藤襲風スウェーデンリレー。
このリレーの第一走者は各寮姫君。
つまり義勇が唯一自分の足を使う事になる競技でもある。
100mと言えど各寮姫君達はそれぞれ様々な衣装をつけているので走りにくい。
が、姫君らしく飽くまで優美に…ということで、走りにくいと言ってもあまりに無様な格好で走るのはNGだ。
姫君らしく…が当然とされるため、その基準を守っている限り加点はないが、あまりにその基準を逸脱すると減点はある。
障害物の壁登りの時にスカートを引きちぎろうとした煉獄が宇髄に止められたのはそのためだ。
「姫さん、ドレス走りにくくて危ねえしゆっくりで良いからな?」
と、いったんテントに戻って、騎馬戦のために着た鎧風のサポーターを脱ぎながら労わるように言う錆兎に、義勇はニコリと微笑む。
「大丈夫っ!少し改良させてもらったからっ!」
裁縫は得意なんだ、と、言いつつ義勇はドレスのスカートの前の方の布を膝丈くらいになるように少したくしあげて、上の部分をウェストの大きなリボンの下に目立たぬようにつけた留め金で止める。
「おお~~!マレットドレスかっ!!
すごく可愛いな。さすが俺達の姫君だっ!!」
その姿に歓声をあげて義勇を抱き上げてクルクル回る錆兎。
前は膝丈で、後ろに行くほど長くなり、後ろは地面に広がるくらいのウェディングドレス。
地面についてしまう部分はどうやっても汚れそうで忍びなかったので、こっそり裏地に丈夫なビニールをつけた。
こうして錆兎にエスコートされてスタート地点へ。
「じゃ、俺は姫さんがゴールする地点で待ってるから」
そこでぎゅっと義勇を抱きしめて額に口づけを落とすと、錆兎は第二走者のバトン受け渡し地点へ。
他の姫君達も続々とスタート地点に集合し、その場は一部を除いて華やかさに溢れる空間になる。
そう…その一部…金狼寮の姫君の善逸は義勇を見つけると早々に駆け寄ってきて肘まで真っ白なレースの手袋をつけたその手を取って
「義勇ちゃん、すっごく綺麗だなっ!!もう本当に姫君って感じだよねっ」
と、にこにこ笑い、その隣ではごついチャイナ服の銀虎の煉獄が
「俺が抱えて走りたいぐらいだなっ!
来年俺が寮長になった暁にはウェディングドレスを取りたいなっ!」
と、もう今年は何かを捨てて来年にかける意気込みを語る。
そこにさらに駆け寄って来たのは無一郎。
「あ~、マレットドレスか~。
走りやすいけどライン綺麗に出るし、良いね~。
俺も来年は検討しよ~」
と、こちらもおそらく改造済み。
走りやすそうなドレープが綺麗なハイウェストの膝上くらいの裾のドレスである。
そこでぎゅっと義勇を抱きしめて額に口づけを落とすと、錆兎は第二走者のバトン受け渡し地点へ。
他の姫君達も続々とスタート地点に集合し、その場は一部を除いて華やかさに溢れる空間になる。
そう…その一部…金狼寮の姫君の善逸は義勇を見つけると早々に駆け寄ってきて肘まで真っ白なレースの手袋をつけたその手を取って
「義勇ちゃん、すっごく綺麗だなっ!!もう本当に姫君って感じだよねっ」
と、にこにこ笑い、その隣ではごついチャイナ服の銀虎の煉獄が
「俺が抱えて走りたいぐらいだなっ!
来年俺が寮長になった暁にはウェディングドレスを取りたいなっ!」
と、もう今年は何かを捨てて来年にかける意気込みを語る。
そこにさらに駆け寄って来たのは無一郎。
「あ~、マレットドレスか~。
走りやすいけどライン綺麗に出るし、良いね~。
俺も来年は検討しよ~」
と、こちらもおそらく改造済み。
走りやすそうなドレープが綺麗なハイウェストの膝上くらいの裾のドレスである。
「無一郎のドレスも軽やかで可愛いと思う」
と、義勇が言うと、無一郎は
と、義勇が言うと、無一郎は
「俺もそう思うけどね。
でも来年は最上級生姫君だから優美さを追求したいかなぁって」
と、ふわりと微笑んだ。
さすが先輩姫君の無一郎だ。姫君の鑑だと思う。
義勇なんて今年どころか1イベント、1競技を乗り越えるので必死で、先々どんな姫君を目指そうなんて事、考えた事もなかった。
そんなやりとりをしているうち、競技開催が告げられて、全員がスタート地点に立った。
スタート地点に並んでスタートのピストルの音を待つ間…ひどく緊張する。
理由はもちろん、自分で走る唯一の競技…と言う事もあるが、これが個人種目ではなく団体種目であると言う事も大きい。
自分があまりに遅いと寮生達…特に参加している錆兎や炭治郎に迷惑をかける。
それだけは嫌だ…。
短距離走に限って言えば足は遅い方ではないが、他は上級生、もしかしたらそれに混じれば遅いかもしれないし、スタートダッシュで出遅れれば遅くなるかもしれない。
それでなくとも寮長皇帝の完璧さの横に立つにはあまりに不似合いな何も出来ない姫君の自分が、何も出来ないどころか足を引っ張るような事になったら、今は温かい寮生達の目も冷やかになるに違いない。
そんな冷ややかになった視線を想像して義勇は身震いした。
嫌だ…怖い…怖い…嫌だ……
よく晴れた初夏の午後。
太陽が燦々と照りつけていて暑いくらいのはずなのに、その証拠に義勇自身も汗をかいているくらいなのに…ひどく寒気がして震えが止まらない。
…う……義勇ちゃん…大丈夫?
気づけば柔らかい手がそっと腕を取り、優しい瞳が義勇の顔を覗き込んでいた。
「…あ…善逸……」
「顔色が真っ青だよ?大丈夫?競技を棄権した方が良くない?」
と、心配そうに言って腕を取る。
「だ…大丈夫…走れる…」
棄権なんてとんでもない。
競技自体を失格になってしまう!
そんなこと出来るはずがないっ!!
義勇はハッとして慌てて首を横に振るが、善逸はでも…と、眉根を寄せる。
そこに普段は後輩達のやりとりにはあまり加わって来ない金虎の姫君まで駆け寄ってきて
「まあこれは半分姫君のための競技だから棄権したくないってのはわかるけど、あたしたち3年と違って来年もあるしね。
リカバリはできるし?
寮の点数って事で言っても、銀狼は点数の配点が少ない短中長距離走も3つの総合3位、馬車引き1位、障害物1位、棒倒しは3位だけど、騎馬戦も1位だから、これを完全に落としてもギリ1位をキープできるから、そっちも大丈夫。
安心して休んじゃいなさいな、ちっちゃいお姫ちゃん」
と、撫でこ撫でこして説明してくれる。
それにおお~!と感嘆の声をあげる後輩達。
よく晴れた初夏の午後。
太陽が燦々と照りつけていて暑いくらいのはずなのに、その証拠に義勇自身も汗をかいているくらいなのに…ひどく寒気がして震えが止まらない。
…う……義勇ちゃん…大丈夫?
気づけば柔らかい手がそっと腕を取り、優しい瞳が義勇の顔を覗き込んでいた。
「…あ…善逸……」
「顔色が真っ青だよ?大丈夫?競技を棄権した方が良くない?」
と、心配そうに言って腕を取る。
「だ…大丈夫…走れる…」
棄権なんてとんでもない。
競技自体を失格になってしまう!
そんなこと出来るはずがないっ!!
義勇はハッとして慌てて首を横に振るが、善逸はでも…と、眉根を寄せる。
そこに普段は後輩達のやりとりにはあまり加わって来ない金虎の姫君まで駆け寄ってきて
「まあこれは半分姫君のための競技だから棄権したくないってのはわかるけど、あたしたち3年と違って来年もあるしね。
リカバリはできるし?
寮の点数って事で言っても、銀狼は点数の配点が少ない短中長距離走も3つの総合3位、馬車引き1位、障害物1位、棒倒しは3位だけど、騎馬戦も1位だから、これを完全に落としてもギリ1位をキープできるから、そっちも大丈夫。
安心して休んじゃいなさいな、ちっちゃいお姫ちゃん」
と、撫でこ撫でこして説明してくれる。
それにおお~!と感嘆の声をあげる後輩達。
「すごい!全寮の点数把握してるんですか?さすが3年」
と、驚く無一郎に、金虎の姫君は得意げに胸を張る。
「全部じゃないけどね。
自分のとこより上の順位の寮だけ。
どのレベルまでやれば抜かせるとかわかってると、最後の一気合いの入り方も変わるでしょ。
自分とこより下は見てないわ。考えても仕方ないから。
だからうちが今、走り系が総合2位、馬車引き2位、障害物が3位で棒倒しが1位、騎馬6位、総合3位ってことで、走り系4位、馬車引き4位、障害物同率1位、棒倒しが4位、騎馬2位で、今地味に騎馬の高得点が効いて僅差で総合で2位の銀虎まではチェックしてるわよ」
と、やはり自分より小さい無一郎の頭を撫でこ撫でこ。
ふわぁ…と驚いた目で感嘆の声をあげながらも、無一郎も大人しく撫でられている。
いったん進行が止まって血相を変えて駆け寄って来た錆兎にはもう一人の3年の姫君の煉獄が淡々と事情を説明してくれる。
そして事情を聞き終わった錆兎が駆け寄ってきて、ぎゅ~っと義勇を抱きしめた。
「体調が悪いの気づかなくてすまん。
俺が全部悪い。棄権しよう」
そういう錆兎に、義勇はふるふると頭を横に振って訴える。
「錆兎、違う、違うんだっ」
「…違う?」
その義勇の訴えに錆兎は少し身体を離して、義勇の両方の頬を自分の手で包むようにして、義勇の顔を覗き込んだ。
「…体調不良じゃないのか?」
と、言いながら、おそらく顔色、呼吸、その他チェックをいれている気がする。
と、驚く無一郎に、金虎の姫君は得意げに胸を張る。
「全部じゃないけどね。
自分のとこより上の順位の寮だけ。
どのレベルまでやれば抜かせるとかわかってると、最後の一気合いの入り方も変わるでしょ。
自分とこより下は見てないわ。考えても仕方ないから。
だからうちが今、走り系が総合2位、馬車引き2位、障害物が3位で棒倒しが1位、騎馬6位、総合3位ってことで、走り系4位、馬車引き4位、障害物同率1位、棒倒しが4位、騎馬2位で、今地味に騎馬の高得点が効いて僅差で総合で2位の銀虎まではチェックしてるわよ」
と、やはり自分より小さい無一郎の頭を撫でこ撫でこ。
ふわぁ…と驚いた目で感嘆の声をあげながらも、無一郎も大人しく撫でられている。
いったん進行が止まって血相を変えて駆け寄って来た錆兎にはもう一人の3年の姫君の煉獄が淡々と事情を説明してくれる。
そして事情を聞き終わった錆兎が駆け寄ってきて、ぎゅ~っと義勇を抱きしめた。
「体調が悪いの気づかなくてすまん。
俺が全部悪い。棄権しよう」
そういう錆兎に、義勇はふるふると頭を横に振って訴える。
「錆兎、違う、違うんだっ」
「…違う?」
その義勇の訴えに錆兎は少し身体を離して、義勇の両方の頬を自分の手で包むようにして、義勇の顔を覗き込んだ。
「…体調不良じゃないのか?」
と、言いながら、おそらく顔色、呼吸、その他チェックをいれている気がする。
その言葉に義勇が頷くと、今度は、こつんと義勇の額に自分の額を当ててみたり、ちょっとごめんな?と言いつつ義勇の目の下を指先でひきさげてみたりと、忙しい。
そうして納得したのだろう。
そうして納得したのだろう。
「何があったんだ?可愛いお姫さん」
と、それは緊張させないようにと言う事だろう。
優しい声音で少し笑みを浮かべて言う錆兎を、義勇はおそるおそる見あげる。
「…緊張…しすぎて…?」
「…は?」
笑みの形を作っていた藤色の目が、ぽかんとまんまるになる。
「だってっ…もしすごく遅れたら…っ」
いつだって失敗しない錆兎には、大丈夫だと思っても失敗続きの人生だった義勇のそんな心情はわからないだろう。
ぎゅっと錆兎のシャツの胸元を掴んでそう訴える義勇に、やっぱり錆兎はきょとんとしたが、自分の実感として理解できなかったとしても、寄りそって対策は考えてくれたらしい。
「お姫さん、こう考えろ」
と、指先で自分の首元、馬車引きリレーの終わりにぬいぐるみから外して自分につけた蝶ネクタイをいじりながら、錆兎は少しかがんで義勇に視線を合わせて言った。
「俺はゴール地点でお前を待ってる。
お前はゴール地点で待ってる俺に会いに走ってくるんだ。
俺はお姫さんの事すごく好きだから、お前がどれだけ遅くなっても絶対に待っている。
でもどうせなら早く会いたいだろ?
だから、姫さんが途中で走れなくなってしまわない程度に、お前にとって無理のない範囲で急いで会いに来てくれ。
別にこれは競争なんて考えないで良いから。
順位なんてどうでも良い。
確実に俺の元に姫さんが来てくれること、それだけが目的だ」
「錆兎に…?」
「そう。俺の所にだ」
そんなやりとりに目を丸くする上級生組。
(…将軍ってそういうキャラだったっけ?)
(…俺は本田ちゃんにも大概甘かった気はするけど…)
(いや、ここまでベタベタじゃなくなかった?)
(そこはほら、一応今回は相手が姫君だし…)
(…銀狼のお姫ちゃんまだちっちゃくて可愛いしね。お姫ちゃん仕様ってやつじゃない?)
などとこそこそと話している。
一方義勇の方はというと、
錆兎に会いに行く。
少しでも早く、どこよりも安心な錆兎の腕の中に戻るんだ…
そう思ったら、さきほどまでの不安な気持ちが霧散して行く。
そして
「うん。わかった」
と、義勇がこっくり頷くと、錆兎は
「じゃ、待ってるからな」
と、もう一度義勇を軽く抱きしめると、第二走者にバトンを渡す地点に戻っていった。
と、それは緊張させないようにと言う事だろう。
優しい声音で少し笑みを浮かべて言う錆兎を、義勇はおそるおそる見あげる。
「…緊張…しすぎて…?」
「…は?」
笑みの形を作っていた藤色の目が、ぽかんとまんまるになる。
「だってっ…もしすごく遅れたら…っ」
いつだって失敗しない錆兎には、大丈夫だと思っても失敗続きの人生だった義勇のそんな心情はわからないだろう。
ぎゅっと錆兎のシャツの胸元を掴んでそう訴える義勇に、やっぱり錆兎はきょとんとしたが、自分の実感として理解できなかったとしても、寄りそって対策は考えてくれたらしい。
「お姫さん、こう考えろ」
と、指先で自分の首元、馬車引きリレーの終わりにぬいぐるみから外して自分につけた蝶ネクタイをいじりながら、錆兎は少しかがんで義勇に視線を合わせて言った。
「俺はゴール地点でお前を待ってる。
お前はゴール地点で待ってる俺に会いに走ってくるんだ。
俺はお姫さんの事すごく好きだから、お前がどれだけ遅くなっても絶対に待っている。
でもどうせなら早く会いたいだろ?
だから、姫さんが途中で走れなくなってしまわない程度に、お前にとって無理のない範囲で急いで会いに来てくれ。
別にこれは競争なんて考えないで良いから。
順位なんてどうでも良い。
確実に俺の元に姫さんが来てくれること、それだけが目的だ」
「錆兎に…?」
「そう。俺の所にだ」
そんなやりとりに目を丸くする上級生組。
(…将軍ってそういうキャラだったっけ?)
(…俺は本田ちゃんにも大概甘かった気はするけど…)
(いや、ここまでベタベタじゃなくなかった?)
(そこはほら、一応今回は相手が姫君だし…)
(…銀狼のお姫ちゃんまだちっちゃくて可愛いしね。お姫ちゃん仕様ってやつじゃない?)
などとこそこそと話している。
一方義勇の方はというと、
錆兎に会いに行く。
少しでも早く、どこよりも安心な錆兎の腕の中に戻るんだ…
そう思ったら、さきほどまでの不安な気持ちが霧散して行く。
そして
「うん。わかった」
と、義勇がこっくり頷くと、錆兎は
「じゃ、待ってるからな」
と、もう一度義勇を軽く抱きしめると、第二走者にバトンを渡す地点に戻っていった。
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「金狼寮の姫君のは」←姫君の善逸はの脱字かと…💦
返信削除あと、錆兎の一人称が時々俺様になるのは何かの切り替えなのか察しが悪くて分からないです…(;_;
毎度ありがとうございます。
削除ええ、今回も盛大に脱字でした。寮の姫君の”善逸”は、ですね😅
時々一人称が”俺様”になってしまうのは、リメイク前の文章の一人称が”俺様”だからなのです💦