清く正しいネット恋愛のすすめ_183_亜紀の贖罪2

そう、自分が加担したあの出来事のせいで、本来はそのまま共学科に進級予定だった錆兎の人生を変えさせてしまった、それは事実で許されざることだ。

亜紀は体育祭のあと、何度もそのことについては直接謝罪して、そのたび錆兎は笑って許してくれているのだが…。


自分達のせいで居心地が悪くなった錆兎がいなくなったことについて語ったあと、亜紀はさらに話を先に進めた。

「サビト君がいなくなったあとも、その同級生はちょっと気が合わない子とかに意地悪したりしてたんですけど、私は何というか…こういうこと繰り返しているとダメだなと言うのもあるけど、怖いな…と思い始めて、小等部になって彼女の周りに他にも女子が集まるようになったあたりで、少しずつ距離を取って行ったんです。
彼女は…う~ん…すごく目立つ子で、すごく仲が良くなる子も多い反面、同じくらいの子に嫌われている感じ?
本来は私みたいな地味な女子と居るタイプじゃないし、小等部以降は彼女は輪の中心にはいたけど、彼女と距離を置いている子もわりあいと居たんですね。
だから、積極的に関わっていこうとせず目に留まらないようにすれば、彼女とあまり関わらないことも不可能ではなくて、小等部の間は目立たないようにクラスの片隅で生物係としてひっそりとウサギと戯れてました(笑)
中等部まではそんな感じでなかなか平和だったんですけどね。
高等部の……ん~~…1学期が半分過ぎた頃かな、嵐が起きまして…」

「嵐?」

「ええ。
今までずっと共学科に寄りつかなかったサビト君が、いきなり共学科の玄関で誰かを待ってたんですよ。
もうそれを1人が見つけたあとは、クラスの女子の半数は大騒ぎで。
幼稚舎からの持ち上がり組はもちろん別の科に行っても憧れてる子多かったし、彼の所属する科では中等部時代に生徒会長やってて行事の時には共学科でもみかけたりしてたから、それで憧れる子もいたし…
そんな女子達はみんな窓に群がるわけなんですよ。
私も思わず見に行っちゃいましたけど、久々に見るサビト君、本当にカッコ良かったですね。
でも私はただ眺めていたいだけの人間で…考えてみれば、別に自分がその隣にとか想像したことなかったな、そう言えば…と、その時に今更ながら気づいたんですよ」

「そう…なの?」
と、アオイが聞くと、アキは

「だって…彼の隣に立っていたらどれだけ怖い目にあうかって言うのを、目の前で見てきましたし」
と、苦笑した。

「あ~、確かに」

「だからサビト君を眺められるのは楽しいなと思いつつ、また“彼女”が暴走したら嫌だなとか思ってましたね、当時。
すごく性格が良くないのは重々承知してますが、やっぱり巻き込まれたくないな…と」

「うん、でもそれはしょうがないんじゃないかな。
私でもそう思うよ。
でも…今こうしているってことは、結局巻き込まれた?」

「…巻き込まれたというか…自分から飛び込んじゃった感じ…ですか」
「自分から?」
「そう、自分から」
「どういうこと?」

「えっとね…」

これ、言っちゃっていいのかな?良いよね、公然の秘密だし…と、亜紀は苦笑する。

「サビト君が待ってたのはギユウちゃんで、当時のギユウちゃんはちょっとトラブル抱えてて…そう、それを知った後輩がレジェロでサビト君に相談を持ち掛けてくれたそうなんですよ。
レジェロが2人の出会いなんです」
と、言う亜紀の言葉に、アオイがおおーー!!!と歓声をあげた。

「まあそのあたりはちょっとおいておいて、結局サビト君はそれをきっかけにギユウちゃんとお付き合いを始めて、ギユウちゃんをフォローするために再度共学科に舞い戻ってきたんですけど、共学科には…」

「例のサビト君の過激派ガチ恋女子がいるわけねっ」

「ですです。
で、まあ、チクチクと嫌がらせが始まるわけなんですが…最後は…体育祭の時にギユウちゃんの靴にミミズいれまして…」

「ミミズってっ。
前回は確かダンゴムシだったよね。
虫好きだよね」

「ですねぇ…それで…次の競技に出ることになっていて、でもミミズシューズじゃ走れないと困ってたので、私の靴を進呈しました」

「え?それ大丈夫なの?
アキちゃんもいじめられたりしないの?!」

「ん~~その時はそれも覚悟してましたねぇ…
だってね、なんというか…日々、幼稚舎時代から憧れてた推しの素敵な姿見せてもらえてたから…昔の贖罪とそのお礼?」
と、亜紀が言うと、隣で空太がプスっと笑って
「アキ君…行動原理が面白いよね。
僕の時もそれ言ってたし…」
と、言う。

「え?なに、なに?!」
と、身を乗り出すアオイに、空太はやっぱり笑いながら

「学祭の時に役員が担当決めて生徒会室の留守番するんだけど、僕の担当の時にふらっと覗きにきて、僕がPC眼鏡かけて作業してるのをカッコいいって言ってくれたんだ。
だから、女性に褒めてもらったらやっぱりお礼をと思って、お礼をと思うからちょっと変わってもらっていい?って言って、ジュースと菓子を調達してきたんだけど、彼女、なんで僕が戻って来たかもわからない様子できょとんとしているから、褒めてもらったお礼だって調達してきたものを渡したら、『あ~、私がお礼言われるほうだったの?お礼に留守番代わってくれっていうことかと思った』ってね。
僕は意味がわからなくて、『僕は君にお礼を言われるようなことしたかい?』って聞いたら、『眼鏡カッコ良かったから、良い物見せてもらったお礼かと思ってた』って」

「あははっ!!!
なんかアキちゃん、天然すぎ?!」
と、それを聞いて爆笑するアオイに空太も
「僕もそう思うよ」
と笑いながら頷いた。

亜紀1人がそれに
「違います~!
だって、綺麗で素敵なものを眺めて過ごせるって良いじゃないですかっ!
メガネ男子って人気だしっ!
ギユウちゃんは…天然美少女だから、しっかり者のサビト君の横に並んでお守りされている図をみると、良質のファンタジーを直に見てる気分になれて幸せなんですっ。
推しカプの家の壁になりたい、空気になりたい、天井になりたい、あるいはそれこそ学祭の時みたいに推しカプの家のメイドになりたい!!って、推しを拝みたいファンの夢じゃないですかっ。
普通の感情ですよっ!
モブタロウ君達も理解してくれました!」
と、熱く異議を申し立てる。

そこから亜紀の独壇場が始まった。


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