一般人初心者ですが暗殺業務始めます1_プロローグ

「ちょっとそのバス待ってくれっ!!」
義勇は今にも出発しそうなバスに必死に駆け寄った。

これに乗れなければターゲットを見失う。
万が一それで作戦失敗すればリストラだ。

路頭に迷う…それは社会に出たことのない義勇からすれば死刑宣告にも近かった。



冨岡義勇17歳。

彼はかつては無敗の軍師として名を馳せた父亡きあと、その同僚の玉壺という人物に引き取られ育てられていた。

義勇の父が同期より早く出世したのは、元々盤の上で駒を動かすのが好きだった義勇の進言で戦局を有利に展開させられたためだということをよく知っていた玉壺は、父が事故死した時に義勇も死んだことにして義勇を手元に引き取り、その功績をまるっと自分のものにして現在は大佐にまで出世している。

それでも義勇は他の生き方など知らなかったし、なにより衣食住が保証され、仕事の時間以外は自由にできるしと、その状況に全く疑問も不満も感じずにきた。


が、ここ数カ月、無敗神話が敗れ、彼の人生に影が落ちる。
その原因こそが今回のターゲット、鱗滝錆兎だ。

普通ではありえない発想でかき回してくれる彼の行動のおかげで、義勇の綿密にして完璧な作戦がことごとく失敗し始めたのだ。

そうなると玉壺も手のひらを返したように冷たくなった。

そして最終宣告…今後1年以内に錆兎をなんとか出来なければ出ていけと言われて呆然…。

軍人だった父を含む家族を全員事故で失った義勇には軍を追い出されたら帰る場所などない。
父が亡くなった時に玉壺に引き取られて以来、基地内の一室で外に出ることも許されずにいたため、普通の日常生活など送った事はない。

当然ながらデータを解析して作戦を立てる…その他の生き方などしたことはない。


そして…これが一番重要なのだが、幼い頃から玉壺にこっそりと管理されていたため、必要な物資は与えられていたが、給料なるモノをもらった事がない。

そう…あれだけ貢献したにも関わらず個人資産がないというおまけ付きだ。
軍を追い出されたら野垂れ死に決定である。

ということで何としてでも鱗滝錆兎を仕留めなければならないのだ。


とりあえず…戦闘中がダメなら平常時に本人を殺るしかない。

幸い味方から情報を引き出す事はできるため、錆兎が休暇中で中立地帯のシーライト地域に来ているという事はわかった。

そこで時間もないことではあるしと、こうして取るものも取り敢えず飛び出してはきたものの、冨岡義勇…彼はスパイどころか一般人としても初心者であった。



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