話していたが、そのうち話題は食べ物のことへ。

「お二人はそれぞれお好きな食べ物は?」
と聞かれて、それだけは即
「鮭大根ですっ」
と答える義勇と、逆にそれまではサクサクと答えていたのに
「コロッケ…ですね」
と言ったあとに少し考え込むように間を置いたあと、
「…義勇が作ってくれる」
と付け足す錆兎。

そこで女性タレントは答えた順番でまず義勇と鮭大根の話をして、その後、錆兎に
「錆兎さんは、コロッケと言うのは義勇さんが作って下さるもの限定ということで?」
と話題を移した。

それに錆兎はちょっと笑みを浮かべて
「はい。芋が完全につぶれてなくて、ゴロゴロしているコロッケなんです」
と、答える。

「ああ、歯ごたえのようなものがあるのがお好きなの?」
と返ってくる言葉に、錆兎は、それもありますが…と頷いた後、
「俺にとってはすごく大切な思い出のあるものなので…」
と言って話し出した。

「俺達が幼稚園の年長組になった頃、姉の真菰が芸能活動を始めたんですけど、それで母親が姉の付きそいですごく忙しくなってしまったんですね。

特に小学校1,2年生くらいの時は姉がすごく売れっ子になってしまって、撮影やらなんやらで泊まりとかもあって、母親が俺のことまで手が回らないんですよ。
俺は当時モデルだけで、あとは剣道とかやってて、試合とか優勝とかして帰っても、家には父親しかいない…みたいな感じで。

まあ、日常のことは父がやってくれていたから不自由はなかったんですけど、子どもだからやっぱり姉ばかり構っていられると面白くないんですね。

まあ普段は我慢してて…でももうすぐ俺の誕生日って時に母に誕生日プレゼントに何が欲しい?って聞かれて、俺は以前母さんと買い物に行った時に行った肉屋のコロッケが欲しいって言ったんです」

「コロッケ…その頃は義勇さんの作った物以外でもお好きだったの?

「いえ、そうじゃなくて…肉屋ってそんなに遅くまで開いてないじゃないですか。
しかも閉店間際だと色々売り切れてしまうから、その肉屋でコロッケを買おうとしたら、必然的に母は早くに行って帰ってこないとダメだから。
なんか変なプライドがあって直接的に言えなかったんですけど、ようは俺のために早く帰ってきて家で待ってて欲しかったんですよね」

「あらあら。可愛らしい」

「…今考えると恥ずかしいですけどね」
と、照れたように頭を掻く錆兎。

「それで、母も何故コロッケ?と不思議な顔をしつつも、買っておくと約束してくれたわけなんです。
でも当日の朝、急に姉の仕事の関係でそこまで早く帰ってこられないとわかって、肉屋のコロッケは間に合わないから、デパートでコロッケだけじゃなくて美味しい物いっぱい買ってくるからって言われて、キレちゃったんですよね、俺。
肉屋のコロッケじゃないなら何も要らないって言って、泣きながらランドセル背負って家を飛び出して…」

「ああ…お母様にお時間を取って頂きたかったんですものね。
それじゃあ意味がないですよね。
でもお母様も何故肉屋のコロッケに固執されるのかわからずに困惑されたでしょうね」

「ええ、その日は色々あって自宅に帰らずに義勇の家に泊まったんですけど、俺が紛らわしい要求をしたんで意味がわからなくて、結局、そこまで肉屋のコロッケが食べたかったんならって父に頼んで、父が仕事を早退して買って帰ってきてくれたらしいです。
なんか父には悪い事したなと」

「あらあら。でもお父様もお母様も真菰さんだけじゃなくて錆兎さんもとても大切に思っていらしたのね」

「ですね。
それで…俺は毎朝隣に住んでる義勇を迎えに行って、2人で学校に通っていたんですけど、俺は気が強い方で泣くのはいつも義勇の方だったから、いきなり泣きながら隣の家に行った俺に義勇がすごく驚きまして…。

理由を聞かれて俺が事情を全部話したら、ランドセルを背負って玄関に居た義勇が、ちょっと待っててって中に入っていくんです。
それで義勇のお母さんと何か話して戻って来て、今日、学校終わったら自分の家にきてくれって言うんですね。
それで帰りに直接義勇の家に行って、本でも読んで待っててって言われて、義勇の部屋で漫画読んでたら、夕飯食べて行ってって言われたんでそうすることにしたんです。

そうしたら…食卓にケーキや他のご馳走と一緒にコロッケが乗っているんですよ。
義勇も誕生日一緒だから、義勇の誕生日で用意したもののはずなんですけど、ケーキの上のプレートにちゃんと俺の名前も書いてあったりして。
冨岡家全員で義勇だけじゃなく俺の名前も入れてハッピーバースデー歌ってくれたんですよ。

で、夕食食べ始めたら、義勇がコロッケは自分が俺のために作ったんだって言うんです。
肉屋のみたいに美味しくできてないかもしれないけど、お母さんに教わって一生懸命作ったんだって言ってくれて、そのコロッケが、義勇もまだ小学2年生で初めて作ったもので、ジャガイモが潰しきれずにゴロゴロしてるやつだったんですけど、俺がそれまでの人生の中で食べたコロッケで一番おいしいコロッケだったんです。

それ食べてる俺の隣で、義勇が自分はずっと錆兎のことが一番だからねって言ってくれて、その時にまた泣きました。
だからなんというか…ジャガイモがゴロゴロのコロッケ食べると、なんだか幸せな気持ちになるんですよね、いまだに」

少し照れたような笑みを浮かべる錆兎の横で、
「錆兎が美味しいって食べてくれるなら、いつでも作るから」
と、ニコニコと笑う義勇。

その回が放映されると、村田は芸能活動をしようとやっぱりこの二人はこの二人だ…と生温かい目で遠くを見つめて、百舞子はその尊さに涙して、自分の心のカレンダーの中で2月8日をコロッケ記念日として認定したのである。




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