寮生は姫君がお好き75_結果発表…そして

優勝した…!
初めての寮対抗行事に優勝したっ!!!

点数発表がなされると、すでに分かっていた事とは言え、銀狼寮のテントは歓声に包まれた。


なにしろ上級生達の寮を抑えての1年生寮の優勝だっ!!

高校生になるとだいぶ年齢差も少なくはなってくるが、去年まで小学生だった中学1年生と来年度は高校生になる中学3年生では体格差、能力差は大きい。

そんな勝利に沸く寮生達の中で、寮長としての初の対抗行事を終えて、錆兎もややホッとしているかと思えば、彼にとってはそれも極々当たり前のことだったのか特に変わった様子もなく、むしろ喜びすぎて羽目を外さないように、さらに次の行事も気を抜くことのないようにと寮生に注意、そして、ひどく緊張の続いていたらしい姫君を労わる事に忙しい。

そして、自身の反省も…。


競技者としては完全無欠。
事前の姫君の衣装選びも完璧。

競技に出す寮生の選別も適切ではあったと思うが、悔むとしたら1点だけ。
馬車引きリレーの内装点の優勝を逃した事だ。


あれはクレオパトラな金虎に持って行かれた。

古代エジプトの金細工や薄絹で絶妙な雰囲気を醸し出した馬車の室内で、美人と名高い姫君の見えそうで見えないという絶妙な露出の衣装。
色気と気品を兼ね備えてそれの評価が高かったのは、錆兎も頷けた。

確かにレースとフリルとぬいぐるみに囲まれた自寮の馬車内は、まだあどけなさの残る幼い花嫁姿の可愛いお姫さんにはとても似合っていたし決して他に劣るようなものではなかったが、この男子校の中であの金虎を超えるには、なんとかそこに色気も組み込まなければならない。

もちろん露出をさせたり変に媚びさせたりする気は絶対に嫌なので、そこはそこはかとなく感じる系の何か…それを考えることが来年度に向けての自分の課題である。


その代わり…審査員5名がそれぞれ選ぶベストシチュエーション賞では、最初の銀狼の宣誓、最後のリレーで姫君が自分に抱きついたシーンと、2つ取れているので、姫君のデモンストレーションと言う意味では上々だ。

まあ、俺達の姫さんは世界で一番可愛いしなっ!と、錆兎は至極当たり前の事としてそれを受け止めた。



そんな銀狼の寮長とは対照的に、1人考え込む金狼寮の寮長不死川実弥。

(…テント内の姫君の座席の背もたれと…馬車引きリレーの馬車内、障害物は的当てのうちが最初に投げる予定だった砲丸に仕込み針っつ~の以外は特になさそうだったが、そこまで内々のモノに仕込めるってことは……こりゃ、寮内部にヤバい奴がいる感じか?)

それは念のため…というつもりだった。

姫君は寮の象徴なので、それを狙った妨害工作というものは珍しくはないという。
なので、その護衛隊長とも言える寮長として実弥は善逸が座る場所、触る可能性のある場所全般を自ら調べたのだが、おそろしいことに姫君を守るべき寮生が設置したはずのテントだというのに、出るわ出るわ危険物。

これは…あるいは他寮の人間に買収されて自寮の姫君に攻撃を仕掛けている人間がいるということなのだろうか…

しかし金狼寮は姫君としても寮としても優勝候補とか上位寮とはほど遠い寮なので、何故そこまでされるのかがわからない。

強いて言うなら、寮長である自分が一般人で実家の後ろ盾がないので攻撃を仕掛けやすいというくらいだろうが、そもそもが競争にならない弱い寮に攻撃を仕掛けても仕方ないだろう。


同じような境遇である一般人の村田が寮長を務める銀竜寮にちらりと視線を向けてみるが、さしてピリピリしている様子もなく適度に姫君の無一郎の機嫌を取りながらのんびりと寮生達とおしゃべりをしているところを見ると、攻撃を仕掛けられているようには見えない。

…なんで自分の寮が?
と、不思議に思うし、なんらかの理由があるなら手を打たねばと思うが、自寮の中に裏切者がいるのかもと思えばもう相談する相手すらいない気がする。

…攻撃しかけるなら優勝候補だよな…例えば……

と、ちらりと同じ一年だが学園最強と言われる同級生の率いている銀狼寮に視線を映してみたが、寮長の錆兎はにこやかに姫君の世話を焼いているばかりで、特に警戒の色を見せてはいない。

もちろん姫君の手前、険しい顔も出来ないが、ずっと見ていても一瞬もそんな様子がないので、なんだか何もないように思える。

そうして体育祭自体はその錆兎率いる銀狼寮の圧勝で終わって、隣は勝利の喜びにわきあがっているが、ずっとちらちらと覗く実弥の視線に気づいたのだろう。
錆兎がちょいちょいとこちらに手招きをしてきた。

色々聞いて相談するならこの同級生以外にいない。
そうは思うのだが、こんな状況で善逸を一人にするのは危険すぎる。

実弥が首を横に振って、逆にちょいちょいと錆兎に手招きをして見せると、あちらも少し迷ったようだが、結局、彼がたいそう信頼しているらしい同じ道場の弟弟子に姫君を託してこちらに駆け寄って来てくれた。



(…どうした?”寮生に聞かれたくない込み入った秘密の”話なら、あとで寮の部屋にこっそり忍び込んでいくが?)

と、そばに来るなり不死川の耳元で小声で聞いてくる同級生の頭の回転の速さに、実弥は安堵のあまり泣きたくなってきた。

自寮の寮生より信用できる他寮の寮長である同級生。
持つべき者はやはり友だ。


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