清く正しいネット恋愛のすすめ_182_亜紀の贖罪1

亜紀は大勢の弟妹の姉で長子だった。

だから下の弟妹達の模範となるべく、いつも正しい道を取ることを求められたし、それでいて、相手に譲ることを同時に求められて育った。

結果…真面目で羽目を外さず相手によく合わせる…しかしとても臆病な人間に育ったように思う。

そんな彼女が幼稚舎の頃に犯した間違い。
ずっと正すことができないまま逃げ続けていたそれを正すきっかけをくれたのが、本人達はそれを意としていなかったとしても、錆兎と義勇なのだ。

特に自分が武藤まりの口車に乗ったことで結果的に共学科を離れ、男子科に移籍させてしまったのに、今現在それを許してこうやって仲間に入れてくれている錆兎には感謝してもしきれないし、出来れば恩を返したい。

たとえそれが自らの過去の悪事を暴露した結果、自分を攻撃してくる人間を生み出すことになっても……

にこにこと表の穏やかさとは裏腹に、そんな悲壮な決意を胸に、亜紀は今回のレジェロの運営の広報の女性のインタビュー依頼を承諾していた。



「私ね、幼稚舎組なので、最初はサビト君推しだったんですよ。
ギユウちゃんは小等部からなので、当時はいなくてね。
…というか私だけじゃなくて…あの頃の共学科の幼稚舎の女子のほとんどの子の初恋の相手はサビト君だったんじゃないかな。
何でもできて顔も良くて…とにかくカッコ良かったんです。
もう、今でいう”初恋泥棒”っていうやつですね」
と、当時を思い出しながら語る。

本当に今思い出してもカッコ良かった。
亜紀は伊藤なので“い”、錆兎君は鱗滝で”う”で、名字が共にア行で近かったため、名前順で並ぶ時はいつも隣だったので、周りの子に羨ましがられたものである。


「あまりにカッコ良すぎて、サビト君を独り占めしたい女の子がバトルを繰り広げちゃうくらい…」

「アキちゃんも?」
と、アオイに聞かれて亜紀は首を横に振る。

「いえ、私は競えるような子じゃなかったので…。
ただ、憧れてるだけでしたね。
というか、サビト君の過激派の女の子が近くにいて、彼女に協力を求められちゃって、自分が彼女に…とか、そんな雰囲気じゃなくて…」

「アキちゃん人好すぎじゃない?」

「いえ、なんていうか…えっと…」
と、そこで亜紀は言葉選びに悩む。

そして結局シンプルに
「流されて悪事に加担しちゃったので、人は好くないと思います」
と、一番伝えるべきと思ったことを口にした。

それを口にするのは正直怖かった。
それでも亜紀はもともと、アオイの側からインタビューを依頼される前から、この話をしようと思っていて、その事と共に、どう話すかを空太に何度も相談して、相談に乗ってもらって決めた方向性の話をするつもりであることを、錆兎にも申し出ている。

それは…行方をくらました武藤まりを彼女が暴漢乱入事件に関わっているということを隠しながらも探したいなら、彼女が危険人物であると言う方向ではなく、彼女がこれまでの行動で恨まれていて危険な状態にあるという形にすれば、ただの家出よりも少しでもインパクトがあって真剣に探してもらえるだろう…そう考えた亜紀の案だった。


もちろん彼女の恨まれる理由を語れば、亜紀の幼稚舎時代から語ることになるし、錆兎は反対してくれたが、
「まあ、亜紀君には僕がいるしねっ!
安心してくれたまえっ」
と、空太が寄り添ってそう請け負ってくれたので、錆兎からもGOサインが出た。

それでも自分の昔の悪行を公にとなるとやっぱり怖くて、顔にはなんとか笑みを作っているものの、手が震える。

しかし、それに気づいた空太が、大丈夫!と言うようにポンポンと握り締めたこぶしを軽く叩いて微笑みかけてくれて、それに勇気づけられて亜紀はともすればうつむいてしまいそうになる顔をしっかりとあげてアオイに視線を向けた。


「悪事って…でも幼稚園児の頃ならみんな悪い事の一つや二つやってるでしょ?」
と言うアオイの言葉に、亜紀はまた首を横に振って言う。

「そういうの…超えてたと思います。
彼女はサビト君を他の子に取られたくなくて、最初は近づいてくる子とかに意地悪してたりしたんですけど…」

「意地悪って?」
と、挟まれるアオイのあいの手に

「ん~…物隠したり…あとは靴にダンゴムシいれたりとか?
そのいれるためのダンゴムシ集めとか手伝わされました」
と、苦笑すると、アオイが笑う。

「それは…本当幼稚園児の意地悪って感じだよねっ。
でもさ、幼稚園児だと意外にダンゴムシ好きな子多くない?
相手によっては逆効果になりそう」

「そうですねぇ…でも私実は虫は好きじゃなくて…あれは自分もかなりダメージ受けたと言うか…嫌だったなぁ…」

「ええ~。
自分が好きな相手のこと好きな子のために、自分が嫌いな虫集めしちゃうって、アキちゃんめちゃ優しい幼稚園児じゃない?」

「いえ…でもそれ、他の子への嫌がらせのためなので…。
単にNoって言えない子だったんです。
嫌って言って自分が嫌がらせの標的になったら怖いじゃないですか…」

「あ~、確かに。
でもそういうのあるよねぇ…。
いじめっ子に協力求められてNoって言うのって勇気がいるのはわかる。
私もさ、強いほうじゃないし…。
で?今はサビト君の彼女のギユウちゃんと友達なわけじゃない?
何がきっかけで脱イジメから、本来嫌がらせ対象の子と仲良しに?
いじめっ子がいなくなったの?」

「えっと…最初いなくなったのはサビト君の方で…」

「へ????」

「その子がやりすぎて、女子がみんなサビト君に近づくのを怖がってみんなして避けたせいで、サビト君、小等部から別の科に移籍していなくなっちゃったんですよ…」



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