清く正しいネット恋愛のすすめ_159_ポッキーゲーム_蜜璃編

11月11日…世の中のリア充がポッキーを端と端から食べて最終的には途中で逃げるか、最後まで進んで口づけるかというポッキーゲームなるもので盛り上がる日である。

そして…この日のために前日にポッキー購入を依頼した乙女が3名。


「色々悩んだけど…やっぱり目的がはっきりしている以上、シンプルなタイプが一番よねっ!
他のイチゴ味とかアーモンド入りとかは、目的を果たしたあと、報告がてら皆で食べましょうっ!!」

夕食後、幸運を祈るっ!!と、まるで戦場に行く決死隊のような表情で、赤いポッキーの箱を握り締めて各々の彼氏の部屋に向かう乙女3人。
いや、ある意味決死隊なのかもしれないが……



「伊黒さん、私よ。今、ちょっといいかしら?」

コンコン、と、軽くノックをしたつもりが、思いのほか力が入ってしまって、ゴンゴン!!と、ドアをぶち破りそうな重いパンチになってしまったところに、元々足音も立てずに移動する伊黒が急いでドアを開けたため、勢い余って伊黒に突進。

伊黒が自分よりやや大柄な彼女の勢いを受け止められず、そのまま二人して床に倒れ込んだため、甘露寺の手から離れて宙を舞うポッキーの箱。

…ああっ!!!
と、なすすべもなくそれを追う甘露寺。

トス…と、フローリングの床に落ちた箱に慌てて飛びついて中身を確認したが、細いそのスティック状の菓子の中身は、ほぼ折れてしまったようで、その折れた中身と一緒に心が半分折れた乙女は、じわりと目に涙を浮かべた。

ヒックヒックとその場にへたり込んで泣く彼女に慌てて駆け寄った伊黒は
「受け止めきれずに本当にすまない。
どこか痛くしたか?
救急車を呼ぶかっ?」
と、ひどく動揺した様子で彼女の顔を覗き込む。

「違うの…違うのよ、伊黒さん。
ポッキーが折れてしまったのが悲しかっただけなの…」
と、涙で濡れた顔でそんな彼を見上げる甘露寺に、伊黒はホッとした様子を見せて、

「そうか。せっかく甘露寺が用意したものが折れてしまったのは残念だが、俺も甘露寺はこの日にポッキーを食べるのが好きだからと思って、ポッキー各種を用意しておいたんだ。
食べてくれるか?」
と、いそいそと机に置いてあった紙袋から、様々な種類のポッキーを出してきた。

定番のチョコやイチゴ、アーモンドの他にも、なんと伊予柑などというご当地ものの限定販売らしいものまであって、食べることが大好きな甘露寺は、『まあっ!美味しそうっ!!伊予柑味なんて初めて見るわっ』と、目を輝かせる。

「どうせなら色々あった方が良いかもと思って、ネットで取り寄せておいたんだ。
好きなだけ食べてくれ」
と、そんな嬉しそうな彼女を、それ以上に嬉しそうな顔で見つめながらそう言う伊黒。

「嬉しいわっ!いただきますっ!!」
と、山盛りのポッキーを前に手を合わせる甘露寺。

そしてまずは珍しいからと伊予柑味を手に取ってピリッと袋を開けてオレンジ色のそれを一本口に入れかけてハッとする。

「ち、違うわっ!!」
と、いきなり手を止めて叫んだ彼女に、
「伊予柑味は苦手だったか?」
と、慌てた様子で言う伊黒。

それに甘露寺はブンブンと首を横に振った。

「えっとね、今日、伊黒さんを訪ねてきたのは……」
と、そこまでは勢いよく言ったのだが、急に羞恥が押し寄せて来たらしく、真っ赤な顔で俯きながら

…伊黒さん…ポッキーゲームって……知ってる、かしら…?
と蚊のなくような声で言う。

「あ…ああ…………その…冨岡達とそんな話になったのか…?」
こちらも少し顔を赤くして言うと、甘露寺はまたブンブンと首を横に振った。

「…ち、違うの…。言い出しっぺは私…なの。
ずっと…ずっと、ね、伊黒さんとやってみたいなぁって……」
プスプスと湯気が出そうなくらい頬を赤らめて言う甘露寺に、伊黒は甘露寺が手にしたオレンジ色のスティックを取り上げて、

「気が利かなくて甘露寺に気まずい思いをさせてすまない。
これでいいだろうか…」
と、相変わらず顔を赤くしながらも、チョコのついていないほうを自分が加えて甘露寺に顔を向ける。

そうして甘露寺がポッキーをくわえると、やや甘露寺の方が速い速度でカリカリと進み、最後に、ちゅっと軽いリップ音と共に離れたあとに、ふわりと嬉しそうに笑う甘露寺。

「嬉しいわっ。ずっとね、夢だったのよ。
普通のキスも素敵だけど、こういうの、美味しいし楽しいし幸せだわ。
来年も…してくれる?」
と花のような笑みを浮かべて言う恋人に、彼女命の伊黒が否というわけがない。

「今年は伊予柑味だったから…毎年違う味の物でするのもいいな」
と、返すのに、食いしん坊の彼女は大いに同意して、頷いたのである。


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