ずっと一緒04_中学生時代

「モブ子~、お前、新幹線やバスの席どうする?
お前が義勇の隣に座るなら俺ほか探すけど」

3人揃って中学3年でも同じクラス。
そろそろ修学旅行の班決めやバスの席を決める時期になった。
例年全て自由なので、先に錆兎君が打診してくる。


…が、ありえない。
ありえないだろう!!
この一大イベントのバスの座席で何故自分ごときが義勇君の隣に座ると思うのだ。


ここは錆兎君が座るところだろう!
…とはさすがに言えないので、モブ子は無難に

「錆兎君が座りなよ。常備薬とか全部、錆兎君が持ってるんでしょ?
気分とか悪くなられても私じゃ対処できないし、私は村田と座る~」
と、クラスメートの村田の腕をぐいっと掴んだ。

(…モブ子~、また何か企んでる?)
と、それに諦めの表情を浮かべながら小声でいう村田。

彼は小学校1年の時からたまたま3人とずっと同じクラスで、その人の良い性格を見抜かれてモブ子に巻き込まれて今日に至っていた。
当然モブ子の性癖も熟知している。

だからこそのこの小声での問いなわけだが、それはしっかり勘違いされていて、

「あ~、すまない。
そうだよな、お前ら仲いいしな」
と、錆兎君が苦笑して義勇君の所に戻っていく。

そう、3人の幼馴染の中で錆兎君と義勇君を二人にするのに自分はひとりじゃないアピールのためにあまりに村田を利用するので、すっかりカップルの様に思われているが、断じてそういう関係ではない。

モブ子の側にもそういう事情があるが、村田は村田で4人仲良し認定をされているので、錆兎君が好きな女子からモブ子と錆兎君を間違ってもくっつけるんじゃないと脅されたりするのを回避して自分の心身ともの平和を守るために、その役割を積極的に受け入れていた。

義勇君が常に一緒にいることに関しては、女子達も確かに一緒に居すぎとは思っても、まあ同性だからね…という気持ちがあるらしい。



ということで、モブ子は日々彼らを楽しく観察していた。

親同士も幼馴染だという彼らの家では、義勇君が体調を崩したりして薬を持たせる時でも錆兎君にお願いするようになっていた。

なにしろ義勇君はかなりおっとりしたやんごとないお子さんなので、義勇君だと忘れてしまう昼の薬は当然のように錆兎君のかばんの中からでてきて、薬を飲むように持参していた水もまた、錆兎君が持っている。

自身は乗り物酔いもしなければ体調も崩さず皆勤賞な錆兎君が薬を持ち歩くのは、たいてい義勇君用なのだ。

義勇君用の薬を持ち歩くだけじゃない。
驚くほど丈夫な錆兎君は少し寒いなと思えば当然のように義勇君に自分の上着を羽織らせたりすらしている。
それはもう幼い頃からの習慣ということで、錆兎君はいつでも当たり前に義勇君の世話を焼いていた。
モブ子的にはもう、大満足の日々である。


中学の運動会。
応援団長として長い学ランを着た錆兎君のカッコよさに女の子たちが黄色い悲鳴を上げる中、錆兎君がにこやかに笑って手を振る相手は義勇君一択。

全員参加のリレーの前、他の競技ならとにかくとして、リレーは自分がミスをしたり遅かったりするとクラス全体に迷惑がかかるからと緊張に震える義勇君に駆け寄って

「義勇、顔色悪いけど大丈夫か?震えてるけど寒気がしたりしてないか?」
と、義勇君の顔を覗き込むのも通常運転。

「…薬いるなら取ってくるぞ?」
と、さらにいう錆兎君の気づかわしげな表情に、女生徒達が

──錆兎君、優しい、カッコいい
と、小さく嬌声をあげる。

(そうだろう、そうだろう、奴はこのモブ子さんが推しの相手に選んだ男だからな!)
と、モブ子はそんな彼女達の反応を見て心のなかでそう呟くとドヤ顔で頷いた。

そんな反応が上がる間も、彼らのやりとりは続いていく。

「…大丈夫。…すこし…緊張しているだけ」

義勇君が少し青い顔で胸元を手で押さえると、錆兎君はその手を自分の両手で包み込んで

「…手、緊張で冷たくなってるな。
心配するな。誰がどれだけ遅れたってアンカーが俺だからな。
絶対に取り戻すからうちのクラスは一位になれるから」

と、その手を自分の口元まで持っていくと、はぁ~と息をかけてさすってやっていて、女生徒みんな悶絶だ。

もちろんモブ子はそのやりとりを心の日記帳にしっかりと書いている。


そうしているうちに整列時間になって、それぞれのスタート位置に分かれる瞬間、最後のとどめに錆兎君はしゅるりと自分の鉢巻を取ると、

「遅れても全然大丈夫だが、義勇が転んだり怪我しないためにお守りな。
俺の代わりにお前を守ってくれるように、これ身につけてろ」
と、義勇君の頭から鉢巻をとって自分のを結ぶと、自分は義勇君の鉢巻を結ぶ。

そうして、
「これで大丈夫。安心して走ってこい」
と、ぎゅっと義勇君を抱きしめると、錆兎君は色違いのたすきをかけたアンカー達が集まる地点まで走っていった。

「「義勇君っ!!錆兎君の鉢巻譲ってっ!!」」
と、そこで女生徒達が義勇君に押し寄せる。

いきなり詰め寄ってくる女生徒達にビクゥ!と怯える義勇君を見て、同じ地点からのスタートだったモブ子はその前にたちはだかって彼をかばうが、

「「モブ子邪魔っ!あんたには関係ないでしょっ!!」」
と今度はモブ子の方に女生徒達の殺気立った視線が当然のように向けられた。

が、そこで少し離れたところから村田がすかさず

「あのさぁ…そういう話…男子から錆兎に行くだろうし、普通に引かれると思うけど…。
冨岡だって借り物を勝手に貸すわけにもいかないし、ほら、錆兎が何事かとこっち見てるよ。
散らないとそろそろ駆けつけてくると思うけど」

と、いうと、事実こちらを…というより義勇の様子を気にしている錆兎がこちらに視線を向けかけていたので、みな蜘蛛の子を散らすように散っていった。

こういうときの仲裁に関しては村田は慣れもあって非常に上手い。

「さすが村田!」
と、モブ子が言うと、
「錆兎もいい加減自分の行動が巻き起こす結果を察して行動してくれないかなぁ…。
頭良いのにそのあたり全然で、俺、今に巻き込まれで誰かに刺されそうな気がするんだけど」
と、村田が眉尻をさげていう。

それに
「骨は拾ってやるから」
と、エールを送るモブ子に
「や~め~て~!!」
と叫ぶ村田。

1人アンカー地点でこちらを気遣わしげに見ていた錆兎はそんな二人の様子を遠目に確認すると、安心したのか小さく笑って視線と注意を前方に戻した。

ということで、アンカーに渡った時点では4,5mくらいの差で2位だったモブ子達のクラスだが、アンカーが抜かしてそのまま快走。
ぶっちぎりで1位だったことで、また大騒ぎだったのはいい思い出だ。

そうして5月に運動会が終わって翌月末には3年生は修学旅行、京都奈良。
モブ子にとっては絶対に見逃せない重要行事。
推しを一日中間近で観察できる重要行事が間近に迫っているのである。




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