寮生は姫君がお好き73_スウェーデンリレー本番

そうして仕切り直し。

スタートの合図が鳴り響いて、一斉に駆けだす6人の姫君。

確かに早い。
圧倒的に早い無一郎。
短いスカートの裾を翻して風のように疾走して行く。


金竜の姫君はおそらく走りやすさを重視してピックアップしたのだろう。
今年はアラジンと魔法のランプに出てくる姫君のような衣装をまとっていて、長い脚をフルに生かした綺麗なフォームでそれに並ぶ。

金狼と金虎はそれぞれ走るのに向かない裾の長い衣装で、早く走る事を放棄しているらしく、その代わりに綺麗な裾さばきで美しい走りを見せていた。


そして最後に銀虎の煉獄。
こちらもあまりに衣装を気にせずに走るのはNGと宇髄に散々言い含められたらしい。
裾が広がり過ぎないように手で抑えながら、仏頂面で後続組と一緒に走っている。


そんな他の5人の事など一切目に入れることなく、義勇は視線をまっすぐ錆兎に向けてひた走る。

ヴェールをたなびかせ、息を切らして一心に…

これは他の走者なんて関係ない。
自分はあの腕の中に戻るために走るのだ。

近づいてくるその美しくも精悍な姿。
必死に走っていくと、その大きな手を広げて待っていてくれる。


さびと…錆兎…錆兎っ!!!

すぽん!とその腕の中に飛び込むと、第二走者の寮生は気を利かせて義勇の手に握られたままのバトンを手に取って走っていった。


「姫さん、お疲れさん!
一生懸命急いでくれたんだな。
汗いっぱいかいてる」

微笑みながらそう言って、錆兎はポケットからハンカチを出して義勇の額にかいた汗を拭いてくれる。

「もう大丈夫。
あとは俺が勝利者の座へご招待してやるからな」
と、軽々と抱き上げられ、義勇は安堵の息を吐きだして、その肩口に頭をあずけた。
錆兎はそれにも小さく微笑んで、今度はアンカーのバトン受け渡し地点へと足をむけた。


自分が何位だったのかとか、今何位なのかとか、そんな事は全く気にならない。
だって、今が何位だろうと、錆兎がいれば絶対に優勝できるはずだ。


そうしてアンカーの待機場所で第三走者の炭治郎が来るのを待つ。
今度は錆兎は義勇を横抱きにするので両手がふさがっているので、バトンを受け取るのは義勇だ。

「将軍、今からお姫ちゃん抱っこ?
ほんと体力有り余ってるねぇ」
と、姫君を横に笑う金虎寮の童磨。

「錆兎が体力あって姫君が軽い。
この両方が揃ってるからこそだよな」
と言うのは、銀竜の村田。
もちろんその隣には、そうだね、と、微笑む無一郎。

どうやら義勇は3位だったのだろう。
他の姫君達はまだこちらに来ていない。

第二走者の位置まで迎えに来てスタンバっていたのは錆兎だけらしく、他の寮長達はそれぞれ1人で手持無沙汰気味だ。

その中の1人、宇髄は村田の言葉に大きく頷いた。

「ほんとに!!
錆兎でもうちのゴリプリ抱えて全速力は絶対に無理だよなぁ。
俺無理すぎて背負って行く事にしたわ」

「あはは、確かに銀虎は姫君っていうより皇帝の方がが似合いそうなくらいウェイトありそうだよね」
と、笑う童磨に

「笑い事じゃねえ。
アレ抱えて800とかマジ辛いわ。
他の銀の姫ならその倍でも全力疾走余裕なんだけどなぁ」
と、宇髄はがっくり肩を落とす。

そんな話をしているうちに他の姫君達も到着。
バトンはトップグループが第二走者から第三走者へ。
少し遅れて銀狼も炭治郎にバトンが渡った。


「頑張れ~!!炭治郎っ!!!」
思わず錆兎の腕の中から声援を送る義勇。

「単独じゃなくても最低トップグループに入れよ~!!」
と、錆兎も叱咤激励する。

声はおそらく聞こえているのだろうが、そこで余分な事をせず、順位をあげる事に最善を尽くすのが炭治郎である。
黙々と走り、300mほどでトップグループに追いつき、そのままペースをあげて追い抜いてトップに躍り出る。

「あ~、こりゃあ優勝は持って行かれるか~」
と額に手をやり天を仰ぐ金虎の童磨。

「まあね、これをトップ取ったとしても、銀狼がビリにでもならない限りは、どちらにしても点数的に銀狼は抜くの無理だけどね」
と、最終的には諦めモードで肩をすくめる。


そうしてトップで駆け抜けてくる炭治郎に歓声をあげながら、義勇がバトンを受け取った瞬間、義勇の重さなどまるで感じてなどいないように、800mを風のように走りきる錆兎。

もう2位との差などつきすぎて自寮からは歓声すらあがらない。
むしろ他寮のため息があがる中、堂々とゴールを駆け抜けた。


Before <<<  >>> Next (4月3日公開予定)




0 件のコメント :

コメントを投稿