まるで蔦子姉さんの貸してくれる少女漫画の世界のようにロマンティックな夢のような空間と時間。
でも指をかざせばそこには2輪の青い石入りの金細工の薔薇が光っていて、それが夢でないことを実感する。
ムフフっと廊下で思わず笑みをこぼすと、目の前の女子部屋のドアが開いて、楽しそうな蜜璃とどこか心配そうな顔の亜紀が顔をのぞかせた。
と、義勇を招き入れながらソワソワとしている亜紀。
パタン!とドアを閉めたあと、かなり真剣な様子で
「…義勇ちゃん…もしかして…ポッキーゲーム以上の展開になったのかしら…?」
と、義勇の両肩を掴んで"お姉ちゃんの顔"で聞いてくる亜紀の勢いに押されつつ、義勇がコクコクと頷くと、亜紀は、両頬に両手を当てて、ああ!!と、ずいぶんとショックを受けたような顔をした。
「とりあえず座ってね。あとは…錆兎君ならそのあたりちゃんとしてくれてるとは思うけどっ…それでも100%大丈夫ってことはないから、明日、念のため病院に行きましょうねっ」
と、どこか泣きそうな顔で言う亜紀に、義勇は
「えっと…亜紀ちゃん、まだ錆兎の事好きなの?」
と、何故泣きそうになられるのかわからずに聞いたが、亜紀は
「そうじゃなくて…」
と、やっぱりオロオロと泣きそうになりながら言う。
「万が一にでもね、赤ちゃん出来ちゃったら大変でしょう?」
と、そこでようやく理解が追いついた。
「ち、違うっ!
えっとね、ポッキーゲーム以外ってこれのことっ!」
と、義勇は亜紀の前にリングのはまった指をかざして見せた。
途端に勘違いに気づいて真っ赤になる亜紀。
「あ、え、ああ!!ごめんねっ!お姉ちゃん勘違いしちゃった……じゃないっ!
お姉ちゃんじゃなくて…」
ひどく動揺してワタワタしている亜紀に蜜璃が笑いながら
「亜紀ちゃん、わかるわぁ!
なんか妹オーラいっぱいの義勇ちゃんを前にすると、なんか自分の妹のこと心配するお姉ちゃん心が出ちゃうのよね」
と抱きつく。
ああ、たぶん、亜紀が心配したようなことを想像したら、姉の蔦子も同じ反応をするに違いない。
そう思うと、なんだかおかしくなって、義勇もむふふっと笑った。
「とりあえず…みんなで報告会しましょっ」
と、蜜璃に促されて、とりあえず全員でテーブルを囲んでお茶を煎れる。
「まずお姉ちゃんズの疑惑が晴れたところで義勇ちゃんから?」
と、蜜璃がフフっと笑って、亜紀は
「もうっ!勘弁してよ…蜜璃ちゃん」
と、真っ赤な顔を手で覆う。
これまでの人生でこんな風に友達と親しく話すなんてこと、全くなかったので、義勇はどちらにしても楽しい気分で、実は錆兎が初めてのキスなのにポッキーゲームで良いのか?と気遣ってくれたところから、屋上の温室のこと、そこに用意されていたオシャレな空間のこと、高級そうなティーセットや薔薇の花、美味しそうなプティフールのことに至るまで、全てを話して聞かせた。
「「う…わあああ」」
と、揃って感嘆の声をあげる蜜璃と亜紀。
「でも…薔薇って青色のはないんじゃなかった?」
と目を丸くする蜜璃に、
「たぶん…白い薔薇を青い水につけておいたんじゃないかな?
そうすると水を吸って花弁が青くなるってきいたことある」
と、亜紀が種明かしをする。
「「おお~~亜紀ちゃん、物知り!」」
と、今度はその亜紀の知識に蜜璃と義勇が感心してぱちぱちと拍手をする。
「あとはね…108本の薔薇の花言葉はね、【結婚してください】
101は…知らないなぁ…ちょっと待ってね」
と、さらに薔薇の本数ごとの花言葉まで披露したうえで、知らない本数を調べてくれる。
「あ、あった!101本はね、【これ以上ないほど愛しています】だって!
錆兎君、すごくロマンティストなのね」
と、調べたスマホの画面を義勇と蜜璃に向けて言う亜紀の言葉に、蜜璃が
「素敵っ…きゅんっ!としちゃうわね」
とうっとりと両手を組む。
その後、蜜璃がご当地ものまで揃えてくれていた小芭内の話をしたり、亜紀が訪ねた時には産屋敷学園大の数学の受験問題を解いていた空太の話をしたりと、それぞれのポッキーゲームのエピソードで盛り上がりつつ、1人、また1人とパタパタといつのまにかベッドで寝落ちて、乙女3人の楽しい夜は終了したのだった。
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