寮生は姫君がお好き74_ゴール後のやりとり

「姫さんっ、一等賞だぞっ!!」

鳴り響くゴールのピストルの音。
銀狼寮のみんなの歓声。

…そして、錆兎の満面の笑み。


もう、終わってしまった…なのか、やっと終わった…なのか、そのあたりはもう自分でもどう思っているのかわからなくなってきたが、色々がいっぱいいっぱいになって、義勇は弱いと自覚している涙腺が決壊してぽろぽろ泣きだした。


「…義勇、お疲れさん。いっぱい頑張ったよな」
優しい声音でそう言って、義勇を横抱きに抱えたまま、錆兎が頬にキスしてくれる。
それに義勇は泣きながらうんうんと首を縦にふった。

とにかくホッとした。
これで本当に終わりだ…と、義勇はぎゅうっと錆兎の首に抱きついた。


トップでゴールした銀狼組がそんなやりとりを交わしている間も、まだリレーは続いている。

二番手でゴールしてきたのは金虎。
次いで、金狼。
さらに金竜が4位でゴール。
それからかなり遅れて、ヨタヨタと無一郎を抱えた銀竜の村田がゴールする。

そして…その時点でまだ数メートル残っている最後の一組……


「…まるで大荷物抱えた山登りみたいな感じだよね…」
と、2番手でゴールしたため、もうすっかり落ちついた金虎の童磨。

「だな。もはや全力では走ってないな。というか、走ってるだけすげえわ」
「あれ…他の銀寮の姫君の倍くらいウェイトありそうじゃね?」
「持ちあげて進めるだけすごいですよ…。俺には無理。うち軽い姫君で良かった~」
と、他の寮長達も口を揃えてそんな事を話しながら、宇髄に同情の視線を送る。


「頑張れ~!!」
「あとちょっとだっ!ファイトっ!」
と、会場からも寮を問わず飛ぶ声援。

そんな中、姫君としては規格外に重い姫君を横抱きにした腕をプルプルと震わせながら、それでも足取りはしっかりと着実にゴールを目指す宇髄。

5位の銀竜の村田からかなり遅れてゴールすると、煉獄を早々に降ろし、

「あ・り・え・ねええーーーー!!!!」
と、地面に膝をついて天に向かって叫んだ。


そして、

「うんうん、君は頑張ったっ!!俺は本当に感動したよっ」
「本当に根性ありすぎだろっ!」
「…うちのヘタレな寮長より遥かにすごいな。金竜の寮長にスカウトしたいくらいだ」
「ホント、俺だったらもうゴールする以前に持ちあがらなくてスタート出来なかったと思う!」
などなど、他の寮長達からかわるがわる言葉が飛ぶ。


「無理っ!これあと2年間とかだったらマジ無理だったからっ!!
俺、今年3年でほんっと~に良かったわっ!
せめてリタイアOKか、せめて横抱きじゃなく背負うのOKなルール作れよっ!」

と叫ぶ宇髄に、寮長達も教師陣も

「あ~…横抱き出来ないレベルで姫君が育ってしまうのは前代未聞だからなぁ」
と苦い笑み。

「背負うんだと視覚的になぁ…。
これは寮長が姫君を大切にお連れするのを視覚的に楽しむって事に意義がある競技だから…
背負って良いならその方が楽だしなぁ…皆が背負い始めると、あまり見ていて楽しいモノじゃなくなる気がするんだけどな」

「…そうまで言うならお前らがうちのゴリプリ抱えて走れよっ」
と睨まれて、皆が視線を反らす。

「あ~じゃあな、」
と、そこで錆兎が見かねて口を挟んだ。

「どうしても無理な場合は、ハンデ有りで背負うのOKって事でどうだ?
例えば…背負った時点でもう横抱きの面々より順位が下って事で?
そうしたら寮長だって寮の点数稼ぎたいから、極力背負うのは避けるだろう?
自分の寮の寮生達の手前、軽々しく背負う選択できないだろうしな。
でも、寮生も認めるレベルでこれはもうそうしても仕方ないと思えるような状況なら、色々諦めて背負うって事で」

「あ~、うん、まあ、そうだな。
色々検討はしてみよう」

「そうしてやれよ。
今回は俺だからなんとかこなしたが、寮長が村田あたりなら終わってたぞ?」
とへたり込む宇髄。


だが、それには煉獄がいつものドデカイ声で
「論外だなっ!例えそういうルールが出来たとしても、全力を尽くさないで勝利を諦めるなんてありえなんだろうっ!」
と言う。

しかしそれに宇髄がすかさず

「じゃ、お前はまず20キロほどウェイト落とすところから全力尽くすかぁ?」
と返すと、煉獄は

「まあ、体格的にあまりに厳しいようならやむを得ないなっ!!
まあラストで点が取れなくとも他で総合1位になるよう努めれば良いわけだしなっ!」
と、速攻前言を撤回した。


そんな銀虎のやりとりを生温かい目で見守る一同…
ともあれ、こうして中1にとっては初めての寮対抗の行事、体育祭の全競技が終了した。


残るは閉会式と結果発表である。


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